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Until the day when Christmas comes.
番外編『Two murderers' of Christmas Eve.』
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「ねえ、ベン」
「ん?」
「...離れないでね」
「...当たり前だろ」
これは、大男と天真爛漫な女性の物語...。
《ベン目線》
「ベン、これ作ったの!」
そう言ってナタリーが差し出してきたのは、手作りのカーディガンだった。
「ベンのサイズって、どのくらいか分からないから...」
俺は、そっとナタリーを抱きしめる。
そして、耳許で囁いた。
「...ありがとう」
「...!」
(やはりなれてはくれない、か)
《ナタリー目線》
「い、いきなりその口調になるのはやめてっていつも言ってるでしょ...!」
ベンの訛りは、実はもうほとんど残っていない。
あたしのとある一言とベンのとある経験がきっかけで、あたし以外の前では訛りを残したまま話している。
「別にいいだろ、最近逆に訛りを残したまま喋る方が難しい」
「まあ、そうなんだけど...。カムイたちには言わないの?」
「おまえだけでいい。それに、お嬢さんがきたばかりの今、急にこんな話し方で話したりしたら...」
「あたしが悪かったわ」
ベンはあたしがあげたカーディガンを羽織ってくれる。
こういう律儀な所があたしは好きだ。
「...これ」
それは、綺麗なブローチだった。
「可愛いっ!あたしに、似合うのかな...」
するとベンはあたしの手からブローチをとり、そっとつけてくれる。
「ん、ちゃんと似合ってる」
《ベン目線》
ナタリーは顔を真っ赤にしている。
「...もうっ」
俺を軽く小突いている...つもりなのだろう。
俺は声をあげそうになるのを必死で堪え、なんとかナタリーを腕のなかに閉じこめる。
「呑みすぎるなよ」
「う、うん!」
ナタリーは本日三本目のシャンパンを開ける。
(本当に大丈夫なのかよ...)
俺はそう思いつつ、酒の相手をする。
ナタリーの相手をできるのは、せいぜい俺くらいだろうから。
「カクテル飲みたいな...」
《ナタリー目線》
その一言を、あたしは聞き逃さなかった。
「いつものを作ればいい?」
「ああ」
ドライ・ジンとグリーンのシャルトリューズをシェイカーに注ぎ、いつものようにふるまう。
「はい!」
「ありがとう」
「ベン、これ好きだよね」
「グリーン・アラスカっていうやつ」
そう言いながらベンがあまりに美味しそうに飲むので、あたしも飲んでみたくなった。
同じ材料を揃え、そっと口に含む。
「あ、おい!」
美味しいけど、これは...。
そんなことを考えているうちに、あたしの意識は途絶えていた。
《ベン目線》
...目を離すとすぐにこうだ。
これだから目が離せない。
そっとベッドまで運び、冷やしたタオルを用意する。
「ん...」
(これ、意識あるのか?)
「大丈夫か?」
「...ん」
本当に大丈夫なのだろうかという思いがこみあげてくる。
「待ってろ、水を持って、」
「...ヤダ」
「?」
「行っちゃ、ヤダ」
ナタリーは酔うといつもこうなる。
...普段全くと言っていいほど甘えてこない彼女は、酔っぱらった時だけこうして甘えてくる。
「すぐ戻るから、我慢しろ」
「我慢...?分かった」
ナタリーはすんなりと俺の袖から手を離した。
すぐに戻ってこないとな、と思いつつ、後片づけをてきぱきと済ませた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ベッドまで戻ると、ナタリーが泣いていた。
(しまった、時間をかけすぎた!)
「ベン、どこまで行ってたの...?」
水を渡すと、それをちびちびと飲みながら涙をこぼす。
「ごめんな」
俺はナタリーの頭をそっと撫でる。
彼女は嬉しそうに顔を綻ばせた。
再びベッドに横になったナタリーは、俺に向かって話しかけてくる。
「ねえ、ベン」
「ん?」
「...離れないでね」
「...当たり前だろ」
俺はそっと口づけをおとす。
ぎゅっと腕を掴まれてしまい、動くことができない。
それでも俺は、その手を振りほどくことはできない。
仕方がないので、そのまま寝ることにした。
「...おやすみ」
《ナタリー目線》
「あれ?」
あたしは確か、お酒を飲んで、それから...。
横を向くと、ベンがベッドに肘をついて寝ている。
あたしの手を、握ってくれている。
「あたしが握ったから、動かずにいてくれたのか...。いつも優しいね、ベンは」
そっと頭を撫でていると、ぴくりと瞼が動いた。
(起きた?)
