141 / 220
Until the day when I get married.-New dark appearance-
第100話
しおりを挟む
ー**ー
...メルは今、なんて言った?
「路地裏なら、私が一番詳しいはずです。だから...」
「嫌だ」
俺は即答した。
「でも、」
「俺は、メルを巻きこみたくない」
メルは息を整えてから、ゆっくりと話してくれた。
「カムイが一緒にいてくださるなら、私は怖くありません」
「...」
「大丈夫です、二人一緒なら!」
メルはにこにこしている。
どうしてメルは、こんなにも笑顔でいられるのだろう。
メルに頼ってはいけないと思っていた。
だが、こんなふうに優しく笑う強い人を、俺は他に知らない。
「一人で抱えたら、カムイはまた辛い思いをしてしまいます。だから...二人で分けあいましょう?」
「二人で、分けあう...」
俺にはその考え方がなかった。
それなら、俺がするべきことは見えている。
「それなら、メルの辛い思いも俺に分けてくれる?」
「...?どういうことですか?」
「メルは、あの死体たちを見てから嫌なことを思い出してる。...違う?」
ー*ー
どうしてカムイには、隠し通せないんだろう。
「どうして分かったんですか?」
「見てれば分かるよ」
実際、私は思い出していた。
父親に熱湯をかけられたことを。
煙草の火を押しつけられたことを。
殴られ、罵られ、大きな声を出されたことを...。
「私がやられたことよりも、きっともっと苦しくて痛かったんだろうなって、そう思うと、思い出すのを止められなくて...。そうしたら、なんだか怖くなってしまって、それで、」
カムイは私を抱きすくめた。
「もういい。もう充分分かったよ。メル、辛かったね。偉かったね...」
精いっぱい、笑顔でいると決めたのに。
私は、目から溢れる涙を堪えきれなかった。
「辛い時は、俺を呼んで。絶対にメルを悲しませたりしないから」
私は頷くことしかできなかった。
ー**ー
メルが落ち着くまで、俺は決して腕をふりほどいたりはしなかった。
ただ、メルの支えになりたい。
メルが心に負った傷の深さは、俺の想像以上だと思う。
だが、俺はこの手を離したりしない。
絶対に、幸せにする。
「ごめんなさい」
「気にしないで。じゃあ...今から俺についてきてくれる?」
「はい!」
(夕方か...今日中に犯人を捕まえられるといいけど)
俺はエリックに来客がきても出ないように言い、メルの手をひく。
「多分、右です」
「分かった」
俺はメルと共に、路地裏の細い道を慎重に進む。
実はもう、犯人の顔は分かっている。
あとは捕まえるだけなのだが...。
(その捕まえるのが難しいんだよな)
「カムイ、似顔絵の人にそっくりです」
メルが指をさした方にいる男は、確かに似顔絵そっくりだった。
「メルはここで待ってて」
「分かりました」
俺は男に声をかけた。
「すみません、少しお話いいですか?」
ー*ー
カムイが男性に話しかけた。
「なんか用か、坊主」
「そのマッチを見せてほしいんですけど」
「...何故だ」
(雰囲気が変わりました)
とてつもない殺気を感じる。
「放火犯ですよね?その煙草、銘柄が犯行現場に落ちていたやつと全く同じなんですよ」
「...くそっ!」
「カムイ!」
「...」
カムイは瞬時に男性の後ろにまわって、即座に手錠をはめた。
「暴行の現行犯だ」
「あと少し、あと少しで次の家を燃やせたのに...!」
カムイは悔しがる犯人を、いつの間にか呼んでいたらしい警察の人に引き渡した。
「その人、多分武器持ってるから気をつけて」
「了解です!」
「カムイ、怪我は...」
「してないよ。メルのお陰であいつを捕まえられた。ありがとう」
カムイが頭を撫でてくれた。
...私は、ちゃんと役にたてたのだろうか。
「帰ろうか」
「はい!」
ー**ー
帰り道、俺はメルとしっかりと指を絡めて歩いた。
メルは恥ずかしそうにしていたが、それでもにこにこ笑ってくれた。
「今日のご飯は何にしようか」
「そうですね...パスタなら早くできるでしょうか...?」
「うん、そうだね」
犯人確保までに時間がかかってしまったため、夜食とも言えるような時間帯に食事をとることになってしまった。
「ごめん、エリック。待った?」
「いや、全く」
「そっか」
「今日はパスタを作ります」
「...そうか」
エリックは読んでいた新聞をたたみ、なんだかそわそわしている。
「手伝わないでね。病人はおとなしくしてて」
「分かった」
エリックは残念そうにしている。
(昔からそういうところがあったな)
「エリック、もうすぐ退院していいよ」
「本当か?」
「うん。でも復職は待って」
「...ああ」
エリックの様子を見ながら、三人での生活の終わりが近いことは分かった。
少し寂しく思いながら、俺は目の前に迫る問題について考えていた。
(...あいつはどうしているんだろう)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
僕は、なんてことを...。
どうして今更間違いに気づいた?
