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Until the day when I get engaged. -Of light, ahead of it...-
第74話
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ー**ー
ホテルで過ごす、最後の夜。
花嫁たちは当然二人だけで休んでいるので、この夕食会場にはいない。
「明日も晴れるといいですね」
「そうだね」
ドレスに着替えたメルは、なんだかそわそわしているように見える。
「どうかしたの?」
「あ、いえ...」
俺はメルが見ていた方に視線をやる。
「『ダンスパーティー』...?」
「私、踊ったことがないんです。それなのに、もう少しではじまってしまうなんて、不安だなって思って...」
(それで元気がないのか)
「メル」
「はい...」
「バルコニーへ行こうか」
俺はジャケットをメルにかけてやる。
「これではカムイが寒いのではないですか?」
「俺は平気だよ。ありがとう」
俺はメルの手をひいて、バルコニーへと向かう...。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
優雅に踊る人々を見つめながら、メルがほっと息をついた。
「みなさんとっても上手なんですね。羨ましいです」
「それなら...メル。俺と一緒に踊っていただけますか?」
ー*ー
突然のことに、私は驚いてしまった。
「カムイ、でも私は踊れな、」
「大丈夫、俺がちゃんとリードするから」
私はカムイに手をひかれる...。
カムイの仕草は見事で、リードされている私ですら見惚れてしまった。
「...ターン」
私は恥ずかしくて、つい下を向いてしまう。
「ちゃんと前を見て。大丈夫、俺がついてるから」
「は、はい!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
なんとか一曲踊り終え、私はそのままカムイにエスコートされる。
「カムイ、上手でした!」
「そんなことないよ。メルだって、初めてには見えなかったよ?」
「それはカムイが上手だったからで...」
「俺は何か飲み物をもらってくるよ」
カムイは私に待っているように言って、私の頭を撫でてから飲み物をもらいに行ってしまった。
私が一人で休んでいると、突然声をかけられる。
「そちらのお嬢様!私と踊っていただけませんか?」
「えっと、」
「その次は私と...」
(困りました...)
「待っている人がいるので、」
そう言うと大丈夫だろうと思った。
しかし...
「いいではないですか!」
「きゃっ...」
強引な人にいきなり腕をひかれ、私はなれないヒールで転んでしまった。
なんとか立ち上がるものの、私一人では怖くて対処できない。
「俺の彼女に何してるの?」
後ろには鬼の形相のカムイがいた。
ー**ー
「あ、え、その...」
俺はそいつの耳許で囁いた。
「...『Je vais te tuer puis jouer un coup de main à elle,』」
「ひいっ!」
その男は青ざめて逃げていった。
(やはり元・オークス領の奴だったか)
「カムイ、さっきのは...」
「ん?俺の彼女に手を出さないでって言っただけだよ」
「それにしては先程の方、すごく怖がって...っ!」
メルがその場に崩れ落ちそうになるのを、ギリギリのところで受け止めた。
「メル!」
「ごめんなさい、失敗してしまったみたいです」
ふと視線を落とすと、メルの足が腫れていることに気づいた。
「ちょっとごめんね」
「わっ...」
俺はメルを抱きあげ、泊まっている部屋へと急ぐ...。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「よし、これでいい。でも...しばらく走るのはダメ。いい?」
「はい...」
メルのせいではないのに、メルが申し訳なさそうにしている。
(俺が目を離さなければ、こうはならなかったのに)
ー*ー
なんとなく、カムイが落ちこんでいるように見える。
「カムイが落ちこむ必要はないんですよ。だって、カムイは一番に助けにきてくれましたから」
「メル...」
カムイの唇が、そっと私に重なる。
いつもよりも、甘くとろけるようなキス。
私はカムイの背中に腕をまわした。
「ん...」
「可愛い」
カムイに可愛いと言われると、私はいつも恥ずかしくなってしまう。
「あ、あんまりそういうことを言わないでください...」
話していると、扉を叩く音がする。
「...待ってて」
ー**ー
「はい」
扉を開けると、そこにはエリックが立っていた。
「少し話がある」
「...いいよ」
メルに部屋にいるよう伝え、俺は廊下へ出る。
「話って?」
「おまえ、よくあんなこと言ったな...」
「ああ、見てたの?頭に血がのぼっちゃって...」
「『次に彼女に手を出したら殺すぞ』なんて言うとは思ってなかった。しかも、旧オークス領の人間であることを見抜いていたよな」
「グラスの持ち方と、魚を食べないところで分かった」
「流石だな」
エリックと話すのが楽しくないわけではない。
だが、今はメルのそばにいたい。
「言葉遣いにはもう少し気をつけろ。じゃあな」
エリックは察したのか、何処かへ行ってしまった。
俺は部屋に戻る。
