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Until the day when I get engaged. -Of light, ahead of it...-
第68話
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ー**ー
次の日。俺は朝から憂鬱だった。
「おはようございます、カムイ」
「うん、おはよう」
「お昼から、でしたよね?」
「うん」
俺はメルを緩く抱きしめ、昨夜のことを思い出す。
ーーーーーーーーーー【回想】ーーーーーーーーーー
「ナタリーたちが...」
俺は息をのんだ。
(まさか、もうあいつが...)
「挙式をするらしい」
「...え?」
「だから、挙式をするらしいんだ。手伝いにこいと言われた」
エリックが変なところで区切るから、てっきりあいつが動き出したのかと思った。
それがまさか、こんなにもめでたいことだとは...。
「なら、もっとスマートに言えよ」
俺はメルから身体を離し、エリックを小突いた。
「すまない。こういう話題はどうやって切り出せばいいのか分からなくて...」
「普通に言えばいいと思うけど?」
そのあとメルが紅茶を淹れてくれ、調書をとられることになった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「あの、カムイ」
「どうしたの?」
「昨日から思っていたのですが、挙式って何をするんですか?」
...おばあさんはこの子に教えてあげなかったのだろうか。
「あー...結婚式って分かる?」
ー*ー
結婚式...。
その時、おばあさまと話したことを思い出した。
《メル、メルは将来お嫁さんになりたいかい?》
《はい!だって、どの童話のお姫様も、とっても幸せそうだから...》
《そうかい。だったら、メルが結婚式をして、花嫁さんになるまでは生きないとね》
...そんなことを話したこともあった。
「思い出しました。結婚式というのは、夫婦になるときにするものですよね?でも、ナタリーさんたちはもう夫婦なのでは...」
頭のなかに大きなクエスチョンマークが浮かぶ。
「書類を出せば夫婦にはなれるよ。でも...結婚式をするかどうかはその人たち次第。たしかにナタリーたちは夫婦だけど、結婚式はまだしてないんだ」
「そうだったんですか!知りませんでした...」
初めて知った。
夫婦になるときには、みんな結婚式をするものだろうと思っていたから。
「そのお手伝いって、とっても素敵ですね!」
「うん。手伝うのはいいんだけど」
カムイに抱きよせられる。
「...?」
「危ない人がいるかもしれないから、俺のそばを離れちゃダメだよ?」
「はい!」
カムイは心配性だな、と思いつつ、私は気を引き締めようと決心した。
(カムイに迷惑をかけるわけにはいきません!)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(えっと...)
その後、私は馬に乗ることになった。
「カムイ、馬車の御者さんって何をすればいいんですか?」
「前に人がいないかとか、確認して?」
「私にできるでしょうか?」
「安心して、俺も一緒だから」
カムイが優しく頭を撫でてくれる。
馬に乗るのでさえほとんど初めての私が、まさかカムイと一緒に御者をやることになるとは思わなかった。
ー**ー
(緊張してるよな...)
メルが固まっているのを見て、俺は肩の力を抜くように言った。
だが、メルの顔はますますこわばっている。
「メル」
「はいっ⁉」
俺はメルの頬に手を添えた。
「緊張しすぎ。ほら、笑って?」
「む、無理です」
「笑顔でいないと、幸せなご夫婦を目的地まで乗せていくことはできないよ?」
「...こうですか?」
いつもとは全く違う顔に、思わず笑ってしまう。
「それと...はい」
「え?これって...」
それは、カタバミの花をイメージして作ったブローチだ。
「メルにあげる」
「いいんですか...?」
「俺が作ったものだから、ナタリーのみたいに綺麗にはならなかったけど、それでいいならもらってほしい」
「ありがとうございます!大切にしますね」
メルはいつものようなふわふわな笑顔になった。
「その笑顔が大事なんだ」
「あ...」
俺たちは顔を見あわせて笑った。
(それにしても、ベンとナタリーは何をしているんだ?)
御者は主が出てくるまで待つのがこの街の流儀なので、俺はそれしか知らない。
こんなことをしている場合ではないと思いつつ、二人の幸せを祈れるのが嬉しくて仕方ない。
この街にはあいつがいる。
だから、この街から少し離れた町で挙式をすると聞いて安心した。
エリックは有休を使うらしい。
「あの...カムイ」
「ん?」
「これ、作ってみたのですが...」
それは、黒いリストバンドだった。
(最近やけにわたわたしていたのはこれか)
俺は頬が緩むのを抑えきれない。
「ありがとう。片方だけもらうね」
「片方だけですか?」
「うん、もう片方は...」
メルの腕にはめる。
「ほら、おそろい」
メルは恥ずかしそうにしながらも、微笑んでくれた。
「それより、肩は大丈夫?」
「はい!」
俺もメルも、まだ肩の傷が完治しているわけではない。
できればメルを休ませたかったが、馬は二頭で馬車を作るのが決まりだ。
「おまたせ!」
「ナタリーさん、ベンさん!こんにちは」
「お嬢さんたちが引き受けてくれて助かっただよ」
「当たり前でしょ、友だちなんだから。...さあ、主役がいないとはじまらないから乗って?」
「ありがと」
「お二人が幸せになれるように、私も頑張ります!」
「メルもありがと」
二人を馬車で連れていく。
これから三日ほど、この街には帰らない。
「メル、乗って?」
「はい!」
こうして、二人の新しい日々のはじまりを彩る数日間が幕を開けた。
次の日。俺は朝から憂鬱だった。
「おはようございます、カムイ」
「うん、おはよう」
「お昼から、でしたよね?」
「うん」
俺はメルを緩く抱きしめ、昨夜のことを思い出す。
ーーーーーーーーーー【回想】ーーーーーーーーーー
「ナタリーたちが...」
俺は息をのんだ。
(まさか、もうあいつが...)
