路地裏のマッチ売りの少女

黒蝶

文字の大きさ
上 下
119 / 220
Until the day when I get engaged. -Of light, ahead of it...-

第79話

しおりを挟む
ー**ー
ナタリーたちの、結婚式のお手伝いさん?
「...そう」
「カムイ?」
「なんでもないよ」
メルを不安にさせるわけにはいかない。
何故あいつが、ナタリーたちの結婚式を狙ってきたのか。
(俺の周りの人間を消すためか)
沸々と怒りがこみあげてくるのを感じる。
俺だけを狙えばいいのに、何故こんな小賢しい手をつかってくるのか謎だ。
(いや違う!まさか、奴の狙いは...)
何故か知られていた結婚式。
何故か即死にならない毒を飲まされた、結婚式の存在を知る男。
こんな偶然があるだろうか?
「カムイ...?」
「メル、今は何も聞かずに支度して。この家をしばらく出る」
ー*ー
カムイの表情は切羽詰まっている。
何かあったのは間違いないだろう。
そして恐らく、悠長に紅茶を飲んでいるも時間が残っていないことも。
「あとで、説明してくださいね?」
「うん。ごめんね...」
「ただ、ここを出ることはあまり多くの人間に知られない方がいい。エリックがくるまでに準備してくれればいいよ」
「分かりました」
私は急いで支度を済ませた。
「カムイ、お待たせしました」
「早いね」
しばらくしてエリックさんがやってきた。
「供述をとった」
「男は?」
「悪いことをしたわけじゃないから釈放だ」
「...そう、だよね」
「どうした?」
「しばらくここを出る。今回はディーラー街にするよ」
「ディーラー街?」
私は聞いたことがない単語に、首をかしげることしかできなかった。
「うん。隣町なんだ。本当はエリックが住んでる地区の秘密基地がいいけど...ヘタに動けば死人が出るからね」
『死人が出る』
その言葉はとても重いものだ。
カムイと一緒にいたからこそ分かる。
カムイが言うその言葉は、他の人が言うより何倍も重い。
「おまえ、ディーラー街で何をするつもりだ。情報集めか?」
「ああ、まあそうだね。メルが夜更かしできる時だけにするけど」
「カムイ...?」
カムイの申し訳なさそうな表情に、胸が締めつけられるようだった。
どうしてそんな顔をするのか、知りたかった。
でも、私はカムイの『あとで教える』という言葉を信じることにした。
「それなら、またくる。いつものように手を回しておけばいいということだろ?」
「でも、ベンは新婚だよ?それなのに...」
「あいつが友人の非常時に黙っていられるやつだと思うか?」
「...ありがとうエリック。メル、行こう」
「は、はい!」
私はカムイに手をひかれ、暗くなりつつある道を歩いた。
ー**ー
(カルテも全て持ってきたし、メルもそれほど疲弊させずに連れてこられた)
俺はひと安心した。
と、そこへメルの質問がとんできた。
「カムイ、どうして家を出なくてはいけなかったのか教えてください」
当然の質問だと思う。
ある日突然、家を出て違う街に行くなんて言われたら...誰だって混乱するだろう。
だが、ここであいつの名前を出してしまってもいいのだろうか。
俺にはそれが、できなかった。
「ちょっと気になることがあるんだ」
「...悪い人のことですか?」
メルは本当に勘がいい。
俺が言えないことを、ズバリと当ててくる。
「そこまでしか、今は言いたくない。ダメかな?」
「...っ」
こう聞くとメルが頷くしかないことを知りながら、俺はメルに冷静に言った。
メルは困ったようになり、結局今はここまでしか聞かないと言ってくれた。
本当に申し訳なく思いながら、俺は頭のなかで整理する。
(家を知った奴が狙いを定めてくるのは失敗に終わる。俺やメルが街にいるのはエリックたちしか知らない...。これでしばらくは、メルを守れるはずだ)
「カムイ?難しいお顔になってます」
「...!」
俺の頭を撫でようとしてくれているのだろう。
だが、立っている俺の頭にメルの手は届かない。
「ごめんごめん。そういえば、パンケーキを作る約束だったね。材料は持ってきてるんだ」
俺は紙袋を指さす。
「わあ...」
メルはたちまちいつものような笑顔になった。
それにつられて、俺の頬もゆるんだ。
「カムイは笑顔の方がいいです」
「メルだってそうでしょ?」
俺はそっとメルに口づけた。
ー*ー
「...っ!」
私は呆然とした。
突然すぎて、頭がついていかなかった。
「さあ、作ろう」
「は、はい...」
私はきっと、耳まで真っ赤になっているだろう。
カムイの余裕そうな笑みが羨ましかった。
今の私にできるのは、カムイの側にいてカムイを支えることだけだ。
(私にできることをしましょう)
できたてのパンケーキをもぐもぐ食べながら、私はカムイにとあるお願いした。
とても我が儘な願いだと、自覚はある。
でも、私は一緒にいてほしいと思った。
離れたくないと思った。
だから...勇気を出して言ってみた。
「あの、カムイ」
「ん?どうしたの?」
「久しぶりに、その...い、一緒にお風呂に入っちゃダメですか...?」
しおりを挟む
感想 76

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

悪役令嬢のビフォーアフター

すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。 腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ! とりあえずダイエットしなきゃ! そんな中、 あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・ そんな私に新たに出会いが!! 婚約者さん何気に嫉妬してない?

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

処理中です...