ベンは微動だにしない。
「ありがとう」
「人のこと見てにやつくな」
「わっ⁉起きてるならちゃんと言ってよ!」
「まったく、あれほど飲みすぎるなと言ったのに...」
「それは、その...ごめんなさい」
「まあ、『失敗は成功のもと』だ。だが、あんな無防備な姿を俺以外に見せるな。いいな?」
「うん!」
やきもちをやいてくれていると、うぬぼれてもいいだろうか。
あたしのためだと、そう思ってもいいだろうか。
「もう少し寝かせろ」
「わっ...」
ベンがベッドに寝転がり、あたしを抱きしめる。
「...今日はお休みだからね」
朝陽がさんさんと眩しく照らしつけるなか、あたしたちは再び眠りについたのだった。
「ん?」
「...離れないでね」
「...当たり前だろ」
これは、大男と天真爛漫な女性の物語...。
《ベン目線》
「ベン、これ作ったの!」
そう言ってナタリーが差し出してきたのは、手作りのカーディガンだった。
「ベンのサイズって、どのくらいか分からないから...」
俺は、そっとナタリーを抱きしめる。
そして、耳許で囁いた。
「...ありがとう」
「...!」
(やはりなれてはくれない、か)
《ナタリー目線》
「い、いきなりその口調になるのはやめてっていつも言ってるでしょ...!」
ベンの訛りは、実はもうほとんど残っていない。
あたしのとある一言とベンのとある経験がきっかけで、あたし以外の前では訛りを残したまま話している。
「別にいいだろ、最近逆に訛りを残したまま喋る方が難しい」
「まあ、そうなんだけど...。カムイたちには言わないの?」
「おまえだけでいい。それに、お嬢さんがきたばかりの今、急にこんな話し方で話したりしたら...」
「あたしが悪かったわ」
ベンはあたしがあげたカーディガンを羽織ってくれる。
こういう律儀な所があたしは好きだ。
「...これ」
それは、綺麗なブローチだった。
「可愛いっ!あたしに、似合うのかな...」
するとベンはあたしの手からブローチをとり、そっとつけてくれる。
「ん、ちゃんと似合ってる」
《ベン目線》
ナタリーは顔を真っ赤にしている。
「...もうっ」
俺を軽く小突いている...つもりなのだろう。
俺は声をあげそうになるのを必死で堪え、なんとかナタリーを腕のなかに閉じこめる。
「呑みすぎるなよ」
「う、うん!」
ナタリーは本日三本目のシャンパンを開ける。
(本当に大丈夫なのかよ...)
俺はそう思いつつ、酒の相手をする。
ナタリーの相手をできるのは、せいぜい俺くらいだろうから。
「カクテル飲みたいな...」
《ナタリー目線》
その一言を、あたしは聞き逃さなかった。
「いつものを作ればいい?」
「ああ」
ドライ・ジンとグリーンのシャルトリューズをシェイカーに注ぎ、いつものようにふるまう。
「はい!」
「ありがとう」
「ベン、これ好きだよね」
「グリーン・アラスカっていうやつ」
そう言いながらベンがあまりに美味しそうに飲むので、あたしも飲んでみたくなった。
同じ材料を揃え、そっと口に含む。
「あ、おい!」
美味しいけど、これは...。
そんなことを考えているうちに、あたしの意識は途絶えていた。
《ベン目線》
...目を離すとすぐにこうだ。
これだから目が離せない。
そっとベッドまで運び、冷やしたタオルを用意する。
「ん...」
(これ、意識あるのか?)
「大丈夫か?」
「...ん」
本当に大丈夫なのだろうかという思いがこみあげてくる。
「待ってろ、水を持って、」
「...ヤダ」
「?」
「行っちゃ、ヤダ」
ナタリーは酔うといつもこうなる。
...普段全くと言っていいほど甘えてこない彼女は、酔っぱらった時だけこうして甘えてくる。
「すぐ戻るから、我慢しろ」
「我慢...?分かった」
ナタリーはすんなりと俺の袖から手を離した。
すぐに戻ってこないとな、と思いつつ、後片づけをてきぱきと済ませた。
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ベッドまで戻ると、ナタリーが泣いていた。
(しまった、時間をかけすぎた!)
「ベン、どこまで行ってたの...?」
水を渡すと、それをちびちびと飲みながら涙をこぼす。
「ごめんな」
俺はナタリーの頭をそっと撫でる。
彼女は嬉しそうに顔を綻ばせた。
再びベッドに横になったナタリーは、俺に向かって話しかけてくる。
「ねえ、ベン」
「ん?」
「...離れないでね」
「...当たり前だろ」
俺はそっと口づけをおとす。
ぎゅっと腕を掴まれてしまい、動くことができない。
それでも俺は、その手を振りほどくことはできない。
仕方がないので、そのまま寝ることにした。
「...おやすみ」
《ナタリー目線》
「あれ?」
あたしは確か、お酒を飲んで、それから...。
横を向くと、ベンがベッドに肘をついて寝ている。
あたしの手を、握ってくれている。
「あたしが握ったから、動かずにいてくれたのか...。いつも優しいね、ベンは」
そっと頭を撫でていると、ぴくりと瞼が動いた。
(起きた?)
ベンは微動だにしない。
「ありがとう」
「人のこと見てにやつくな」
「わっ⁉起きてるならちゃんと言ってよ!」
「まったく、あれほど飲みすぎるなと言ったのに...」
「それは、その...ごめんなさい」
「まあ、『失敗は成功のもと』だ。だが、あんな無防備な姿を俺以外に見せるな。いいな?」
「うん!」
やきもちをやいてくれていると、うぬぼれてもいいだろうか。
あたしのためだと、そう思ってもいいだろうか。
「もう少し寝かせろ」
「わっ...」
ベンがベッドに寝転がり、あたしを抱きしめる。
「...今日はお休みだからね」
朝陽がさんさんと眩しく照らしつけるなか、あたしたちは再び眠りについたのだった。
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