何故今まで気づかなかった?
「ごめんね、ごめん...ぼうや」
真実を知ったあの日から、僕の涙は止まらない。
ふと外を見る。
鉄格子に囲まれていてもいつもなら色々見えるのに、この日は月はおろか星一つ見えなかった。
...メルは今、なんて言った?
「路地裏なら、私が一番詳しいはずです。だから...」
「嫌だ」
俺は即答した。
「でも、」
「俺は、メルを巻きこみたくない」
メルは息を整えてから、ゆっくりと話してくれた。
「カムイが一緒にいてくださるなら、私は怖くありません」
「...」
「大丈夫です、二人一緒なら!」
メルはにこにこしている。
どうしてメルは、こんなにも笑顔でいられるのだろう。
メルに頼ってはいけないと思っていた。
だが、こんなふうに優しく笑う強い人を、俺は他に知らない。
「一人で抱えたら、カムイはまた辛い思いをしてしまいます。だから...二人で分けあいましょう?」
「二人で、分けあう...」
俺にはその考え方がなかった。
それなら、俺がするべきことは見えている。
「それなら、メルの辛い思いも俺に分けてくれる?」
「...?どういうことですか?」
「メルは、あの死体たちを見てから嫌なことを思い出してる。...違う?」
ー*ー
どうしてカムイには、隠し通せないんだろう。
「どうして分かったんですか?」
「見てれば分かるよ」
実際、私は思い出していた。
父親に熱湯をかけられたことを。
煙草の火を押しつけられたことを。
殴られ、罵られ、大きな声を出されたことを...。
「私がやられたことよりも、きっともっと苦しくて痛かったんだろうなって、そう思うと、思い出すのを止められなくて...。そうしたら、なんだか怖くなってしまって、それで、」
カムイは私を抱きすくめた。
「もういい。もう充分分かったよ。メル、辛かったね。偉かったね...」
精いっぱい、笑顔でいると決めたのに。
私は、目から溢れる涙を堪えきれなかった。
「辛い時は、俺を呼んで。絶対にメルを悲しませたりしないから」
私は頷くことしかできなかった。
ー**ー
メルが落ち着くまで、俺は決して腕をふりほどいたりはしなかった。
ただ、メルの支えになりたい。
メルが心に負った傷の深さは、俺の想像以上だと思う。
だが、俺はこの手を離したりしない。
絶対に、幸せにする。
「ごめんなさい」
「気にしないで。じゃあ...今から俺についてきてくれる?」
「はい!」
(夕方か...今日中に犯人を捕まえられるといいけど)
俺はエリックに来客がきても出ないように言い、メルの手をひく。
「多分、右です」
「分かった」
俺はメルと共に、路地裏の細い道を慎重に進む。
実はもう、犯人の顔は分かっている。
あとは捕まえるだけなのだが...。
(その捕まえるのが難しいんだよな)
「カムイ、似顔絵の人にそっくりです」
メルが指をさした方にいる男は、確かに似顔絵そっくりだった。
「メルはここで待ってて」
「分かりました」
俺は男に声をかけた。
「すみません、少しお話いいですか?」
ー*ー
カムイが男性に話しかけた。
「なんか用か、坊主」
「そのマッチを見せてほしいんですけど」
「...何故だ」
(雰囲気が変わりました)
とてつもない殺気を感じる。
「放火犯ですよね?その煙草、銘柄が犯行現場に落ちていたやつと全く同じなんですよ」
「...くそっ!」
「カムイ!」
「...」
カムイは瞬時に男性の後ろにまわって、即座に手錠をはめた。
「暴行の現行犯だ」
「あと少し、あと少しで次の家を燃やせたのに...!」
カムイは悔しがる犯人を、いつの間にか呼んでいたらしい警察の人に引き渡した。
「その人、多分武器持ってるから気をつけて」
「了解です!」
「カムイ、怪我は...」
「してないよ。メルのお陰であいつを捕まえられた。ありがとう」
カムイが頭を撫でてくれた。
...私は、ちゃんと役にたてたのだろうか。
