路地裏のマッチ売りの少女

黒蝶

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Until the day when I get engaged. -Of light, ahead of it...-

第80話

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ー**ー
俺の思考は少し止まった。
メルが一緒にお風呂にと言ってきたのは久しぶりだった。
「え、あ、うん。俺はいいけど...」
「本当ですか⁉」
メルの眼はキラキラとしている。
こんな眼で見られて断れる人間が、この世界に果たして何人いるだろうか。
恐らく誰もいないだろう。
「うん」
「ありがとうございます!」
メルはいつものように、にこにこしている。
(いきなり街を離れたのに、不安じゃないはずないよな)
「今日はどの入浴剤を入れようか」
「オレンジでしょうか?それともミルク...うーん...どれにするか迷います」
「じゃあオレンジにしようか」
「はい!」
たしかオレンジ...柑橘類の香りにはリラックス効果があったはずだ。
俺はその知識が間違っていないことを祈りながら、入浴剤を入れた。
「先に身体を洗った方がいいと思うから、メルが身体を洗ったら呼んでね」
「はい!」
メルは嬉しそうにパタパタとバスルームへと向かった。
その間に、俺は暫く使うことになるであろうベッドルームに向かった。
(今俺がメルにできることはなんだろう?)
ー*ー
私は体を洗い終え、とてもいい香りがする湯船へとはいった。
「ふぅ...」
私は暫くちゃぷちゃぷとお湯で遊んで、それからカムイを呼んだ。
「カムイー!」
ドタドタと足音が聞こえてくる。
それは間違いなくカムイの足音で。
私はそっと湯船のなかでタオルを体に巻いた。
「お待たせ」
「カムイ!」
カムイはにこりと笑って、体を洗いはじめた。
(やっぱりかっこいいです...)
思わずじっと見つめていたそのとき、カムイが恥ずかしそうに言った。
「俺が体を洗ってるところ...そんなに凝視しないで?」
ー**ー
「...!ごめんなさい!」
「いや、別に怒ってはないから...」
メルに凝視されるというのは、なれていない。
ただそれだけなのだ。
別に他の奴等にどう思われても平気だ。
だが、メルだけは別だ。
メルの前ではかっこ悪い所を見せたくない。
「メル、湯加減はどうかな?」
「丁度です。とっても気持ちいいです...」
「それはよかった」
メルのほっとした表情を見て、少し安心した。
但し、肩の傷痕は見逃さなかった。
「やっぱり痕になっちゃったね...。ごめん」
俺はそっとメルの肩に手をのばす。
そっと触れると、メルの身体が少しだけぴくりとはねた。
「...っ、いえ、痕になったとしても...カムイがちゃんと治療してくれたから、それで充分なんです。ありがとうございます」
メルはまた、いつものようににこにこしていた。
裏表のないメルのこういう一言一言に、俺は何度救われただろう。
「メル、俺も入っていいかな?」
「はい!」
メルはそっと右に避けてくれる。
なんだかどんどん綺麗になっていくメルを見て、俺は理性を保てるか心配になってくる。
恐らく大丈夫なはずだ...いや、大丈夫だ!
自分にそう言い聞かせつつ、実は気が気でない。
「メル、水鉄砲って知ってる?」
「いえ、分かりません」
「...えいっ」
ぱしゃ、とメルの頬めがけて一発軽めに打った。
「く、くすぐったいです」
「メルもやってみる?」
「はい!」
「手をこうして...」
俺の説明を真面目に聞いてくれるメルが、とてつもなく愛しく感じた。
ー*ー
お風呂からあがると、私はベッドがあるお部屋に行ってみた。
そこでノートがあることに気づいた。
《メル
不安にさせてごめん。
でも、メルを危険な目には絶対に遭わせたりしないから心配しないで。
俺も、メルが悲しむようなことはしないって約束する。
だから...全部片づいたら、また一緒に住んでくれる?》
(カムイ...)
そんなことを考えていてくれていたなんて、全く気づかなかった。
でも、私は...。
色々と考えながら、ノートに返信を書いた。
ー**ー
俺が出たときには、メルは既に眠ってしまっていた。
ふとノートを見る。
《カムイ
カムイが私を気遣ってくださるのはとても嬉しいです。
でも、私はカムイのお手伝いをしたいんです。
待ってるだけじゃ、イヤなんです。
全部をおしまいにするお手伝いをさせてください。
また一人で背負わないでください》
「...メル」
またこうして、俺の心を奪っていく。
メルには、敵わない。
(たしかにメルを一人にするのは危険だ。だが、情報を集めるにはあそこへ行くしか...)
メルを連れていきたくない。
だが、俺は決めた。
メルを連れていくことを。
逃げていたのは俺の方だったのかもしれないと思った。
守る自信がないからと、メルを置いていこうとした。
だが、俺は...
(今度こそ、全てを守る!)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「あれえ?ここじゃなかったの?」
「俺はここで手当てをしてもらって...」
男が二人、ある場所の前に立っていた。
「...役立たずはお片づけだあ!」
「うわあああああああああ!」
その日の夜、ある男が殺された。
その遺体は翌日箱に詰められ、見事に『お片づけ』された状態で発見された。
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