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Until the day when I get engaged. -Of light, ahead of it...-
閑話『1 day of a hospitalization assistant police inspector』
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深夜、俺の親友は恋人をおぶって帰ってきた。
「上手くいったか?」
「どうして分かったの?」
「...ポケットが膨らんでいたからだ。膨らみからして、仕事絡みではないと判断した」
「...流石だね」
「見ていれば分かる」
「取り敢えず、メルを寝かせてくるよ」
少し照れくさそうにしながら、カムイはそそくさと立ち去ってしまった。
(さて、俺はどうするか)
俺は呑気に療養することにした。
じたばたしても仕方ないのだ。
《エリック目線》
翌朝、メルが朝食を持ってきてくれた。
「エリックさん、食べられそうですか?」
「ああ。ありがとう」
「よかったです」
メルはいつものようににこにこしている。
そのとき、扉が激しく叩かれた。
「...っ」
(...そうか)
「大丈夫だ」
俺はメルにそっと言い聞かせた。
恐らくメルは、大きな音が苦手なのだろう。
「カムイは?」
「多分、きます...」
扉が少し乱暴に開かれる。
第一声で、誰なのか分かった。
「警部補ぉ...!よくぞご無事で!」
「おまえたち、もう少し静かに入ってこられなかったのか」
「失礼しました!」
「だから、」
「...ここは一応病院なんだけど」
「失礼しました!」
カムイが少々怒り気味でこちらへとやってきた。
「他の人がきたら迷惑だから、もしきたらもう少し静かにしてあげてね」
「...すみませんでした」
「ありがとう」
カムイはメルの手をひく。
メルは少し戸惑った様子を見せながらも、カムイにされるがままになっていた。
「警部補、報告があるのですが...退院されてからでもよろしいでしょうか?」
「ああ。助かる」
しばらく話していると、軽く扉が叩かれる音が聞こえる。
「あの、子どもが体調を崩したようで...」
「ごめんなさい、どうぞ」
バタバタとカムイがやってくる。
...メルも一緒だ。
「せんせー、こんにちは...」
「はい、こんにちは。...お母さん、申し訳ありませんが、少しだけこの子と話をさせていただけませんか?」
「...では、十分後に迎えにきてもかまいませんか?夕飯の買いだしをしてきたいので...」
「はい、どうぞ」
母親は診療所を出てしまった。
(そういえば、カムイが診察するところをはじめて見るな...)
「じゃあマイクくん、何をしたのか話してくれるかな?」
子どもは驚いている。
「どうして...」
「だって、右足を怪我してるでしょ?でも、その怪我は誰かに蹴られた痕だ。喧嘩したの?」
その子どもは泣きながら話しはじめた。
「あのね、ボールで遊んでいる子たちがいたの。近くに、お屋敷が、あったのに...言うことを聞いてくれなくて」
「うんうん」
「そしたら、お屋敷の人が出てきてね、それで...」
「いきなり怒られたの?」
子どもは小さく頷いた。
「それって暴行罪が適応されるかもしれないな」
「...!おまわりさん?」
「ああ」
俺はしまったと思いつつ、言葉を続ける。
「いきなり何もしていないのに、蹴られたのだろう?それはおかしい。俺は今動けないが...」
「警部補、自分が行きます!」
「ああ、頼む」
「どのお屋敷かな?」
「青い屋根の...」
色々と話を聞いているうちに、腹がたってきた。
「ねえ、せんせえ」
「ん?」
「せんせえは、悪いことをしたんじゃないよね?」
警官がたくさんいるからだろう。
(俺の見舞いなのだが...)
「してないよ、そのお兄さんが患者さんなんだ」
子どもが俺の方を向く。
「痛そうだね...」
「それほどでもない」
「せーぎのみかただから?」
俺は違うと答えようとした。
「そうだよ。正義の味方」
メルも何か言いたげな様子だった。
俺もそれを否定したかった。
だが、できない。
カムイのような『特別捜査官』...『秘密警察』のような存在は、いくら表社会に貢献しても、身分を明かすことが赦されない。
俺がしていることは当然のことだけなのに。
...本当の正義の味方は、カムイなのに。
俺は複雑な気持ちになった。
「カムイ、お迎えがいらっしゃったようです」
「はい、治療は終わり。それじゃあお大事にね」
「せんせー、ありがとう!」
子どもは元気に飛び出していった。
俺は、どうするのが正しかったのだろうか。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「俺は、正義の味方なんかじゃない」
見舞いにきていたメンバーも帰り、メルとカムイと俺だけになったとき、俺はつい口走ってしまった。
「俺にとっての正義の味方はエリックだけど?」
「でも、私にとっての正義の味方はカムイです」
「俺もメルと同意見だ」
しばらく考えこむようにしたあと、カムイが口を開いた。
「...俺は、正義の味方にはなれない。それに、俺の周りだけ知っていてくれればいい。今までは、この仕事に意味を見つけられなかった。でも、みんなのおかげで悪くないと思えたんだ」
「...そうか」
『俺の周りだけ』、か。
俺はどうか分からないが、ナタリーやベン...特にメルが大きな影響を与えたのだろう。
「私はカムイの味方でいます」
「俺もだ」
「...二人とも、ありがとう」
いつかカムイが、ちゃんと笑っていられる世界を作りたかった。
だが...それは、メルのおかげで叶ったようだ。
「エリック、あとで包帯を換えにくるね。あとご飯も」
「すまない」
「行こう、メル」
「はい!」
今度こそ、二人に平和な時がおとずれるように...俺はらしくないと思いつつ、美しい満月に願った。
「上手くいったか?」
「どうして分かったの?」
「...ポケットが膨らんでいたからだ。膨らみからして、仕事絡みではないと判断した」
「...流石だね」
「見ていれば分かる」
「取り敢えず、メルを寝かせてくるよ」
少し照れくさそうにしながら、カムイはそそくさと立ち去ってしまった。
(さて、俺はどうするか)
俺は呑気に療養することにした。
じたばたしても仕方ないのだ。
《エリック目線》
翌朝、メルが朝食を持ってきてくれた。
「エリックさん、食べられそうですか?」
「ああ。ありがとう」
「よかったです」
メルはいつものようににこにこしている。
そのとき、扉が激しく叩かれた。
「...っ」
(...そうか)
「大丈夫だ」
俺はメルにそっと言い聞かせた。
恐らくメルは、大きな音が苦手なのだろう。
「カムイは?」
「多分、きます...」
扉が少し乱暴に開かれる。
第一声で、誰なのか分かった。
「警部補ぉ...!よくぞご無事で!」
「おまえたち、もう少し静かに入ってこられなかったのか」
「失礼しました!」
「だから、」
「...ここは一応病院なんだけど」
「失礼しました!」
カムイが少々怒り気味でこちらへとやってきた。
「他の人がきたら迷惑だから、もしきたらもう少し静かにしてあげてね」
「...すみませんでした」
「ありがとう」
カムイはメルの手をひく。
メルは少し戸惑った様子を見せながらも、カムイにされるがままになっていた。
「警部補、報告があるのですが...退院されてからでもよろしいでしょうか?」
「ああ。助かる」
しばらく話していると、軽く扉が叩かれる音が聞こえる。
「あの、子どもが体調を崩したようで...」
「ごめんなさい、どうぞ」
バタバタとカムイがやってくる。
...メルも一緒だ。
「せんせー、こんにちは...」
「はい、こんにちは。...お母さん、申し訳ありませんが、少しだけこの子と話をさせていただけませんか?」
「...では、十分後に迎えにきてもかまいませんか?夕飯の買いだしをしてきたいので...」
「はい、どうぞ」
母親は診療所を出てしまった。
(そういえば、カムイが診察するところをはじめて見るな...)
「じゃあマイクくん、何をしたのか話してくれるかな?」
子どもは驚いている。
「どうして...」
「だって、右足を怪我してるでしょ?でも、その怪我は誰かに蹴られた痕だ。喧嘩したの?」
その子どもは泣きながら話しはじめた。
「あのね、ボールで遊んでいる子たちがいたの。近くに、お屋敷が、あったのに...言うことを聞いてくれなくて」
「うんうん」
「そしたら、お屋敷の人が出てきてね、それで...」
「いきなり怒られたの?」
子どもは小さく頷いた。
「それって暴行罪が適応されるかもしれないな」
「...!おまわりさん?」
「ああ」
俺はしまったと思いつつ、言葉を続ける。
「いきなり何もしていないのに、蹴られたのだろう?それはおかしい。俺は今動けないが...」
「警部補、自分が行きます!」
「ああ、頼む」
「どのお屋敷かな?」
「青い屋根の...」
色々と話を聞いているうちに、腹がたってきた。
「ねえ、せんせえ」
「ん?」
「せんせえは、悪いことをしたんじゃないよね?」
警官がたくさんいるからだろう。
(俺の見舞いなのだが...)
「してないよ、そのお兄さんが患者さんなんだ」
子どもが俺の方を向く。
「痛そうだね...」
「それほどでもない」
「せーぎのみかただから?」
俺は違うと答えようとした。
「そうだよ。正義の味方」
メルも何か言いたげな様子だった。
俺もそれを否定したかった。
だが、できない。
カムイのような『特別捜査官』...『秘密警察』のような存在は、いくら表社会に貢献しても、身分を明かすことが赦されない。
俺がしていることは当然のことだけなのに。
...本当の正義の味方は、カムイなのに。
俺は複雑な気持ちになった。
「カムイ、お迎えがいらっしゃったようです」
「はい、治療は終わり。それじゃあお大事にね」
「せんせー、ありがとう!」
子どもは元気に飛び出していった。
俺は、どうするのが正しかったのだろうか。
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「俺は、正義の味方なんかじゃない」
見舞いにきていたメンバーも帰り、メルとカムイと俺だけになったとき、俺はつい口走ってしまった。
「俺にとっての正義の味方はエリックだけど?」
「でも、私にとっての正義の味方はカムイです」
「俺もメルと同意見だ」
しばらく考えこむようにしたあと、カムイが口を開いた。
「...俺は、正義の味方にはなれない。それに、俺の周りだけ知っていてくれればいい。今までは、この仕事に意味を見つけられなかった。でも、みんなのおかげで悪くないと思えたんだ」
「...そうか」
『俺の周りだけ』、か。
俺はどうか分からないが、ナタリーやベン...特にメルが大きな影響を与えたのだろう。
「私はカムイの味方でいます」
「俺もだ」
「...二人とも、ありがとう」
いつかカムイが、ちゃんと笑っていられる世界を作りたかった。
だが...それは、メルのおかげで叶ったようだ。
「エリック、あとで包帯を換えにくるね。あとご飯も」
「すまない」
「行こう、メル」
「はい!」
今度こそ、二人に平和な時がおとずれるように...俺はらしくないと思いつつ、美しい満月に願った。
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