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Until the day when I get engaged. -Of light, ahead of it...-
第70話
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ー*ー
「...ル」
(誰でしょう?)
「メル」
「ん...」
朝起きてみると、カムイの顔が目の前にあった。
「お、おはようございます!」
「うん、おはよう。朝御飯の時間だから、起こしちゃった。ごめんね」
「いえ!朝御飯って...」
「ああ、ホテルでは時間が決まっていて、その時間にご飯が出るんだ」
「そうなんですか⁉」
「うん」
私はやっぱり、知らないことだらけで、だけど、そんな私をいつもカムイは咎めない。
「取り敢えずご飯を食べようか」
「はい!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
食事をすませたあと、カムイが私の方をふりむいてそっと囁く。
「ねえ、さっそくだけど出掛けようか」
「は、はい...」
(耳許で言われるのは、少し照れます)
でも、不思議と嫌じゃない。
「行きたい場所があるんだ。さあ、行こう」
いつものように手をさしのべてくれる。
私はその手を握った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「わあ...」
歩いて十五分ほどの位置。
そこは、とても広い花畑だった。
「気に入ってくれた?」
「はい!とっても素敵な場所ですね」
「そうだね」
(...あれ?)
カムイはきたことがあるのだと思っていたが、今の発言からすると、どうやらはじめてきたようだ。
「カムイもはじめてきたんですか?」
ー**ー
しまった、あれは失言だったと気づいたときには遅かった。
「あ、えっと...うん」
「どうしてここに連れてきてくれたんですか?」
「それは、このラナンキュサスを一緒に見たかったからだよ」
「このお花はラナンキュサスというんですか?」
「うん。メルみたいな花だな、と思って...」
「私みたい、ですか?」
俺はにこりと頷いた...つもりだが、実際はどう見えていただろう。
(『晴れやかな魅力』...なんてメルには言えないけど、いつかメルがこの花言葉を知ったら驚くだろうな)
そんなことを思いつつ、メルが転ばないように決して手を離さない。
「あ...」
「メル?」
「カムイ、苺です!」
「本当だ...。これだけのいい苺なら色々作れるのに」
「カムイ、キッチンで調理できないでしょうか?」
「奇遇だね。俺も同じこと考えてた」
俺たちは篭の中に苺を摘んでいく...。
ー*ー
私たちはホテルの部屋に戻り、エプロンをして準備する。
「まさか結婚式場の方々が材料を分けてくださるとは思いませんでした」
「確かに...」
私とカムイは顔を見あわせ笑った。
「まあ、ベンの家は農家だからね」
「そうなんですか⁉だからあんなに色々なものを...」
それなら品揃えがよかったのも頷ける。
「メル、イチゴジャムの作り方は分かる?」
「カソナード糖を使ったものですか?」
「うん」
「ジャムなら任せてください」
「よし、じゃあお願いするね」
私たちは早速作業にとりかかる。
(一時間放置して...)
色々考えていると、カムイがオーブンを温めていた。
「カムイは何を作っているんですか?」
「スコーンを作ってるんだよ」
「そうだったんですか」
カムイの手捌きは見事で、どんどん仕上がっていく。
「メル、そろそろジャムもいい頃じゃないかな?」
「はい!」
強火に設定し、私は調理を続けた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
アクをとりながらかき混ぜること二十分...。
(そろそろですかね)
木ベラを鍋の中に置いたまま、私は火を止めようとした。
しかし、木ベラがきちんと鍋にたてかけられていなかったようで、できたての熱いジャムが指にかかってしまった。
「熱っ...」
「メル!」
カムイが救急セットを持ってきてくれる。
「大丈夫?」
「はい、平気です!先にジャムを...」
仕上げますね、と言い終わる前に私の右手はカムイに捕らえられていた。
そして、ジャムがかかった私の人差し指を口にくわえる...。
「⁉」
私は恥ずかしくて声が出せなかった。
「な、何してるんですか...?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
...無意識とはいえ、ここまでしてしまってもよかったのだろうか。
そんなことを思いつつ、俺は平静を装う。
「早く治るように、おまじない」
「おまじない、ですか...?」
「うん」
それよりも早く手当てを済ませようと、俺は思い直した。
メルの顔は夕日のような茜色になっていた。
「はい、手当て終わり。あとは盛りつけだけだから...メルは座ってて?」
「はい...」
メルはきっと、手伝いますと言いたいのだろうが、俺はこれ以上、メルに傷を負ってほしくなかった。
「さあ、できたよ」
「わあ...!」
メルの目の色が変わる。
...『スコーンにできたてのイチゴジャムを添えて』なんていえば、少しは豪華に聞こえるだろうか。
「ありがとうございます、カムイ」
メルはにこにこしている。
(...無理やり笑っている感じではないな)
俺はそんな笑顔を見て、心底ほっとした。
「あの、カムイ」
「ん?」
「これ...他のみなさんの所へも持っていってはいけませんか?」
俺は答えに困った。
メルのジャムを、独り占めしたい。
スコーンも足りなくなる。
なにより、メルと二人きりになるのが難しくなる。
そんな感情のなか、俺が出した答えは...