「挙式をするらしい」
「...え?」
「だから、挙式をするらしいんだ。手伝いにこいと言われた」
エリックが変なところで区切るから、てっきりあいつが動き出したのかと思った。
それがまさか、こんなにもめでたいことだとは...。
「なら、もっとスマートに言えよ」
俺はメルから身体を離し、エリックを小突いた。
「すまない。こういう話題はどうやって切り出せばいいのか分からなくて...」
「普通に言えばいいと思うけど?」
そのあとメルが紅茶を淹れてくれ、調書をとられることになった。
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「あの、カムイ」
「どうしたの?」
「昨日から思っていたのですが、挙式って何をするんですか?」
...おばあさんはこの子に教えてあげなかったのだろうか。
「あー...結婚式って分かる?」
ー*ー
結婚式...。
その時、おばあさまと話したことを思い出した。
《メル、メルは将来お嫁さんになりたいかい?》
《はい!だって、どの童話のお姫様も、とっても幸せそうだから...》
《そうかい。だったら、メルが結婚式をして、花嫁さんになるまでは生きないとね》
...そんなことを話したこともあった。
「思い出しました。結婚式というのは、夫婦になるときにするものですよね?でも、ナタリーさんたちはもう夫婦なのでは...」
頭のなかに大きなクエスチョンマークが浮かぶ。
「書類を出せば夫婦にはなれるよ。でも...結婚式をするかどうかはその人たち次第。たしかにナタリーたちは夫婦だけど、結婚式はまだしてないんだ」
「そうだったんですか!知りませんでした...」
初めて知った。
夫婦になるときには、みんな結婚式をするものだろうと思っていたから。
「そのお手伝いって、とっても素敵ですね!」
「うん。手伝うのはいいんだけど」
カムイに抱きよせられる。
「...?」
「危ない人がいるかもしれないから、俺のそばを離れちゃダメだよ?」
「はい!」
カムイは心配性だな、と思いつつ、私は気を引き締めようと決心した。
(カムイに迷惑をかけるわけにはいきません!)
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(えっと...)
その後、私は馬に乗ることになった。
「カムイ、馬車の御者さんって何をすればいいんですか?」
「前に人がいないかとか、確認して?」
「私にできるでしょうか?」
「安心して、俺も一緒だから」
カムイが優しく頭を撫でてくれる。
馬に乗るのでさえほとんど初めての私が、まさかカムイと一緒に御者をやることになるとは思わなかった。
ー**ー
(緊張してるよな...)
メルが固まっているのを見て、俺は肩の力を抜くように言った。
だが、メルの顔はますますこわばっている。
「メル」
「はいっ⁉」
俺はメルの頬に手を添えた。
「緊張しすぎ。ほら、笑って?」
「む、無理です」
「笑顔でいないと、幸せなご夫婦を目的地まで乗せていくことはできないよ?」
「...こうですか?」
いつもとは全く違う顔に、思わず笑ってしまう。
「それと...はい」
「え?これって...」
それは、カタバミの花をイメージして作ったブローチだ。
「メルにあげる」
「いいんですか...?」
「俺が作ったものだから、ナタリーのみたいに綺麗にはならなかったけど、それでいいならもらってほしい」
「ありがとうございます!大切にしますね」
メルはいつものようなふわふわな笑顔になった。
「その笑顔が大事なんだ」
「あ...」
俺たちは顔を見あわせて笑った。
(それにしても、ベンとナタリーは何をしているんだ?)
御者は主が出てくるまで待つのがこの街の流儀なので、俺はそれしか知らない。
こんなことをしている場合ではないと思いつつ、二人の幸せを祈れるのが嬉しくて仕方ない。
この街にはあいつがいる。
だから、この街から少し離れた町で挙式をすると聞いて安心した。
エリックは有休を使うらしい。
「あの...カムイ」
「ん?」
「これ、作ってみたのですが...」
それは、黒いリストバンドだった。
(最近やけにわたわたしていたのはこれか)
俺は頬が緩むのを抑えきれない。
「ありがとう。片方だけもらうね」
「片方だけですか?」
「うん、もう片方は...」
メルの腕にはめる。
「ほら、おそろい」
メルは恥ずかしそうにしながらも、微笑んでくれた。
「それより、肩は大丈夫?」
「はい!」
俺もメルも、まだ肩の傷が完治しているわけではない。
できればメルを休ませたかったが、馬は二頭で馬車を作るのが決まりだ。
「おまたせ!」
「ナタリーさん、ベンさん!こんにちは」
「お嬢さんたちが引き受けてくれて助かっただよ」
「当たり前でしょ、友だちなんだから。...さあ、主役がいないとはじまらないから乗って?」
「ありがと」
「お二人が幸せになれるように、私も頑張ります!」
「メルもありがと」
二人を馬車で連れていく。
これから三日ほど、この街には帰らない。
「メル、乗って?」
「はい!」
こうして、二人の新しい日々のはじまりを彩る数日間が幕を開けた。
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