路地裏のマッチ売りの少女

黒蝶

文字の大きさ
上 下
133 / 220
Until the day when I get married.-New dark appearance-

第92話

しおりを挟む
ー*ー
「いただきます」
「いただきます」
私とカムイがいつものように食べはじめようとしたとき、エリックさんが一枚の用紙を持っていた。
「二人とも、こういうものはきちんとしまっておかないと、」
「はわわわ...」
「エリック、あんまり見ないで...」
私は恥ずかしくて、ドキドキが止まらなかった。
でもそれは、カムイも同じだったようで。
「珍しいな、おまえがそんなに慌てるのは」
「当たり前でしょ?これは流石に、誰でも慌てる」
「ククッ...」
エリックさんが声を圧し殺して笑っていた。
「ナタリーたちにはまだ言わないつもりだから、言わないでね?」
「確かに言ったら色々はりきりそうだな。...分かった」
ナタリーさんのことが少しだけ気になった。
さっきは本当に元気をなくして帰ってしまったから、どうなったのか...
「メル」
「は、はい!」
ぼーっとしていると、カムイに話しかけられた。
「ちょっといいかな?」
「はい」
「エリック、ゆっくりしてて」
「ああ」
私はカムイについていく。
ベッドルームに入ったところで、カムイがいつもより真剣な表情で問いかけてきた。
「もしかして...メルの左眼は、力を抑えたりしてるの?」
「...!」
ー**ー
やはり図星だったようだ。
「ナタリーにアドバイスしてるとき、なんだかやったことがあるような言い方だったから...。話したくなかったらいいんだ。でも、俺はメルのことをもっと知りたい」
「カムイ...」
メルは呼吸を整えてから、ゆっくりと話しはじめた。
「私、この前あの方に会ったとき...あの方の心
のなかまで視えたんです」
「心が、形になっていたってこと?」
「...はい」
今までは、そんなことなかったはずなのに。
ー*ー
全てを話そう。
「よくよく思い出してみると、前にもあったんです。おばあさまに、落ち着きなさいって言われて...」
その日から私は、左眼を使うときは無意識のうちに心を落ち着かせていたようだ。
《落ち着けば大丈夫だからねえ...》
あのときはおばあさまの心が視えてしまった。
(たしか、お花の形でした)
「...そっか」
「カムイ?」
(何か言ってはいけないことを言ってしまったのでしょうか...?)
ー**ー
メルの様子が少しだけおかしかったのは気づいていた。
だが、あと一歩のところで踏みこまずにいた。
...いや、違う。
踏みこまずに逃げていた。
俺はメルを勢いよく抱きしめた。
「カムイ...?」
「ごめんね、メルが辛い思いをしているのに気づかなくて...」
「いえ、私は平気ですよ?」
「無理しなくていいんだよ」
「...っ、それなら、少しだけ泣いてもいいですか...?」
「いいよ。俺が側にいるから」
メルは小さく嗚咽をもらした。
隠すのは、どれだけ辛かったのだろう。
一人で生きてきた間は、きっと今よりも辛かったはずだ。
あの日出会えて本当によかったと、心から思った。
ー*ー
「ごめんなさい、たくさん泣いてしまって...」
「気にしないで。俺は、嬉しかったから」
カムイはいつも優しいけれど、今日は一段と優しくしてくれているような気がした。
「そういえば、ご飯まだだったね」
「はい」
「行こうか。エリックも待ってるし」
「...はい」
私は差し出された手を、そっと握った。
「...メル、カムイに泣かされたのか?」
「いえ!そうではなくて、えっと、その...」
「メル、慌てなくていいよ」
カムイがくすくすと笑っている。
「なんでもありません」
「...カムイに何かされたら、すぐに俺に言え」
「ありがとうございます!」
「何かある前提で言わないでくれるとありがたいなあ...」
ー**ー
「ご、ごめんなさい!」
「怒ってないよ」
メルがものすごい早さで謝ってきた。
俺は、なんだか悪いことをした気分になった。
「本当に怒ってないから...ね?」
「むう...」
メルは少しだけ頬をふくらませていた。
「よしよし、やっぱりメルは可愛いね」
「そんなことないですよ」
「...俺はもう戻る。邪魔したな」
「ああ、一人で動かすのは大変だから、俺が押すよ」
エリックがいることをすっかり忘れて、メルといつものようにいちゃいちゃしてしまった。
「すまない」
「気にしないで」
俺は急いでメルの所へ戻る。
「メル」
「はい」
「俺たちも食べようか」
「はい!」
メルは勢いよく頷いた。
(やっぱりメルのこういうところ、俺は好きだな...)
怒った顔も、素直なところも...すごく可愛い。
メルが能力と共に生きると決めたなら、俺はその道を一緒に歩いていきたい。
「カムイ」
「ん?」
「その、婚姻届はどうするんですか?」
「...ベンに、出してもらっておこうか」
「はい。それがいいと思います」
エリックが心配で離れられない。
そういう気持ちを察してくれているのだと思うと、俺は頬を緩めずにはいられなかった。
しおりを挟む
感想 76

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

処理中です...