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Until the day when I get married.-New dark appearance-
第96話
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ー**ー
「メル」
「エリックさんは、大丈夫でしたか...?」
「うん。包帯も換えてきたし、異常なしだよ」
「よかったです...」
メルは平気そうに振る舞っているけれど、無理をしているのがバレバレだった。
当然だ。
あの状況で恐怖を感じないはずがない。
「...痕にはならないはずだよ」
「ありがとうございます」
一生懸命笑おうとしてくれているのは分かる。
だが、俺は...。
「メル」
俺はメルを抱きしめる。
俺の腕のなかにおさまるそのぬくもりは、小さく震えていた。
「カムイ...?」
「強がらないで、もっと俺に我儘言って?」
これは俺の我儘だ。
だが、メルにはもっと頼ってほしいと、そう願わずにはいられなかった。
「それなら...」
メルは潤んだ瞳でこちらを見つめている。
「もう少しだけ、ぎゅーってしてもらっても、いいですか...?」
「勿論だよ」
俺がメルを強く抱きしめると、メルの眼からはぼろぼろと涙が溢れおちた。
「よしよし...」
俺はメルの頭を撫でながら、少しだけ考える。
(そうか、側にいてもいいかじゃない。大切なのは...)
「俺は、ずっとメルの側にいるから」
大切なのは、側にいたいという気持ちなんだ。
俺は、メルを離したくない。
メルの側を、離れたくない。
(ずっと大切にしたい)
ー*ー
結局、カムイにしがみついて泣いてしまった。
涙を止められなくて、カムイに心配をかけてしまった。
「ごめんなさい...」
「俺は怒ったりしてないよ?」
「でも、」
「怒ってないし、俺が甘えてほしいって思っただけだから...。でももし、言葉をくれるなら、別の言葉をくれると嬉しいな」
私は何を言ったらいいのか分からず、少し考えた。
「カムイ、ありがとうございます」
「うん。ごめんなさいよりありがとうの方がいい」
「...好きです」
「...!」
カムイは驚いたような表情をしたあと、下を向いてしまった。
「あの、何か間違っていたでしょうか?」
「...可愛い」
「え?」
「あんまり可愛いこと、突然言わないで。心臓がもたないから」
「それって、」
どういう意味ですか、と言う前に、キスがおちてきた。
いつもより長くて、息が苦しくなる。
「...ぁ」
口を少しだけ開いて息を吸おうとすると、口のなかにカムイの舌が入ってきた。
(え...?)
唇を貪られているような感覚。
いつものキスとは違っていて、なんだか体がふわふわしているような気がした。
ー**ー
「...ふぅ」
そう言ってメルがくたりとソファーに倒れこんだ時、ようやくずっとキスを続けていたことに気づいた。
メルの身体は溶けていくように、そのままソファーに沈んでいった。
「メル、ごめん!怖くなかった...?」
「いつもより体がふわふわしていましたが...その、それ以外は特に怖いとか、そんなことは思いませんでした」
メルの顔はほんのり紅く染まっていて、いつもと違って大人っぽく見えた。
「カムイ、お顔が赤くなっています。もしかして体調が悪いんですか...?」
「違うよ、こういうキスをしたのは初めてで、その...緊張したから」
「具合が悪いわけではないのならよかったです」
メルはにこにこしながら体をおこす。
「カムイ、何か作りませんか?」
「そうだね。卵はあるし、野菜もあるし...あ、フランスパンがあるから、夕食はそれにしようか」
「はい!」
「あとはスープを添えよう」
「はい!」
俺たちは何事もなかったかのように、いつものように料理をはじめた。
(エリックも、食事は普通で大丈夫なはずだし...よし)
ー*ー
「わあ...」
「スライスチーズをのせたフランスパンをこんがりなるまで焼くと...」
「すごいです、美味しそうですね!」
「よかった、焦げなかった」
カムイが慎重に取り出し、それをトレーにのせて運んでいく。
「エリックさんに持っていくんですか?」
「うん。食べてくれるといいけど...」
「絶対食べてくれます」
私はカムイが戻ってくるまでの間に、いつものように紅茶を用意する。
先程のキスを思い出してしまい、一人恥ずかしくなってしまう。
カムイが急いだ様子で戻ってきた。
「メルは座ってて?」
「でも、」
「怪我してるでしょ?」
「分かりました」
(私に気を遣って、早く戻ってきてくださったのでしょうか?)
そう思うと、カムイの行動が嬉しくて。
「メル」
優しく呼んでくれるその声をずっと聞いていたくて。
「メル?」
「ごめんなさい、何かお手伝いできることはありませんか?」
「紅茶を淹れたから、食べよう?」
「...!はい」
カムイはくすっと笑いながら、パンをゆっくりと口に運ぶ。
「美味しいです」
「それはよかった。久しぶりに作ったから、少しだけ不安だったんだ」
「そうは思えないくらい美味しいです」
「本当によかった...」
二人で食べるご飯はとても美味しくて。
私たちは最後の一口までじっくりと味わった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「カムイ」
「どうしたの?」
「えっと...」
私が言いたいことが分かったように、カムイが私を抱きしめてくれた。
「ありがとうございます」
「これくらいのことなら、いつでもするから。おやすみ、メル」
「お、おやすみなさい...」
カムイの声がいつもよりも近くに聞こえて、なんだか心臓が壊れそうな感覚に陥りながら...私は眠りについた。
「メル」
「エリックさんは、大丈夫でしたか...?」
「うん。包帯も換えてきたし、異常なしだよ」
「よかったです...」
メルは平気そうに振る舞っているけれど、無理をしているのがバレバレだった。
当然だ。
あの状況で恐怖を感じないはずがない。
「...痕にはならないはずだよ」
「ありがとうございます」
一生懸命笑おうとしてくれているのは分かる。
だが、俺は...。
「メル」
俺はメルを抱きしめる。
俺の腕のなかにおさまるそのぬくもりは、小さく震えていた。
「カムイ...?」
「強がらないで、もっと俺に我儘言って?」
これは俺の我儘だ。
だが、メルにはもっと頼ってほしいと、そう願わずにはいられなかった。
「それなら...」
メルは潤んだ瞳でこちらを見つめている。
「もう少しだけ、ぎゅーってしてもらっても、いいですか...?」
「勿論だよ」
俺がメルを強く抱きしめると、メルの眼からはぼろぼろと涙が溢れおちた。
「よしよし...」
俺はメルの頭を撫でながら、少しだけ考える。
(そうか、側にいてもいいかじゃない。大切なのは...)
「俺は、ずっとメルの側にいるから」
大切なのは、側にいたいという気持ちなんだ。
俺は、メルを離したくない。
メルの側を、離れたくない。
(ずっと大切にしたい)
ー*ー
結局、カムイにしがみついて泣いてしまった。
涙を止められなくて、カムイに心配をかけてしまった。
「ごめんなさい...」
「俺は怒ったりしてないよ?」
「でも、」
「怒ってないし、俺が甘えてほしいって思っただけだから...。でももし、言葉をくれるなら、別の言葉をくれると嬉しいな」
私は何を言ったらいいのか分からず、少し考えた。
「カムイ、ありがとうございます」
「うん。ごめんなさいよりありがとうの方がいい」
「...好きです」
「...!」
カムイは驚いたような表情をしたあと、下を向いてしまった。
「あの、何か間違っていたでしょうか?」
「...可愛い」
「え?」
「あんまり可愛いこと、突然言わないで。心臓がもたないから」
「それって、」
どういう意味ですか、と言う前に、キスがおちてきた。
いつもより長くて、息が苦しくなる。
「...ぁ」
口を少しだけ開いて息を吸おうとすると、口のなかにカムイの舌が入ってきた。
(え...?)
唇を貪られているような感覚。
いつものキスとは違っていて、なんだか体がふわふわしているような気がした。
ー**ー
「...ふぅ」
そう言ってメルがくたりとソファーに倒れこんだ時、ようやくずっとキスを続けていたことに気づいた。
メルの身体は溶けていくように、そのままソファーに沈んでいった。
「メル、ごめん!怖くなかった...?」
「いつもより体がふわふわしていましたが...その、それ以外は特に怖いとか、そんなことは思いませんでした」
メルの顔はほんのり紅く染まっていて、いつもと違って大人っぽく見えた。
「カムイ、お顔が赤くなっています。もしかして体調が悪いんですか...?」
「違うよ、こういうキスをしたのは初めてで、その...緊張したから」
「具合が悪いわけではないのならよかったです」
メルはにこにこしながら体をおこす。
「カムイ、何か作りませんか?」
「そうだね。卵はあるし、野菜もあるし...あ、フランスパンがあるから、夕食はそれにしようか」
「はい!」
「あとはスープを添えよう」
「はい!」
俺たちは何事もなかったかのように、いつものように料理をはじめた。
(エリックも、食事は普通で大丈夫なはずだし...よし)
ー*ー
「わあ...」
「スライスチーズをのせたフランスパンをこんがりなるまで焼くと...」
「すごいです、美味しそうですね!」
「よかった、焦げなかった」
カムイが慎重に取り出し、それをトレーにのせて運んでいく。
「エリックさんに持っていくんですか?」
「うん。食べてくれるといいけど...」
「絶対食べてくれます」
私はカムイが戻ってくるまでの間に、いつものように紅茶を用意する。
先程のキスを思い出してしまい、一人恥ずかしくなってしまう。
カムイが急いだ様子で戻ってきた。
「メルは座ってて?」
「でも、」
「怪我してるでしょ?」
「分かりました」
(私に気を遣って、早く戻ってきてくださったのでしょうか?)
そう思うと、カムイの行動が嬉しくて。
「メル」
優しく呼んでくれるその声をずっと聞いていたくて。
「メル?」
「ごめんなさい、何かお手伝いできることはありませんか?」
「紅茶を淹れたから、食べよう?」
「...!はい」
カムイはくすっと笑いながら、パンをゆっくりと口に運ぶ。
「美味しいです」
「それはよかった。久しぶりに作ったから、少しだけ不安だったんだ」
「そうは思えないくらい美味しいです」
「本当によかった...」
二人で食べるご飯はとても美味しくて。
私たちは最後の一口までじっくりと味わった。
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「カムイ」
「どうしたの?」
「えっと...」
私が言いたいことが分かったように、カムイが私を抱きしめてくれた。
「ありがとうございます」
「これくらいのことなら、いつでもするから。おやすみ、メル」
「お、おやすみなさい...」
カムイの声がいつもよりも近くに聞こえて、なんだか心臓が壊れそうな感覚に陥りながら...私は眠りについた。
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