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Until the day when I get engaged. -Of light, ahead of it...-
第89話
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あいつが逮捕される瞬間を見た。
(これで安心だな...)
視界がぼやけていく。
「エリック!」
カムイの叫び声を最後に、俺の意識はぷっつり途絶えた。
ー**ー
「エリック!」
やはり、もう限界だったようだ。
「エリックさん...?」
メルが怯えたようにエリックを見ている。
「メル、運ぶのを手伝ってくれる?今ならまだ間に合う」
「はい!」
エリックはあまり重くはないが、軽くはない。
平均的なのだ。
(俺だけで運ぶのは危険すぎる)
息はあるエリックを、必死で隠れ家に運ぶ。
「カムイ、私に何かできることはありますか?」
「...メル、血とか怖くないの?」
今のエリックは、ナタリーなら間違いなく悲鳴をあげて倒れるような状態だ。
「ちょっと怖いですけど...でも、エリックさんを助けられるなら、なんでもしたいです。それに...なれてますから」
メルはにこにこしている。
だが、その小さな背中に背負っているものの重さが少しだけ見えたような気がした。
「ありがとう」
俺は、それだけ言うのが精一杯だった。
ー*ー
「メル、綺麗な布とかないかな?」
テーブルクロスは汚れているし、あと使えるものは...。
色々考えたあと、私はあることを思いついた。
「カムイ、ナイフをお借りできますか?」
「え?...はい」
「ありがとうございます」
(...音をたてないようにしないとです)
そっと切ったつもりだったけれど、
ビリリリリ!
「...!」
盛大に音が鳴ってしまった。
「メル...?」
「あ、あとでお話しますから、これで大丈夫ですか?」
「...う、うん」
カムイがてきぱきと処置を済ませた。
「ふう...。あとは目を覚ますのを待つだけだ。ありがとう、メル」
「いえ、私は何も...」
「そんなことないよ」
カムイはそう言いながら、そっとエリックさんの髪を綺麗に整えていた。
「あの、カムイ」
「どうしたの?」
「エリックさんとお話したこと、教えてください。それに、エリックさんのことも...」
あれだけの重傷なら、普通の人は痛がるはずだ。
なのに、ちっともそんな素振りはなかった。
それはある意味特別だと思った。
「...エリックは、無痛病に近い体質なんだ」
「無痛病...?」
ー**ー
もう全てを話そう。
俺はそう思った。
「うん、痛みを感じない病。治療法も原因も不明なんだ」
「でも、さっきカムイは『体質』って...」
「エリックは全く痛みを感じないわけじゃない。でも、人よりかなり痛みを感じるのが遅いから、ここまで怪我をしないと痛みがこないんだよ」
エリックは打撲傷を負おうと骨が折れようと、倒れる寸前まで痛みがこない。
今回もそれが心配ではあった。
(結果こうなったわけだけど...)
「メル、そういえばどうしてエリックが演技してると思ったの?」
「それは...傷が痛むなら、痛む場所に手をあてながらお話すると思ったからです。でも、エリックさんは普通に前を向いて叫んでいました...」
やはりメルは周りをよく見ている。
なかなか気づかないものだと思うのだが...。
「長くなるんだけど、話すね」
ーーーーーーーーーーーーーーーー【回想】ーーーーーーーーーーーーーーーー
《俺が狙われているのなら、俺が囮になればいい》
「エリック、何を言って...」
《俺が殺されれば、次に狙われるのは恐らくメルだ。それに、おまえなら俺を見捨てずにくるんだろう?》
「それはそうだけど、」
《...あまり得意ではないが、ナイフを持っておく。あいつは俺が銃しか持っていないと思っているはずだ。そこをつく。これで終わりにできるなら、それでいいだろう》
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「成る程、だから縛られていたはずの腕が自由に使えるようになっていたんですね」
「うん」
そのあと無茶だと何度も止めようとしたが、聞き入れてもらえなかった。
エリックは頑固なのだ。
俺はメルの首に、濡らしたスカーフを巻いた。
「ありがとうございます」
「メル...」
「なんでしょうか?」
「その、早く着替えておいで?」
「...!ごめんなさい!」
メルは顔を真っ赤にして部屋へ行ってしまった。
(それにしても...まさかメルが自分のスカートを切って布として渡してくるとは思っていなかったな)
ー*ー
「お待たせしました!」
私は破ったスカートをそっとトランクに詰め、長いズボンを履いた。
上はカッターシャツだ。
「さっきとだいぶ印象が違う服装にしたんだね」
「変でしょうか?」
「ううん、似合ってるよ」
カムイが私の頭をそっと撫でてくれた。
「メル、ありがとう」
「私は何もしていませんよ?」
「俺の側にいてくれた。それだけで充分だよ」
「カムイ...」
カムイの顔が近づいてきて、私はそっと目を閉じ...
「...っ」
小さく呻く声が聞こえた。
その方を見ると、エリックさんが起きあがろうとしていた。
「エリック...」
「俺はどのくらい寝ていた?」
「計算してないよ、そんなの...。よかった、本当に起きなかったらどうしようかと思ったんだからね」
カムイが泣きそうな声で小さく言った。
「...悪かった」
「三日後、馬車を呼んである。エリックはしばらく俺の診療所に入院してもらうから」
「...分かった」
『三日後、馬車を呼んである』。それはつまり...
「メル、俺と一緒に帰ろう」
「...!はい!」
私は三日後が楽しみになった。
三日なんてあっという間だ。
私はカムイに微笑みかけた。
(これで安心だな...)
