路地裏のマッチ売りの少女

黒蝶

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Until the day when I get married.-New dark appearance-

第101話

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ー*ー
数日後、エリックさんは自分の家に帰ることになった。
「エリックさん、退院おめでとうございます」
「ありがとう」
「通院は続けてね。あと、死んでも職場復帰はまだしないこと。いい?」
「これでは復帰はできないだろう」
エリックさんは苦笑している。
エリックさんの腕は、まだ動かせる範囲が狭い。
「警部補!」
「おまえたち、勤務中だろう。俺はいいから早く戻れ」
「はい...」
「エリック、退院するのね!よかったわ、あたしも今回は少し焦ったわ。お願いだから、ちゃんと寝てなさい!」
「...分かった」
色々な人がくるのを見て、私は羨ましく思った。
それだけ愛されているということだから、すごいことだと思った。
私には、そういう存在がそれほどいないからなのかもしれない。
(大切な人...守りたい人は沢山いるけれど、守れるのでしょうか)
「メル?」
「は、はい!何かご用でしょうか?」
カムイが少し苦しげな顔でこちらを見ている。
「あの...」
「今日、行きたい所があるんだ。いいかな?」
「はい!」
「俺も行く。...かまわないか?」
「いいよ」
どこに行くのか、この時私は分かっていなかった。
でも、すぐに分かることになった。
「メル、怖くない?」
「はい」
そこは、大きな塔のような場所。
誰がいるのかはだいたい分かった。
「...こんにちは」
相手は無言だ。
「色々と聞きたいことがあってきたんだ。話を聞かせてくれないか、メア」
ー**ー
「どうして僕の名前を...」
『呪いの悪夢』...メアは本気で驚いているようだ。
「調べさせてもらったんだよ、色々。きみは死んだことになってるメアだろ?」
「...ぼうや、僕は、」
「間違えて俺の両親を殺したのか?」
「それは、」
「俺は真実が知りたいんだ!」
俺が掴みかかりそうな勢いでつっこみそうになった瞬間、メルが止めてくれた。
「カムイ、お話を聞きましょう?」
「...ごめん」
「僕を、殴っていいよ」
「それは肯定ということか?」
後ろで聞いていたエリックがメアに向かって話しかける。
「そうだよ。僕はあのときの長官を殺そうと思ったのに、あのときの長官が、ぼうやのご両親だと信じていたのに...違った。僕はどう償えばいい!僕はなんで間違えた!なんで、なんでだよ...」
「取り敢えず落ち着いて。...それで、真実を話してほしい」
俺は過呼吸になりかけている目の前の男を座らせ、取り敢えず落ち着くように言い聞かせた。
「僕は、望まれていなかったんだ...」
そう言うと、彼は話しはじめた。
「まさか僕の昔話をすることになるとはね...」
ーーーーーーーーーーーーーーー【回想】ーーーーーーーーーーーーーーーーー
僕はあまり普通ではない家に生まれた。
「メア」
僕のことをそうやって優しく呼んでくれた母。
ただ、父は腕利きの殺し屋で家に帰ってくることは少なかった。
「おら!」
「あなた、やめて!」
帰ってきてもこのざまだ。
父は仕事が上手くいかないと、母を殴った。
...僕も例外ではなかった。
そんなある日。
父はついに壊れた。
ワイヤーが得意だった父は、トラップで母を殺した。
「お母さん?お母さん!」
当然、父は捕まると思っていた。
...でも、世界は理不尽だ。
主に暗殺を依頼していたのが、その当時の警察長官だった。
そいつは自らの罪を隠すために、僕のたった一人の家族が殺されたことをもみ消した。
僕はそれが許せなかった。
「お父さん」
「うるさい、この悪夢めが!」
そこで僕の中にあった何かが切れたらしい。
近くにあったサバイバルナイフとワイヤー...僕の初めての殺しは、そのときだ。
相手は実の父親。
この瞬間、まだ足りないことに気づいた。
ーーあの長官もコロサナイト
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「そんなことがあったのか」
「で、僕は『メア』から『悪夢ナイトメア』になったんだよ」
メアは本当に苦悶に満ちた表情で俺たちに告げた。
「長官に家族がいることを知った。自分たちは幸せに暮らせると思いあがっているところに腹がたった。そしてその子どもだけを生かし、殺人鬼にすることで復讐を完結させることにしたんだ」
「...でも、それならどうしてカムイのご両親が殺されることになったんですか?」
メルの疑問は最もだと思う。
だが、俺には答えが見えていた。
「...家族構成が、同じだったんだ。それで、それで僕は、」
「間違えた。だから俺の両親は殺された。...違う?」
「あ、ああ...」
メアは震えている。
エリックは呆然と立ち尽くしている。
長い沈黙のあと、メルが声をかけた。
「それは、辛かったですね...。でも、偉いです」
「またきみは、僕を馬鹿にしてるの?」
「いえ、そうではなくて...自分の間違いを認められる人って、少ないと思うんです。だから...」
メルらしい意見だと思う。
だが、この男の心には...
(心配するまでもなかったか)
「なんでそんなに優しいんだよ...」
「殴られたりする痛みは、私にも分かりますから」
泣いているメアの手を、メルがそっと握っていた。
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