路地裏のマッチ売りの少女

黒蝶

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Until the day when I get engaged. -Of light, ahead of it...-

第87話

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ー**ー
どす黒い何かが俺のなかを満たしていく。
「ふふ♪いいよ、その調子!」
「...」
俺が動こうとしたとき、メルに抱きしめられていた。
「カムイ、ダメです」
「...メル」
「お願いですから...」
「ごめん、でも黙ってられない」
「だったら二人でやっつけちゃいましょう?」
「メルは危ないから」
「嫌です」
メルは右手首を見せた。
「それって、」
それは、黒いリストバンド。
二人で約束した、誓いのリストバンド。
「『二人一緒なら負けません』。...そうでしょう?」
「メル...」
俺の左手首にも同じものがついている。
忘れかけていたが、あのとき約束したんだ。
「あーあ!きみはやっぱり邪魔だね!きみがきてから、計画が総崩れだよ!」
(計画?)
疑問に思いながらも、メルから体を離す。
「...当ててやろうか」
ー*ー
「当てるって?」
「計画が何かだよ」
私はエリックさんに感じている違和感に気づいた。
(この人は気づいていないのでしょうか...)
「それは、」
「俺が本気になるところを見たかったんだろ?」
「...」
カムイが言ったことが図星だったようだ。
(私にできることは...)
辺りを見回して気づいたことがあった。
「俺は、そんなに脆くない」
「...僕の側にきてよ」
カムイが引きつけている間に、私は小声で通信機に向かって話しかけた。
「エリックさん、聞こえますか?聞こえたら、一度頷いてください。小さくでいいので、痛くならないように頷いてください」
エリックさんは、一度頷いた。
(あとは場所を教えられたら、きっと上手くいきます)
「エリックさんの足元に大きな岩があるの、見えますか?」
エリックさんは頷く。
「その岩は、なかったはずなんです。だから恐らく、下に...」
「何ぶつぶつ言ってるの?」
「...!」
(気づかれてしまいました...)
「僕はぼうやが好きなんだ。だから、結婚式の時も笑顔が見られて嬉しかったんだよ」
...結婚式。
恐らく、ベンさんとナタリーさんのだ。
「笑顔も悲しみも怒りも...全てを僕のものにしたかったのに」
あの人はどんどん近づいてくる。
私は後退りしていたが、ひんやりとした感触が背中にはしった。
「...っ」
「きみのせいで、僕がぼうやを独り占めできなかったんだ!」
私の首に、手がかかる。
「うう...」
「メル!」
「さあぼうや。僕と一緒にきてくれるね?」
「メルを離せ」
私はいつも不思議に思っていた。
どうしてカムイに固執するのか。
どうしてカムイが独りになるようなことばかりするのか...。
「あなたは、寂しかったんですね」
「...は?」
「だからあなたは、独りになったカムイを、自分のものに...したかったのでしょう...?それなのに、私が現れたから...できなかったんじゃないですか...?」
言葉が途切れ途切れになってしまう。
寝てはダメだと思いながら、だんだん意識がとおのいているような気がする。
「黙れ!」
「く...苦し...」
「メル!」
悲痛に満ちたカムイの叫びが聞こえる。
ここで終わりなのだろうか。
しゅるりと音がして、眼帯が地面に落ちる。
(この方の心。バラバラです...)
「きみは稀有な存在なんだね。化け物が、僕のぼうやに近づくな!」
『化け物』...ずっと言われつづけた言葉。
でも、それを綺麗だと言ってくれた人たちが...カムイがいるから、まだここで終わりたくない!
ーーパン!
「ぐっ...」
私の首から手が離れる。
その人は建物の端までふきとんだ。
(カムイが撃ったのでしょうか...?)
そう思っていたけれど、銃弾がとんできた方向には...
「借りはきっちりかえさせてもらおう」
エリックさんがいた。
ー**ー
「遅いよエリック。もう少しでメルが死んでしまうところだっただろ?」
「そんなに責めるな。いくら俺でもこれは痛い」
「なんで動けるの?」
「ゲホゲホ...」
俺はあいつを無視してメルにかけよる。
「ごめんね、メル。俺のナイフじゃ間に合わないと思ったから...」
「あの、どういうことですか?エリックさんが演技していたのはなんとなく分かりましたけど...あの怪我で痛まないはずがありません」
やはりメルは見抜いていた。
「その辺の説明は全部が片づいたあとにしよう」
それこそ今説明をしていたら、確実に全員が死ぬ。
動けるとはいえ致命傷を負っているエリック。
首を絞められた痕からして、意識が途切れてもおかしくない状態のメル。
そして、怒りが抑えられないとどうなるか分からない俺。
(さて、どうするか)
エリックの読みどおりにいったが、ここからの作戦は考えていない。
「ぼうやぁ...」
あいつは怒っている。
当然だ、自分が捕まえたと思って完全に油断していた相手に肩を撃ち抜かれたのだから。
(怒りをあげる方法でいこう)
「ねえ、知ってる?...絶対に勝てると慢心している相手ほど弱いものはないってこと」
「おのれええええ!」
...計画どおりだ。
「カムイ!」
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