「...ル」
(誰でしょう?)
「メル」
「ん...」
朝起きてみると、カムイの顔が目の前にあった。
「お、おはようございます!」
「うん、おはよう。朝御飯の時間だから、起こしちゃった。ごめんね」
「いえ!朝御飯って...」
「ああ、ホテルでは時間が決まっていて、その時間にご飯が出るんだ」
「そうなんですか⁉」
「うん」
私はやっぱり、知らないことだらけで、だけど、そんな私をいつもカムイは咎めない。
「取り敢えずご飯を食べようか」
「はい!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
食事をすませたあと、カムイが私の方をふりむいてそっと囁く。
「ねえ、さっそくだけど出掛けようか」
「は、はい...」
(耳許で言われるのは、少し照れます)
でも、不思議と嫌じゃない。
「行きたい場所があるんだ。さあ、行こう」
いつものように手をさしのべてくれる。
私はその手を握った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「わあ...」
歩いて十五分ほどの位置。
そこは、とても広い花畑だった。
「気に入ってくれた?」
「はい!とっても素敵な場所ですね」
「そうだね」
(...あれ?)
カムイはきたことがあるのだと思っていたが、今の発言からすると、どうやらはじめてきたようだ。
「カムイもはじめてきたんですか?」
ー**ー
しまった、あれは失言だったと気づいたときには遅かった。
「あ、えっと...うん」
「どうしてここに連れてきてくれたんですか?」
「それは、このラナンキュサスを一緒に見たかったからだよ」
「このお花はラナンキュサスというんですか?」
「うん。メルみたいな花だな、と思って...」
「私みたい、ですか?」
俺はにこりと頷いた...つもりだが、実際はどう見えていただろう。
(『晴れやかな魅力』...なんてメルには言えないけど、いつかメルがこの花言葉を知ったら驚くだろうな)
そんなことを思いつつ、メルが転ばないように決して手を離さない。
「あ...」
「メル?」
「カムイ、苺です!」
「本当だ...。これだけのいい苺なら色々作れるのに」
「カムイ、キッチンで調理できないでしょうか?」
「奇遇だね。俺も同じこと考えてた」
俺たちは篭の中に苺を摘んでいく...。
ー*ー
私たちはホテルの部屋に戻り、エプロンをして準備する。
「まさか結婚式場の方々が材料を分けてくださるとは思いませんでした」
「確かに...」
私とカムイは顔を見あわせ笑った。
「まあ、ベンの家は農家だからね」
「そうなんですか⁉だからあんなに色々なものを...」
それなら品揃えがよかったのも頷ける。
「メル、イチゴジャムの作り方は分かる?」
「カソナード糖を使ったものですか?」
「うん」
「ジャムなら任せてください」
「よし、じゃあお願いするね」
私たちは早速作業にとりかかる。
(一時間放置して...)
色々考えていると、カムイがオーブンを温めていた。
「カムイは何を作っているんですか?」
「スコーンを作ってるんだよ」
「そうだったんですか」
カムイの手捌きは見事で、どんどん仕上がっていく。
「メル、そろそろジャムもいい頃じゃないかな?」
「はい!」
強火に設定し、私は調理を続けた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
アクをとりながらかき混ぜること二十分...。
(そろそろですかね)
木ベラを鍋の中に置いたまま、私は火を止めようとした。
しかし、木ベラがきちんと鍋にたてかけられていなかったようで、できたての熱いジャムが指にかかってしまった。
「熱っ...」
「メル!」
カムイが救急セットを持ってきてくれる。
「大丈夫?」
「はい、平気です!先にジャムを...」
仕上げますね、と言い終わる前に私の右手はカムイに捕らえられていた。
そして、ジャムがかかった私の人差し指を口にくわえる...。
「⁉」
私は恥ずかしくて声が出せなかった。
「な、何してるんですか...?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
...無意識とはいえ、ここまでしてしまってもよかったのだろうか。
そんなことを思いつつ、俺は平静を装う。
「早く治るように、おまじない」
「おまじない、ですか...?」
「うん」
それよりも早く手当てを済ませようと、俺は思い直した。
メルの顔は夕日のような茜色になっていた。
「はい、手当て終わり。あとは盛りつけだけだから...メルは座ってて?」
「はい...」
メルはきっと、手伝いますと言いたいのだろうが、俺はこれ以上、メルに傷を負ってほしくなかった。
「さあ、できたよ」
「わあ...!」
メルの目の色が変わる。
...『スコーンにできたてのイチゴジャムを添えて』なんていえば、少しは豪華に聞こえるだろうか。
「ありがとうございます、カムイ」
メルはにこにこしている。
(...無理やり笑っている感じではないな)
俺はそんな笑顔を見て、心底ほっとした。
「あの、カムイ」
「ん?」
「これ...他のみなさんの所へも持っていってはいけませんか?」
俺は答えに困った。
メルのジャムを、独り占めしたい。
スコーンも足りなくなる。
なにより、メルと二人きりになるのが難しくなる。
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