すると、安らかな寝息をたてているメルの姿があった。
「...いい夢を」
俺はその隣へ寝転び、そのまま眠ってしまっていた。
ホテルで過ごす、最後の夜。
花嫁たちは当然二人だけで休んでいるので、この夕食会場にはいない。
「明日も晴れるといいですね」
「そうだね」
ドレスに着替えたメルは、なんだかそわそわしているように見える。
「どうかしたの?」
「あ、いえ...」
俺はメルが見ていた方に視線をやる。
「『ダンスパーティー』...?」
「私、踊ったことがないんです。それなのに、もう少しではじまってしまうなんて、不安だなって思って...」
(それで元気がないのか)
「メル」
「はい...」
「バルコニーへ行こうか」
俺はジャケットをメルにかけてやる。
「これではカムイが寒いのではないですか?」
「俺は平気だよ。ありがとう」
俺はメルの手をひいて、バルコニーへと向かう...。
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優雅に踊る人々を見つめながら、メルがほっと息をついた。
「みなさんとっても上手なんですね。羨ましいです」
「それなら...メル。俺と一緒に踊っていただけますか?」
ー*ー
突然のことに、私は驚いてしまった。
「カムイ、でも私は踊れな、」
「大丈夫、俺がちゃんとリードするから」
私はカムイに手をひかれる...。
カムイの仕草は見事で、リードされている私ですら見惚れてしまった。
「...ターン」
私は恥ずかしくて、つい下を向いてしまう。
「ちゃんと前を見て。大丈夫、俺がついてるから」
「は、はい!」
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なんとか一曲踊り終え、私はそのままカムイにエスコートされる。
「カムイ、上手でした!」
「そんなことないよ。メルだって、初めてには見えなかったよ?」
「それはカムイが上手だったからで...」
「俺は何か飲み物をもらってくるよ」
カムイは私に待っているように言って、私の頭を撫でてから飲み物をもらいに行ってしまった。
私が一人で休んでいると、突然声をかけられる。
「そちらのお嬢様!私と踊っていただけませんか?」
「えっと、」
「その次は私と...」
(困りました...)
「待っている人がいるので、」
そう言うと大丈夫だろうと思った。
しかし...
「いいではないですか!」
「きゃっ...」
強引な人にいきなり腕をひかれ、私はなれないヒールで転んでしまった。
なんとか立ち上がるものの、私一人では怖くて対処できない。
「俺の彼女に何してるの?」
後ろには鬼の形相のカムイがいた。
ー**ー
「あ、え、その...」
俺はそいつの耳許で囁いた。
「...『Je vais te tuer puis jouer un coup de main à elle,』」
「ひいっ!」
その男は青ざめて逃げていった。
(やはり元・オークス領の奴だったか)
「カムイ、さっきのは...」
「ん?俺の彼女に手を出さないでって言っただけだよ」
「それにしては先程の方、すごく怖がって...っ!」
メルがその場に崩れ落ちそうになるのを、ギリギリのところで受け止めた。
「メル!」
「ごめんなさい、失敗してしまったみたいです」
ふと視線を落とすと、メルの足が腫れていることに気づいた。
「ちょっとごめんね」
「わっ...」
俺はメルを抱きあげ、泊まっている部屋へと急ぐ...。
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「よし、これでいい。でも...しばらく走るのはダメ。いい?」
「はい...」
メルのせいではないのに、メルが申し訳なさそうにしている。
(俺が目を離さなければ、こうはならなかったのに)
ー*ー
なんとなく、カムイが落ちこんでいるように見える。
「カムイが落ちこむ必要はないんですよ。だって、カムイは一番に助けにきてくれましたから」
「メル...」
カムイの唇が、そっと私に重なる。
いつもよりも、甘くとろけるようなキス。
私はカムイの背中に腕をまわした。
「ん...」
「可愛い」
カムイに可愛いと言われると、私はいつも恥ずかしくなってしまう。
「あ、あんまりそういうことを言わないでください...」
話していると、扉を叩く音がする。
「...待ってて」
ー**ー
「はい」
扉を開けると、そこにはエリックが立っていた。
「少し話がある」
「...いいよ」
メルに部屋にいるよう伝え、俺は廊下へ出る。
「話って?」
「おまえ、よくあんなこと言ったな...」
「ああ、見てたの?頭に血がのぼっちゃって...」
「『次に彼女に手を出したら殺すぞ』なんて言うとは思ってなかった。しかも、旧オークス領の人間であることを見抜いていたよな」
「グラスの持ち方と、魚を食べないところで分かった」
「流石だな」
エリックと話すのが楽しくないわけではない。
だが、今はメルのそばにいたい。
「言葉遣いにはもう少し気をつけろ。じゃあな」
エリックは察したのか、何処かへ行ってしまった。
俺は部屋に戻る。
すると、安らかな寝息をたてているメルの姿があった。
「...いい夢を」
俺はその隣へ寝転び、そのまま眠ってしまっていた。
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