視界がぼやけていく。
「エリック!」
カムイの叫び声を最後に、俺の意識はぷっつり途絶えた。
ー**ー
「エリック!」
やはり、もう限界だったようだ。
「エリックさん...?」
メルが怯えたようにエリックを見ている。
「メル、運ぶのを手伝ってくれる?今ならまだ間に合う」
「はい!」
エリックはあまり重くはないが、軽くはない。
平均的なのだ。
(俺だけで運ぶのは危険すぎる)
息はあるエリックを、必死で隠れ家に運ぶ。
「カムイ、私に何かできることはありますか?」
「...メル、血とか怖くないの?」
今のエリックは、ナタリーなら間違いなく悲鳴をあげて倒れるような状態だ。
「ちょっと怖いですけど...でも、エリックさんを助けられるなら、なんでもしたいです。それに...なれてますから」
メルはにこにこしている。
だが、その小さな背中に背負っているものの重さが少しだけ見えたような気がした。
「ありがとう」
俺は、それだけ言うのが精一杯だった。
ー*ー
「メル、綺麗な布とかないかな?」
テーブルクロスは汚れているし、あと使えるものは...。
色々考えたあと、私はあることを思いついた。
「カムイ、ナイフをお借りできますか?」
「え?...はい」
「ありがとうございます」
(...音をたてないようにしないとです)
そっと切ったつもりだったけれど、
ビリリリリ!
「...!」
盛大に音が鳴ってしまった。
「メル...?」
「あ、あとでお話しますから、これで大丈夫ですか?」
「...う、うん」
カムイがてきぱきと処置を済ませた。
「ふう...。あとは目を覚ますのを待つだけだ。ありがとう、メル」
「いえ、私は何も...」
「そんなことないよ」
カムイはそう言いながら、そっとエリックさんの髪を綺麗に整えていた。
「あの、カムイ」
「どうしたの?」
「エリックさんとお話したこと、教えてください。それに、エリックさんのことも...」
あれだけの重傷なら、普通の人は痛がるはずだ。
なのに、ちっともそんな素振りはなかった。
それはある意味特別だと思った。
「...エリックは、無痛病に近い体質なんだ」
「無痛病...?」
ー**ー
もう全てを話そう。
俺はそう思った。
「うん、痛みを感じない病。治療法も原因も不明なんだ」
「でも、さっきカムイは『体質』って...」
「エリックは全く痛みを感じないわけじゃない。でも、人よりかなり痛みを感じるのが遅いから、ここまで怪我をしないと痛みがこないんだよ」
エリックは打撲傷を負おうと骨が折れようと、倒れる寸前まで痛みがこない。
今回もそれが心配ではあった。
(結果こうなったわけだけど...)
「メル、そういえばどうしてエリックが演技してると思ったの?」
「それは...傷が痛むなら、痛む場所に手をあてながらお話すると思ったからです。でも、エリックさんは普通に前を向いて叫んでいました...」
やはりメルは周りをよく見ている。
なかなか気づかないものだと思うのだが...。
「長くなるんだけど、話すね」
ーーーーーーーーーーーーーーーー【回想】ーーーーーーーーーーーーーーーー
《俺が狙われているのなら、俺が囮になればいい》
「エリック、何を言って...」
《俺が殺されれば、次に狙われるのは恐らくメルだ。それに、おまえなら俺を見捨てずにくるんだろう?》
「それはそうだけど、」
《...あまり得意ではないが、ナイフを持っておく。あいつは俺が銃しか持っていないと思っているはずだ。そこをつく。これで終わりにできるなら、それでいいだろう》
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「成る程、だから縛られていたはずの腕が自由に使えるようになっていたんですね」
「うん」
そのあと無茶だと何度も止めようとしたが、聞き入れてもらえなかった。
エリックは頑固なのだ。
俺はメルの首に、濡らしたスカーフを巻いた。
「ありがとうございます」
「メル...」
「なんでしょうか?」
「その、早く着替えておいで?」
「...!ごめんなさい!」
メルは顔を真っ赤にして部屋へ行ってしまった。
(それにしても...まさかメルが自分のスカートを切って布として渡してくるとは思っていなかったな)
ー*ー
「お待たせしました!」
私は破ったスカートをそっとトランクに詰め、長いズボンを履いた。
上はカッターシャツだ。
「さっきとだいぶ印象が違う服装にしたんだね」
「変でしょうか?」
「ううん、似合ってるよ」
カムイが私の頭をそっと撫でてくれた。
「メル、ありがとう」
「私は何もしていませんよ?」
「俺の側にいてくれた。それだけで充分だよ」
「カムイ...」
カムイの顔が近づいてきて、私はそっと目を閉じ...
「...っ」
小さく呻く声が聞こえた。
その方を見ると、エリックさんが起きあがろうとしていた。
「エリック...」
「俺はどのくらい寝ていた?」
「計算してないよ、そんなの...。よかった、本当に起きなかったらどうしようかと思ったんだからね」
カムイが泣きそうな声で小さく言った。
「...悪かった」
「三日後、馬車を呼んである。エリックはしばらく俺の診療所に入院してもらうから」
「...分かった」
『三日後、馬車を呼んである』。それはつまり...
「メル、俺と一緒に帰ろう」
「...!はい!」
私は三日後が楽しみになった。
三日なんてあっという間だ。
私はカムイに微笑みかけた。
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