路地裏のマッチ売りの少女

黒蝶

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Until the day when I get engaged. -Of light, ahead of it...-

第79話

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ー**ー
ナタリーたちの、結婚式のお手伝いさん?
「...そう」
「カムイ?」
「なんでもないよ」
メルを不安にさせるわけにはいかない。
何故あいつが、ナタリーたちの結婚式を狙ってきたのか。
(俺の周りの人間を消すためか)
沸々と怒りがこみあげてくるのを感じる。
俺だけを狙えばいいのに、何故こんな小賢しい手をつかってくるのか謎だ。
(いや違う!まさか、奴の狙いは...)
何故か知られていた結婚式。
何故か即死にならない毒を飲まされた、結婚式の存在を知る男。
こんな偶然があるだろうか?
「カムイ...?」
「メル、今は何も聞かずに支度して。この家をしばらく出る」
ー*ー
カムイの表情は切羽詰まっている。
何かあったのは間違いないだろう。
そして恐らく、悠長に紅茶を飲んでいるも時間が残っていないことも。
「あとで、説明してくださいね?」
「うん。ごめんね...」
「ただ、ここを出ることはあまり多くの人間に知られない方がいい。エリックがくるまでに準備してくれればいいよ」
「分かりました」
私は急いで支度を済ませた。
「カムイ、お待たせしました」
「早いね」
しばらくしてエリックさんがやってきた。
「供述をとった」
「男は?」
「悪いことをしたわけじゃないから釈放だ」
「...そう、だよね」
「どうした?」
「しばらくここを出る。今回はディーラー街にするよ」
「ディーラー街?」
私は聞いたことがない単語に、首をかしげることしかできなかった。
「うん。隣町なんだ。本当はエリックが住んでる地区の秘密基地がいいけど...ヘタに動けば死人が出るからね」
『死人が出る』
その言葉はとても重いものだ。
カムイと一緒にいたからこそ分かる。
カムイが言うその言葉は、他の人が言うより何倍も重い。
「おまえ、ディーラー街で何をするつもりだ。情報集めか?」
「ああ、まあそうだね。メルが夜更かしできる時だけにするけど」
「カムイ...?」
カムイの申し訳なさそうな表情に、胸が締めつけられるようだった。
どうしてそんな顔をするのか、知りたかった。
でも、私はカムイの『あとで教える』という言葉を信じることにした。
「それなら、またくる。いつものように手を回しておけばいいということだろ?」
「でも、ベンは新婚だよ?それなのに...」
「あいつが友人の非常時に黙っていられるやつだと思うか?」
「...ありがとうエリック。メル、行こう」
「は、はい!」
私はカムイに手をひかれ、暗くなりつつある道を歩いた。
ー**ー
(カルテも全て持ってきたし、メルもそれほど疲弊させずに連れてこられた)
俺はひと安心した。
と、そこへメルの質問がとんできた。
「カムイ、どうして家を出なくてはいけなかったのか教えてください」
当然の質問だと思う。
ある日突然、家を出て違う街に行くなんて言われたら...誰だって混乱するだろう。
だが、ここであいつの名前を出してしまってもいいのだろうか。
俺にはそれが、できなかった。
「ちょっと気になることがあるんだ」
「...悪い人のことですか?」
メルは本当に勘がいい。
俺が言えないことを、ズバリと当ててくる。
「そこまでしか、今は言いたくない。ダメかな?」
「...っ」
こう聞くとメルが頷くしかないことを知りながら、俺はメルに冷静に言った。
メルは困ったようになり、結局今はここまでしか聞かないと言ってくれた。
本当に申し訳なく思いながら、俺は頭のなかで整理する。
(家を知った奴が狙いを定めてくるのは失敗に終わる。俺やメルが街にいるのはエリックたちしか知らない...。これでしばらくは、メルを守れるはずだ)
「カムイ?難しいお顔になってます」
「...!」
俺の頭を撫でようとしてくれているのだろう。
だが、立っている俺の頭にメルの手は届かない。
「ごめんごめん。そういえば、パンケーキを作る約束だったね。材料は持ってきてるんだ」
俺は紙袋を指さす。
「わあ...」
メルはたちまちいつものような笑顔になった。
それにつられて、俺の頬もゆるんだ。
「カムイは笑顔の方がいいです」
「メルだってそうでしょ?」
俺はそっとメルに口づけた。
ー*ー
「...っ!」
私は呆然とした。
突然すぎて、頭がついていかなかった。
「さあ、作ろう」
「は、はい...」
私はきっと、耳まで真っ赤になっているだろう。
カムイの余裕そうな笑みが羨ましかった。
今の私にできるのは、カムイの側にいてカムイを支えることだけだ。
(私にできることをしましょう)
できたてのパンケーキをもぐもぐ食べながら、私はカムイにとあるお願いした。
とても我が儘な願いだと、自覚はある。
でも、私は一緒にいてほしいと思った。
離れたくないと思った。
だから...勇気を出して言ってみた。
「あの、カムイ」
「ん?どうしたの?」
「久しぶりに、その...い、一緒にお風呂に入っちゃダメですか...?」
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