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Until the day when I get married.-New dark appearance-
第102話
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ー*ー
私は目の前で泣いている人を放っておけなかった。
私と、同じだから。
もしかしたら私も、あの日カムイに見つけてもらっていなければ同じ道を辿っていたかもしれない。
そう考えると、なんとか心を救いたかった。
「メアさんは、一生懸命一人で努力してきたんですよね...?」
「それほどのものではないと思うけど」
「一人で生きるのは、とても大変なことです」
「きみには、経験があるの?」
「...はい」
いつも暖かい場所で過ごしている父親が、いつも美味しいものを食べている父親が、いつも私に暴力をふるう父親が...怖くてたまらなかった。
でももし、これが『怖い』ではなく『憎い』だったなら、間違いなく私も殺していたと思う。
「メルは俺が見つけなかったら死んでたんだ」
「...知らなかった。僕が見たのは一緒に笑っているところだけだったから、幸せに暮らしてきたんだと思ってた」
「それは、メルに俺の普通を教えたからだよ」
カムイが優しい目をしながらそう言った。
(カムイ...)
ー**ー
俺の普通でメルを染めてしまったことを、後悔はしていない。
だが、メルにとって正解だったのかは迷うことがある。
「ぼうやの、普通?」
「ああ。俺にとっての普通は、居場所があって、美味しいご飯が食べられて...大切な人がいることだから」
俺はメルの方を向いて微笑んだ。
メルもこちらを見てにこにこしている。
「...僕にも、その生き方を選べるかな?」
「人生なんて、何度でもやり直せるだろ。まあ、二、三度なら許されると思うぞ」
「...本当?」
エリックらしい不器用な言葉が、メアの心に届いたようだ。
「ああ。俺は嘘をついたりしない」
「それなら、僕も頑張ってみるよ。ちゃんと償う」
彼が彼でいられる場所が早く見つかるように、俺は祈ろうと思った。
今の俺にできるのは、それくらいなのだ。
「きみはいい子なんだね」
メアがメルの手を握りかえしていた。
「そんなことはありませんよ...?」
メルは照れくさそうにしていたけれど、俺はその姿を見てとても誇らしく思った。
「次会うときは、『呪いの悪夢』としてじゃなくて、メアとして会いにきて。それと...警察長官は、俺が絶対に捕まえる。証拠を集めてみるよ」
「でもあれは、何年も前の、」
「何年も前だからといって、解決できないわけじゃない。あまり上手くはできないかもしれないけど...精いっぱいやってみるよ」
死んだはずの少年メアは生きていて、今涙をながしている。
それだけで、俺は彼のことを理解できたような気がした。
ー*ー
「カムイ、ちゃんとお話できてよかったですね」
帰ったあと、私はさりげなくカムイに話しかけてみた。
「メルのお陰だよ。ありがとう」
いつもこうやってカムイが言ってくれるさりげないお礼に、私はいつも幸せを感じている。
「そういえば、ご飯はどうしましょうか...」
「パンならあったはずだけど、それだけじゃ寂しいかな?」
「いえ、今日は色々ありましたし...ご飯にしましょう」
「ありがとう」
私はいつものように紅茶の用意をする。
淹れ終えた瞬間、カムイが後ろから抱きしめてきた。
「カムイ?」
「メル、もしメルがいいならなんだけど...旅行に行かない?」
「エリックさんは...」
「無茶しないように、毎日見張るように部下さんにお願いした。一段落したから、ふたりきりで旅行に行きたい」
「私は、とても嬉しいです。...つ、連れていってください!」
ー**ー
以前よりお願いを言ってくれるようになったメルを見て、俺は安心した。
こんな俺でもちゃんとメルの役にたてているだろうかと、いつも心配だからだ。
「いつから行くんですか?」
「うーん...明日の朝から」
「もしかして、ずっと計画していてくれたんですか?」
「そうだよ」
メルに行きたくないと言われたらどうしようと思っていたが、喜んでもらえたようで本当によかった。
「行き先は、明日着いてからのお楽しみね」
「はい!」
「今日は早く寝てしまおうか」
「はい、おやすみなさい」
メルはにこにこしながら言った。
こんな生活が続けばいい...ふとそんなことを思った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
まさか、僕の昔について調べてくれるとは思わなかった。
それに、『次はメアとして会いにきて』なんて言われるとは思っていなかった。
僕は、無実の人を殺してしまった。
その十字架から逃げるつもりはない。
「被告人、前へ」
「...」
「それでは、判決を言い渡します。被告人・『呪いの悪夢』ことメアは...」
僕は死刑になるだろうと思っていた。
或いは終身刑か...。
「懲役三年、釈放ありに処します」
軽すぎて、何故なのか疑問に思った。
釈放まであるなんて...。
「この判決は、エリック警部補らより被告人のこれまでの生活の酷さを聞き、犯罪を犯さざるを得ない状況に追いやられたと判断しました。犯行は残忍であるため許されるものではありませんが、やり直すチャンスをという声が多く聞かれました。よってこの結論に至りました。被告人はこれをおきに更生するように」
「...はい」
僕は気づいた。
『エリック警部補ら』ということは、きっと...。
次はどうやってぼうやと会おう?
ちゃんと謝らないと。
それと、沢山のありがとうを伝えたい。
今度はちゃんと、メアとしてお話したいな。
...会って、くれるかな。
私は目の前で泣いている人を放っておけなかった。
私と、同じだから。
もしかしたら私も、あの日カムイに見つけてもらっていなければ同じ道を辿っていたかもしれない。
そう考えると、なんとか心を救いたかった。
「メアさんは、一生懸命一人で努力してきたんですよね...?」
「それほどのものではないと思うけど」
「一人で生きるのは、とても大変なことです」
「きみには、経験があるの?」
「...はい」
いつも暖かい場所で過ごしている父親が、いつも美味しいものを食べている父親が、いつも私に暴力をふるう父親が...怖くてたまらなかった。
でももし、これが『怖い』ではなく『憎い』だったなら、間違いなく私も殺していたと思う。
「メルは俺が見つけなかったら死んでたんだ」
「...知らなかった。僕が見たのは一緒に笑っているところだけだったから、幸せに暮らしてきたんだと思ってた」
「それは、メルに俺の普通を教えたからだよ」
カムイが優しい目をしながらそう言った。
(カムイ...)
ー**ー
俺の普通でメルを染めてしまったことを、後悔はしていない。
だが、メルにとって正解だったのかは迷うことがある。
「ぼうやの、普通?」
「ああ。俺にとっての普通は、居場所があって、美味しいご飯が食べられて...大切な人がいることだから」
俺はメルの方を向いて微笑んだ。
メルもこちらを見てにこにこしている。
「...僕にも、その生き方を選べるかな?」
「人生なんて、何度でもやり直せるだろ。まあ、二、三度なら許されると思うぞ」
「...本当?」
エリックらしい不器用な言葉が、メアの心に届いたようだ。
「ああ。俺は嘘をついたりしない」
「それなら、僕も頑張ってみるよ。ちゃんと償う」
彼が彼でいられる場所が早く見つかるように、俺は祈ろうと思った。
今の俺にできるのは、それくらいなのだ。
「きみはいい子なんだね」
メアがメルの手を握りかえしていた。
「そんなことはありませんよ...?」
メルは照れくさそうにしていたけれど、俺はその姿を見てとても誇らしく思った。
「次会うときは、『呪いの悪夢』としてじゃなくて、メアとして会いにきて。それと...警察長官は、俺が絶対に捕まえる。証拠を集めてみるよ」
「でもあれは、何年も前の、」
「何年も前だからといって、解決できないわけじゃない。あまり上手くはできないかもしれないけど...精いっぱいやってみるよ」
死んだはずの少年メアは生きていて、今涙をながしている。
それだけで、俺は彼のことを理解できたような気がした。
ー*ー
「カムイ、ちゃんとお話できてよかったですね」
帰ったあと、私はさりげなくカムイに話しかけてみた。
「メルのお陰だよ。ありがとう」
いつもこうやってカムイが言ってくれるさりげないお礼に、私はいつも幸せを感じている。
「そういえば、ご飯はどうしましょうか...」
「パンならあったはずだけど、それだけじゃ寂しいかな?」
「いえ、今日は色々ありましたし...ご飯にしましょう」
「ありがとう」
私はいつものように紅茶の用意をする。
淹れ終えた瞬間、カムイが後ろから抱きしめてきた。
「カムイ?」
「メル、もしメルがいいならなんだけど...旅行に行かない?」
「エリックさんは...」
「無茶しないように、毎日見張るように部下さんにお願いした。一段落したから、ふたりきりで旅行に行きたい」
「私は、とても嬉しいです。...つ、連れていってください!」
ー**ー
以前よりお願いを言ってくれるようになったメルを見て、俺は安心した。
こんな俺でもちゃんとメルの役にたてているだろうかと、いつも心配だからだ。
「いつから行くんですか?」
「うーん...明日の朝から」
「もしかして、ずっと計画していてくれたんですか?」
「そうだよ」
メルに行きたくないと言われたらどうしようと思っていたが、喜んでもらえたようで本当によかった。
「行き先は、明日着いてからのお楽しみね」
「はい!」
「今日は早く寝てしまおうか」
「はい、おやすみなさい」
メルはにこにこしながら言った。
こんな生活が続けばいい...ふとそんなことを思った。
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まさか、僕の昔について調べてくれるとは思わなかった。
それに、『次はメアとして会いにきて』なんて言われるとは思っていなかった。
僕は、無実の人を殺してしまった。
その十字架から逃げるつもりはない。
「被告人、前へ」
「...」
「それでは、判決を言い渡します。被告人・『呪いの悪夢』ことメアは...」
僕は死刑になるだろうと思っていた。
或いは終身刑か...。
「懲役三年、釈放ありに処します」
軽すぎて、何故なのか疑問に思った。
釈放まであるなんて...。
「この判決は、エリック警部補らより被告人のこれまでの生活の酷さを聞き、犯罪を犯さざるを得ない状況に追いやられたと判断しました。犯行は残忍であるため許されるものではありませんが、やり直すチャンスをという声が多く聞かれました。よってこの結論に至りました。被告人はこれをおきに更生するように」
「...はい」
僕は気づいた。
『エリック警部補ら』ということは、きっと...。
次はどうやってぼうやと会おう?
ちゃんと謝らないと。
それと、沢山のありがとうを伝えたい。
今度はちゃんと、メアとしてお話したいな。
...会って、くれるかな。
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