路地裏のマッチ売りの少女

黒蝶

文字の大きさ
上 下
139 / 220
Until the day when I get married.-New dark appearance-

第98話

しおりを挟む
ー*ー
「...っ」
「なんだか悪化してるみたいだ...」
「ごめんなさい」
「謝らなくていいよ。これは、俺の責任でもあるからね」
カムイはそう言ってくれるけれど、私は気になってしかたなかった。
(『死と隣あわせ』のお仕事...)
「カムイ」
「ん?」
「あの、私でお手伝いできることがあれば言ってください」
「...できれば、メルには関わらないでほしい。本当に危ないんだ」
「でも、私は...二人で解決していきたいんです」
「...じゃあ、メルにお願いがある」
「なんでしょうか?」
「俺の側で、ずっと笑ってて」
...笑う?
私は意味がよく分からず、首を傾げた。
「ずっと笑っていてほしいんだ。だから...現場には連れていかない」
「そんな...」
「でも、もしもバラバラになったものがあって、それが俺では直せない時は...お願いしてもいいかな?」
「...!はい!」
私でも役にたてることがある。
そう思うと、嬉しくてたまらない。
やっとカムイの役にたてる。
冷静になってみて、私は一つ疑問がうかんだ。
「カムイ」
「ん?どうしたの?」
「男ショウフって、何ですか?」
ー**ー
...しまった。
俺は『女性ではない』ということを説明したかっただけだったのに、うっかり『男娼婦』という言葉を使ってしまっていた。
「えっとね、メル。それは...」
「体を売る仕事だ」
そこには、いつの間にかエリックが車椅子でやってきていた。
「体を、売る...?」
メルがきょとんとしている。
「そうだ。女性が多いが、男性の場合もあるな」
「体を売るってどういうことですか?」
「それは、」
(まずい、純粋なメルにその答えは...!)
「メル、ちょっとだけ部屋にいてくれる?」
「...?はい」
メルを見送ったあと、俺はエリックに少し注意をすることにした。
「エリック、メルは純粋な子だよ?普通の意味を知ったら、メルはパニックになってしまう」
「...!そうだったな、すまない。俺としたことが...」
エリックはやはり、自分の鈍感さには気づいているようだ。
「それと、彼の情報によると、エリックの部下さんたちが調べている男、別のバーでも阿片を捌いてるらしいよ」
「そうなのか?」
俺は強く頷いた。
「...メルは、彼を男だとはじめから分かっていたのか?」
「ううん。女の人だと思ったって」
「そうか。まあ、ここの結婚の規定なんて、なんでもありだからな」
「そうだね。親以外となら結婚できるなんて、他の場所では聞いたことないよ」
俺もエリックも、少しだけ苦笑いした。
俺はベッドルームの扉をたたく。
「メル、起きてるならもう出てきていいよ」
「はい!」
メルが素早く出てくる。
...やはり可愛い。
「紅茶を淹れますね」
メルがにこにこしながらティーポットに手をのばす。
俺はそれを止めた。
「ダメだよ、今重いものを持ったら余計に怪我が治らなくなるから...」
「これくらいのことは、やらせてください」
ー*ー
私ができることは少ない。
だから、私ができることはちゃんとやりたい。
でも、カムイはいいよと言ってくれなかった。
「今回は本当にダメ。お願いだから、そこに座ってて...?」
カムイにお願いと言われてしまうと、私は断ることができない。
「分かりました...」
「ありがとう」
カムイが頭をそっと撫でてくれた。
(やっぱりカムイに撫でられると、とても落ち着きます)
「...俺は邪魔か?」
「いえ!そんなことないです!」
「折角真夜中なんだし、三人で何か話そうか」
「はい!」
エリックさんが病室へ戻るのをカムイが止め、三人で隣街について話すことになった。
「メル、隣街での暮らしは楽しかったか?」
「はい!お仕事しているカムイがとても素敵で...」
「!」
ー**ー
『素敵』などと言われると、俺はどうしても照れてしまう。
「えっと...メル?」
「!ごめんなさい、私は、えっと...」
「メル、焦らなくてもいいから...ね?」
「...楽しんだようで何よりだ」
エリックが少しだけ居心地悪そうにしている。
「そういうエリックはどうなの?結局、『ディーラー街』で収穫はあったの?」
「俺か?...まあ、おまえと店で話して、息抜きにはなった」
エリックの『息抜きにはなった』は、けっこう楽しめたということだ。
普段から働いてばかりのエリックに、少しでも休んでもらえたならよかったと思う。
「あ、あの...」
メルが遠慮がちに聞いてくる。
「どうしたの?」
「その、あの方はどうなったのでしょうか...?」
(『呪いの悪夢』、か)
しばらく考えないようにしていた。
だが、話を聞きたいとは思っている。
「...部下からの報告によると、何度か暴れたらしい」
「暴れた?」
「ああ。『僕はなんてことを』とか、『間違っていたなんて』、とか...そういった内容を口にしているらしい」
間違えた?何の話だろうか。
殺したことを悔いているのか?
捕まったことを悔いている?
それとも...
「カムイ」
「メル、ごめん」
「今度、お話を聞きに行ってみましょう?私も一緒に行きますから...」
「ありがとう」
「俺が退院してからにしてくれるとありがたいな」
「勿論、そのつもりだよ」
エリックやメルがいるなら、前を向ける気がする。
俺は話を聞きに行こうと改めて心のなかで決心した。
しおりを挟む

処理中です...