「帰ろうか」
「はい!」
ー**ー
帰り道、俺はメルとしっかりと指を絡めて歩いた。
メルは恥ずかしそうにしていたが、それでもにこにこ笑ってくれた。
「今日のご飯は何にしようか」
「そうですね...パスタなら早くできるでしょうか...?」
「うん、そうだね」
犯人確保までに時間がかかってしまったため、夜食とも言えるような時間帯に食事をとることになってしまった。
「ごめん、エリック。待った?」
「いや、全く」
「そっか」
「今日はパスタを作ります」
「...そうか」
エリックは読んでいた新聞をたたみ、なんだかそわそわしている。
「手伝わないでね。病人はおとなしくしてて」
「分かった」
エリックは残念そうにしている。
(昔からそういうところがあったな)
「エリック、もうすぐ退院していいよ」
「本当か?」
「うん。でも復職は待って」
「...ああ」
エリックの様子を見ながら、三人での生活の終わりが近いことは分かった。
少し寂しく思いながら、俺は目の前に迫る問題について考えていた。
(...あいつはどうしているんだろう)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
僕は、なんてことを...。
どうして今更間違いに気づいた?
何故今まで気づかなかった?
「ごめんね、ごめん...ぼうや」
真実を知ったあの日から、僕の涙は止まらない。
ふと外を見る。
鉄格子に囲まれていてもいつもなら色々見えるのに、この日は月はおろか星一つ見えなかった。
0
お気に入りに追加
96
あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢の反撃の日々
くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

なにをおっしゃいますやら
基本二度寝
恋愛
本日、五年通った学び舎を卒業する。
エリクシア侯爵令嬢は、己をエスコートする男を見上げた。
微笑んで見せれば、男は目線を逸らす。
エブリシアは苦笑した。
今日までなのだから。
今日、エブリシアは婚約解消する事が決まっているのだから。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

[完結]思い出せませんので
シマ
恋愛
「早急にサインして返却する事」
父親から届いた手紙には婚約解消の書類と共に、その一言だけが書かれていた。
同じ学園で学び一年後には卒業早々、入籍し式を挙げるはずだったのに。急になぜ?訳が分からない。
直接会って訳を聞かねば
注)女性が怪我してます。苦手な方は回避でお願いします。
男性視点
四話完結済み。毎日、一話更新

貴方が側妃を望んだのです
cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。
「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。
誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。
※2022年6月12日。一部書き足しました。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
史実などに基づいたものではない事をご理解ください。
※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。
表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。
※更新していくうえでタグは幾つか増えます。
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる