路地裏のマッチ売りの少女

黒蝶

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Until the day when I get engaged. -Of light, ahead of it...-

第90話

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ー**ー
「三人で馬車に乗るの、はじめてです!」
「それはよかった」
三日後、予定どおり馬車はやってきた。
(流石はベンの計らいだな...)
「エリック、傷は大丈夫そう?」
「別にそこまで痛むわけではない」
エリックが痛むということは、やはり相当な深傷を負ったということだ。
「そんなに申し訳なさそうにするな。別におまえが悪いわけじゃないだろ」
エリックはそう言ってくれるけど、どうしても気分が沈んでしまう。
「...カムイの元気がなくなると、みなさんの元気もなくなってしまいます」
メルが心配そうにこちらを見ている。
「ごめんね」
「俺がいては邪魔そうだな」
「いえ、そんなことないです!三人の方が賑やかです」
メルはにこにこしながら首のスカーフを少しずらしていた。
「着いたみたいだぞ」
「そうだね」
俺はメルに先に降りるように言って、エリックを横抱きにする。
「カムイ、力持ちですね」
ー*ー
「エリックが軽いだけだよ」
ほんのちょっとだけ、カムイが元気になってくれたような気がした。
「もういい、降ろしてくれ。歩けないほどの重傷ではない」
「段差があったら響くだろうと思って」
「助かった」
エリックさんはしばらくの間、診療所のベッドで暮らすことになった。
(エリックさんが好きなものって、なんでしょうか...?)
「カムイ、エリックさんのご飯と私たちのご飯は同じでいいのでしょうか?」
「うん、喉をやられたわけじゃないから...。スープとかがいいかもしれないね。もうすぐ夜だし...」
「コーンスープを作りましょう!」
「そうだね」
私は久しぶりにカムイと一緒に料理をした。
最近は入浴を済ませた方が先に作っていたからだ。
でもここで暮らせるということは、また一緒にこうして料理をしたりする時間も増えるのだ...。
そう思うと、笑みをこぼさずにはいられなかった。
「メル、なんだか嬉しそうだね」
「はい!カムイが一緒にお料理をしてくれるからです!」
「...」
「あの、カムイ...?」
私は何か、言ってはいけないことを言ってしまったのだろうか。
カムイは私を抱き寄せた。
「カムイ...?」
ー**ー
あまり可愛いことを言われすぎると、俺は歯止めが効かなくなってしまう。
「...嬉しい」
「え?」
「メルがそうやって大切に思っていてくれたんだなって思うと...俺は嬉しくてどうしようもなくなる」
「カムイ...」
「う、ううん!」
「...!」
「ああ、エリック」
しまった、そろそろ起きてくるかもしれないと思っていたのに、すっかり油断していた。
「すまない、喉がかわいてな...」
「えっと、ジュースならあります!」
「エリックは寝てて。俺が持っていくから」
「...すまない」
エリックには申し訳ないが、しばらくメルを離せそうにない。
戻っていくエリックの背中に、ほんの少しだけ謝罪した。
「カムイ、エリックさんが待ってますよ?」
「...そうだね、ごめん」
俺は若干渋々身体を離した。
エリックの所へ行くからと、俺は診療所へと向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「邪魔したな」
「別に」
(ドアを破壊する誰かさんみたいに、毎回タイミングが悪いわけじゃないんだし...)
「今日は、流星群だな」
「...?うん」
「俺は大丈夫だ」
「嘘つき」
「ずっとよくなった。それに、こんな街中で襲う馬鹿はいない」
俺は、エリックが何を言いたいのか分からない。
頭のなかを様々な思考が廻り廻って、ようやく理解した。
「...エリック、ありがとう」
「別に」
「これ、綺麗にしたから」
俺はメルの所へと向かう。
「...不器用な奴だ」
そう呟くエリックの手には、大切な金の星のストラップが光り輝いていた。
ー*ー
「これからお出かけ、ですか?」
「うん」
私は行き先も告げられず、カムイに連れられるままになっていた。
「ごめん、本当は丘の上まで行きたいんだけど...」
「エリックさんが心配なんですね」
「うん」
その瞬間、星々が一斉に瞬きはじめた。
「わあ...。とっても綺麗ですね」
「メル」
「はい」
カムイが私に跪いた。
「カムイ?どうしたんですか?もしかして、体調が...」
「俺は、メルとずっとこの景色を見ていたい」
「...?」
「だから...」
そっと私の左手に指輪がはめられる。
「俺の、奥さんになって?」
...何がおこっているのか、いまひとつ分からなかった。
「え?え?」
ー**ー
俺は、失敗しただろうか。
「単純に言うと...俺と、婚約して?」
「...悪戯とか、夢じゃ、ないんですよね...?」
メルは信じられないというような表情をしている。
「悪戯じゃないよ。それに...」
俺はメルの手の甲に口づける。
「ほら、夢じゃないでしょ?」
「...はい」
メルは恥ずかしそうに、少し小さめの声で答えてくれた。
「...よろしくお願いします」
「よかった、嫌われたらどうしようかと思った」
「私は、カムイを嫌いになったりしませんよ」
俺が立ち上がると、メルはぎゅっと嬉しそうに抱きついてきた。
「...!」
俺はそっとメルの背中に手を回した。
空の星たちが、俺たちを祝福するようにキラキラと輝きつづけていた。
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