143 / 220
Until the day when I get married.-New dark appearance-
第102話
しおりを挟む
ー*ー
私は目の前で泣いている人を放っておけなかった。
私と、同じだから。
もしかしたら私も、あの日カムイに見つけてもらっていなければ同じ道を辿っていたかもしれない。
そう考えると、なんとか心を救いたかった。
「メアさんは、一生懸命一人で努力してきたんですよね...?」
「それほどのものではないと思うけど」
「一人で生きるのは、とても大変なことです」
「きみには、経験があるの?」
「...はい」
いつも暖かい場所で過ごしている父親が、いつも美味しいものを食べている父親が、いつも私に暴力をふるう父親が...怖くてたまらなかった。
でももし、これが『怖い』ではなく『憎い』だったなら、間違いなく私も殺していたと思う。
「メルは俺が見つけなかったら死んでたんだ」
「...知らなかった。僕が見たのは一緒に笑っているところだけだったから、幸せに暮らしてきたんだと思ってた」
「それは、メルに俺の普通を教えたからだよ」
カムイが優しい目をしながらそう言った。
(カムイ...)
ー**ー
俺の普通でメルを染めてしまったことを、後悔はしていない。
だが、メルにとって正解だったのかは迷うことがある。
「ぼうやの、普通?」
「ああ。俺にとっての普通は、居場所があって、美味しいご飯が食べられて...大切な人がいることだから」
俺はメルの方を向いて微笑んだ。
メルもこちらを見てにこにこしている。
「...僕にも、その生き方を選べるかな?」
「人生なんて、何度でもやり直せるだろ。まあ、二、三度なら許されると思うぞ」
「...本当?」
エリックらしい不器用な言葉が、メアの心に届いたようだ。
「ああ。俺は嘘をついたりしない」
「それなら、僕も頑張ってみるよ。ちゃんと償う」
彼が彼でいられる場所が早く見つかるように、俺は祈ろうと思った。
今の俺にできるのは、それくらいなのだ。
「きみはいい子なんだね」
メアがメルの手を握りかえしていた。
「そんなことはありませんよ...?」
メルは照れくさそうにしていたけれど、俺はその姿を見てとても誇らしく思った。
「次会うときは、『呪いの悪夢』としてじゃなくて、メアとして会いにきて。それと...警察長官は、俺が絶対に捕まえる。証拠を集めてみるよ」
「でもあれは、何年も前の、」
「何年も前だからといって、解決できないわけじゃない。あまり上手くはできないかもしれないけど...精いっぱいやってみるよ」
死んだはずの少年メアは生きていて、今涙をながしている。
それだけで、俺は彼のことを理解できたような気がした。
ー*ー
「カムイ、ちゃんとお話できてよかったですね」
帰ったあと、私はさりげなくカムイに話しかけてみた。
「メルのお陰だよ。ありがとう」
いつもこうやってカムイが言ってくれるさりげないお礼に、私はいつも幸せを感じている。
「そういえば、ご飯はどうしましょうか...」
「パンならあったはずだけど、それだけじゃ寂しいかな?」
「いえ、今日は色々ありましたし...ご飯にしましょう」
「ありがとう」
私はいつものように紅茶の用意をする。
淹れ終えた瞬間、カムイが後ろから抱きしめてきた。
「カムイ?」
「メル、もしメルがいいならなんだけど...旅行に行かない?」
「エリックさんは...」
「無茶しないように、毎日見張るように部下さんにお願いした。一段落したから、ふたりきりで旅行に行きたい」
「私は、とても嬉しいです。...つ、連れていってください!」
ー**ー
以前よりお願いを言ってくれるようになったメルを見て、俺は安心した。
こんな俺でもちゃんとメルの役にたてているだろうかと、いつも心配だからだ。
「いつから行くんですか?」
「うーん...明日の朝から」
「もしかして、ずっと計画していてくれたんですか?」
「そうだよ」
メルに行きたくないと言われたらどうしようと思っていたが、喜んでもらえたようで本当によかった。
「行き先は、明日着いてからのお楽しみね」
「はい!」
「今日は早く寝てしまおうか」
「はい、おやすみなさい」
メルはにこにこしながら言った。
こんな生活が続けばいい...ふとそんなことを思った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
まさか、僕の昔について調べてくれるとは思わなかった。
それに、『次はメアとして会いにきて』なんて言われるとは思っていなかった。
僕は、無実の人を殺してしまった。
その十字架から逃げるつもりはない。
「被告人、前へ」
「...」
「それでは、判決を言い渡します。被告人・『呪いの悪夢』ことメアは...」
僕は死刑になるだろうと思っていた。
或いは終身刑か...。
「懲役三年、釈放ありに処します」
軽すぎて、何故なのか疑問に思った。
釈放まであるなんて...。
「この判決は、エリック警部補らより被告人のこれまでの生活の酷さを聞き、犯罪を犯さざるを得ない状況に追いやられたと判断しました。犯行は残忍であるため許されるものではありませんが、やり直すチャンスをという声が多く聞かれました。よってこの結論に至りました。被告人はこれをおきに更生するように」
「...はい」
僕は気づいた。
『エリック警部補ら』ということは、きっと...。
次はどうやってぼうやと会おう?
ちゃんと謝らないと。
それと、沢山のありがとうを伝えたい。
今度はちゃんと、メアとしてお話したいな。
...会って、くれるかな。
私は目の前で泣いている人を放っておけなかった。
私と、同じだから。
もしかしたら私も、あの日カムイに見つけてもらっていなければ同じ道を辿っていたかもしれない。
そう考えると、なんとか心を救いたかった。
「メアさんは、一生懸命一人で努力してきたんですよね...?」
「それほどのものではないと思うけど」
「一人で生きるのは、とても大変なことです」
「きみには、経験があるの?」
「...はい」
いつも暖かい場所で過ごしている父親が、いつも美味しいものを食べている父親が、いつも私に暴力をふるう父親が...怖くてたまらなかった。
でももし、これが『怖い』ではなく『憎い』だったなら、間違いなく私も殺していたと思う。
「メルは俺が見つけなかったら死んでたんだ」
「...知らなかった。僕が見たのは一緒に笑っているところだけだったから、幸せに暮らしてきたんだと思ってた」
「それは、メルに俺の普通を教えたからだよ」
カムイが優しい目をしながらそう言った。
(カムイ...)
ー**ー
俺の普通でメルを染めてしまったことを、後悔はしていない。
だが、メルにとって正解だったのかは迷うことがある。
「ぼうやの、普通?」
「ああ。俺にとっての普通は、居場所があって、美味しいご飯が食べられて...大切な人がいることだから」
俺はメルの方を向いて微笑んだ。
メルもこちらを見てにこにこしている。
「...僕にも、その生き方を選べるかな?」
「人生なんて、何度でもやり直せるだろ。まあ、二、三度なら許されると思うぞ」
「...本当?」
エリックらしい不器用な言葉が、メアの心に届いたようだ。
「ああ。俺は嘘をついたりしない」
「それなら、僕も頑張ってみるよ。ちゃんと償う」
彼が彼でいられる場所が早く見つかるように、俺は祈ろうと思った。
今の俺にできるのは、それくらいなのだ。
「きみはいい子なんだね」
メアがメルの手を握りかえしていた。
「そんなことはありませんよ...?」
メルは照れくさそうにしていたけれど、俺はその姿を見てとても誇らしく思った。
「次会うときは、『呪いの悪夢』としてじゃなくて、メアとして会いにきて。それと...警察長官は、俺が絶対に捕まえる。証拠を集めてみるよ」
「でもあれは、何年も前の、」
「何年も前だからといって、解決できないわけじゃない。あまり上手くはできないかもしれないけど...精いっぱいやってみるよ」
死んだはずの少年メアは生きていて、今涙をながしている。
それだけで、俺は彼のことを理解できたような気がした。
ー*ー
「カムイ、ちゃんとお話できてよかったですね」
帰ったあと、私はさりげなくカムイに話しかけてみた。
「メルのお陰だよ。ありがとう」
いつもこうやってカムイが言ってくれるさりげないお礼に、私はいつも幸せを感じている。
「そういえば、ご飯はどうしましょうか...」
「パンならあったはずだけど、それだけじゃ寂しいかな?」
「いえ、今日は色々ありましたし...ご飯にしましょう」
「ありがとう」
私はいつものように紅茶の用意をする。
淹れ終えた瞬間、カムイが後ろから抱きしめてきた。
「カムイ?」
「メル、もしメルがいいならなんだけど...旅行に行かない?」
「エリックさんは...」
「無茶しないように、毎日見張るように部下さんにお願いした。一段落したから、ふたりきりで旅行に行きたい」
「私は、とても嬉しいです。...つ、連れていってください!」
ー**ー
以前よりお願いを言ってくれるようになったメルを見て、俺は安心した。
こんな俺でもちゃんとメルの役にたてているだろうかと、いつも心配だからだ。
「いつから行くんですか?」
「うーん...明日の朝から」
「もしかして、ずっと計画していてくれたんですか?」
「そうだよ」
メルに行きたくないと言われたらどうしようと思っていたが、喜んでもらえたようで本当によかった。
「行き先は、明日着いてからのお楽しみね」
「はい!」
「今日は早く寝てしまおうか」
「はい、おやすみなさい」
メルはにこにこしながら言った。
こんな生活が続けばいい...ふとそんなことを思った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
まさか、僕の昔について調べてくれるとは思わなかった。
それに、『次はメアとして会いにきて』なんて言われるとは思っていなかった。
僕は、無実の人を殺してしまった。
その十字架から逃げるつもりはない。
「被告人、前へ」
「...」
「それでは、判決を言い渡します。被告人・『呪いの悪夢』ことメアは...」
僕は死刑になるだろうと思っていた。
或いは終身刑か...。
「懲役三年、釈放ありに処します」
軽すぎて、何故なのか疑問に思った。
釈放まであるなんて...。
「この判決は、エリック警部補らより被告人のこれまでの生活の酷さを聞き、犯罪を犯さざるを得ない状況に追いやられたと判断しました。犯行は残忍であるため許されるものではありませんが、やり直すチャンスをという声が多く聞かれました。よってこの結論に至りました。被告人はこれをおきに更生するように」
「...はい」
僕は気づいた。
『エリック警部補ら』ということは、きっと...。
次はどうやってぼうやと会おう?
ちゃんと謝らないと。
それと、沢山のありがとうを伝えたい。
今度はちゃんと、メアとしてお話したいな。
...会って、くれるかな。
0
お気に入りに追加
96
あなたにおすすめの小説


【完結】悪役令嬢の反撃の日々
くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました
さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。
私との約束なんかなかったかのように…
それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。
そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね…
分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!
悪役令嬢のビフォーアフター
すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。
腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ!
とりあえずダイエットしなきゃ!
そんな中、
あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・
そんな私に新たに出会いが!!
婚約者さん何気に嫉妬してない?

貴妃エレーナ
無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」
後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。
「急に、どうされたのですか?」
「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」
「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」
そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。
どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。
けれど、もう安心してほしい。
私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。
だから…
「陛下…!大変です、内乱が…」
え…?
ーーーーーーーーーーーーー
ここは、どこ?
さっきまで内乱が…
「エレーナ?」
陛下…?
でも若いわ。
バッと自分の顔を触る。
するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。
懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?
との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」
結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。
夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、
えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。
どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに?
ーーーーーー
完結、予約投稿済みです。
R15は、今回も念の為

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる