137 / 220
Until the day when I get married.-New dark appearance-
第96話
しおりを挟む
ー**ー
「メル」
「エリックさんは、大丈夫でしたか...?」
「うん。包帯も換えてきたし、異常なしだよ」
「よかったです...」
メルは平気そうに振る舞っているけれど、無理をしているのがバレバレだった。
当然だ。
あの状況で恐怖を感じないはずがない。
「...痕にはならないはずだよ」
「ありがとうございます」
一生懸命笑おうとしてくれているのは分かる。
だが、俺は...。
「メル」
俺はメルを抱きしめる。
俺の腕のなかにおさまるそのぬくもりは、小さく震えていた。
「カムイ...?」
「強がらないで、もっと俺に我儘言って?」
これは俺の我儘だ。
だが、メルにはもっと頼ってほしいと、そう願わずにはいられなかった。
「それなら...」
メルは潤んだ瞳でこちらを見つめている。
「もう少しだけ、ぎゅーってしてもらっても、いいですか...?」
「勿論だよ」
俺がメルを強く抱きしめると、メルの眼からはぼろぼろと涙が溢れおちた。
「よしよし...」
俺はメルの頭を撫でながら、少しだけ考える。
(そうか、側にいてもいいかじゃない。大切なのは...)
「俺は、ずっとメルの側にいるから」
大切なのは、側にいたいという気持ちなんだ。
俺は、メルを離したくない。
メルの側を、離れたくない。
(ずっと大切にしたい)
ー*ー
結局、カムイにしがみついて泣いてしまった。
涙を止められなくて、カムイに心配をかけてしまった。
「ごめんなさい...」
「俺は怒ったりしてないよ?」
「でも、」
「怒ってないし、俺が甘えてほしいって思っただけだから...。でももし、言葉をくれるなら、別の言葉をくれると嬉しいな」
私は何を言ったらいいのか分からず、少し考えた。
「カムイ、ありがとうございます」
「うん。ごめんなさいよりありがとうの方がいい」
「...好きです」
「...!」
カムイは驚いたような表情をしたあと、下を向いてしまった。
「あの、何か間違っていたでしょうか?」
「...可愛い」
「え?」
「あんまり可愛いこと、突然言わないで。心臓がもたないから」
「それって、」
どういう意味ですか、と言う前に、キスがおちてきた。
いつもより長くて、息が苦しくなる。
「...ぁ」
口を少しだけ開いて息を吸おうとすると、口のなかにカムイの舌が入ってきた。
(え...?)
唇を貪られているような感覚。
いつものキスとは違っていて、なんだか体がふわふわしているような気がした。
ー**ー
「...ふぅ」
そう言ってメルがくたりとソファーに倒れこんだ時、ようやくずっとキスを続けていたことに気づいた。
メルの身体は溶けていくように、そのままソファーに沈んでいった。
「メル、ごめん!怖くなかった...?」
「いつもより体がふわふわしていましたが...その、それ以外は特に怖いとか、そんなことは思いませんでした」
メルの顔はほんのり紅く染まっていて、いつもと違って大人っぽく見えた。
「カムイ、お顔が赤くなっています。もしかして体調が悪いんですか...?」
「違うよ、こういうキスをしたのは初めてで、その...緊張したから」
「具合が悪いわけではないのならよかったです」
メルはにこにこしながら体をおこす。
「カムイ、何か作りませんか?」
「そうだね。卵はあるし、野菜もあるし...あ、フランスパンがあるから、夕食はそれにしようか」
「はい!」
「あとはスープを添えよう」
「はい!」
俺たちは何事もなかったかのように、いつものように料理をはじめた。
(エリックも、食事は普通で大丈夫なはずだし...よし)
ー*ー
「わあ...」
「スライスチーズをのせたフランスパンをこんがりなるまで焼くと...」
「すごいです、美味しそうですね!」
「よかった、焦げなかった」
カムイが慎重に取り出し、それをトレーにのせて運んでいく。
「エリックさんに持っていくんですか?」
「うん。食べてくれるといいけど...」
「絶対食べてくれます」
私はカムイが戻ってくるまでの間に、いつものように紅茶を用意する。
先程のキスを思い出してしまい、一人恥ずかしくなってしまう。
カムイが急いだ様子で戻ってきた。
「メルは座ってて?」
「でも、」
「怪我してるでしょ?」
「分かりました」
(私に気を遣って、早く戻ってきてくださったのでしょうか?)
そう思うと、カムイの行動が嬉しくて。
「メル」
優しく呼んでくれるその声をずっと聞いていたくて。
「メル?」
「ごめんなさい、何かお手伝いできることはありませんか?」
「紅茶を淹れたから、食べよう?」
「...!はい」
カムイはくすっと笑いながら、パンをゆっくりと口に運ぶ。
「美味しいです」
「それはよかった。久しぶりに作ったから、少しだけ不安だったんだ」
「そうは思えないくらい美味しいです」
「本当によかった...」
二人で食べるご飯はとても美味しくて。
私たちは最後の一口までじっくりと味わった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「カムイ」
「どうしたの?」
「えっと...」
私が言いたいことが分かったように、カムイが私を抱きしめてくれた。
「ありがとうございます」
「これくらいのことなら、いつでもするから。おやすみ、メル」
「お、おやすみなさい...」
カムイの声がいつもよりも近くに聞こえて、なんだか心臓が壊れそうな感覚に陥りながら...私は眠りについた。
「メル」
「エリックさんは、大丈夫でしたか...?」
「うん。包帯も換えてきたし、異常なしだよ」
「よかったです...」
メルは平気そうに振る舞っているけれど、無理をしているのがバレバレだった。
当然だ。
あの状況で恐怖を感じないはずがない。
「...痕にはならないはずだよ」
「ありがとうございます」
一生懸命笑おうとしてくれているのは分かる。
だが、俺は...。
「メル」
俺はメルを抱きしめる。
俺の腕のなかにおさまるそのぬくもりは、小さく震えていた。
「カムイ...?」
「強がらないで、もっと俺に我儘言って?」
これは俺の我儘だ。
だが、メルにはもっと頼ってほしいと、そう願わずにはいられなかった。
「それなら...」
メルは潤んだ瞳でこちらを見つめている。
「もう少しだけ、ぎゅーってしてもらっても、いいですか...?」
「勿論だよ」
俺がメルを強く抱きしめると、メルの眼からはぼろぼろと涙が溢れおちた。
「よしよし...」
俺はメルの頭を撫でながら、少しだけ考える。
(そうか、側にいてもいいかじゃない。大切なのは...)
「俺は、ずっとメルの側にいるから」
大切なのは、側にいたいという気持ちなんだ。
俺は、メルを離したくない。
メルの側を、離れたくない。
(ずっと大切にしたい)
ー*ー
結局、カムイにしがみついて泣いてしまった。
涙を止められなくて、カムイに心配をかけてしまった。
「ごめんなさい...」
「俺は怒ったりしてないよ?」
「でも、」
「怒ってないし、俺が甘えてほしいって思っただけだから...。でももし、言葉をくれるなら、別の言葉をくれると嬉しいな」
私は何を言ったらいいのか分からず、少し考えた。
「カムイ、ありがとうございます」
「うん。ごめんなさいよりありがとうの方がいい」
「...好きです」
「...!」
カムイは驚いたような表情をしたあと、下を向いてしまった。
「あの、何か間違っていたでしょうか?」
「...可愛い」
「え?」
「あんまり可愛いこと、突然言わないで。心臓がもたないから」
「それって、」
どういう意味ですか、と言う前に、キスがおちてきた。
いつもより長くて、息が苦しくなる。
「...ぁ」
口を少しだけ開いて息を吸おうとすると、口のなかにカムイの舌が入ってきた。
(え...?)
唇を貪られているような感覚。
いつものキスとは違っていて、なんだか体がふわふわしているような気がした。
ー**ー
「...ふぅ」
そう言ってメルがくたりとソファーに倒れこんだ時、ようやくずっとキスを続けていたことに気づいた。
メルの身体は溶けていくように、そのままソファーに沈んでいった。
「メル、ごめん!怖くなかった...?」
「いつもより体がふわふわしていましたが...その、それ以外は特に怖いとか、そんなことは思いませんでした」
メルの顔はほんのり紅く染まっていて、いつもと違って大人っぽく見えた。
「カムイ、お顔が赤くなっています。もしかして体調が悪いんですか...?」
「違うよ、こういうキスをしたのは初めてで、その...緊張したから」
「具合が悪いわけではないのならよかったです」
メルはにこにこしながら体をおこす。
「カムイ、何か作りませんか?」
「そうだね。卵はあるし、野菜もあるし...あ、フランスパンがあるから、夕食はそれにしようか」
「はい!」
「あとはスープを添えよう」
「はい!」
俺たちは何事もなかったかのように、いつものように料理をはじめた。
(エリックも、食事は普通で大丈夫なはずだし...よし)
ー*ー
「わあ...」
「スライスチーズをのせたフランスパンをこんがりなるまで焼くと...」
「すごいです、美味しそうですね!」
「よかった、焦げなかった」
カムイが慎重に取り出し、それをトレーにのせて運んでいく。
「エリックさんに持っていくんですか?」
「うん。食べてくれるといいけど...」
「絶対食べてくれます」
私はカムイが戻ってくるまでの間に、いつものように紅茶を用意する。
先程のキスを思い出してしまい、一人恥ずかしくなってしまう。
カムイが急いだ様子で戻ってきた。
「メルは座ってて?」
「でも、」
「怪我してるでしょ?」
「分かりました」
(私に気を遣って、早く戻ってきてくださったのでしょうか?)
そう思うと、カムイの行動が嬉しくて。
「メル」
優しく呼んでくれるその声をずっと聞いていたくて。
「メル?」
「ごめんなさい、何かお手伝いできることはありませんか?」
「紅茶を淹れたから、食べよう?」
「...!はい」
カムイはくすっと笑いながら、パンをゆっくりと口に運ぶ。
「美味しいです」
「それはよかった。久しぶりに作ったから、少しだけ不安だったんだ」
「そうは思えないくらい美味しいです」
「本当によかった...」
二人で食べるご飯はとても美味しくて。
私たちは最後の一口までじっくりと味わった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「カムイ」
「どうしたの?」
「えっと...」
私が言いたいことが分かったように、カムイが私を抱きしめてくれた。
「ありがとうございます」
「これくらいのことなら、いつでもするから。おやすみ、メル」
「お、おやすみなさい...」
カムイの声がいつもよりも近くに聞こえて、なんだか心臓が壊れそうな感覚に陥りながら...私は眠りについた。
0
お気に入りに追加
96
あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢の反撃の日々
くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

なにをおっしゃいますやら
基本二度寝
恋愛
本日、五年通った学び舎を卒業する。
エリクシア侯爵令嬢は、己をエスコートする男を見上げた。
微笑んで見せれば、男は目線を逸らす。
エブリシアは苦笑した。
今日までなのだから。
今日、エブリシアは婚約解消する事が決まっているのだから。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる