路地裏のマッチ売りの少女

黒蝶

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Until the day when I get engaged. -Of light, ahead of it...-

第67話

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ー**ー
「メル」
「...」
メルはぐっすり眠っているようで、全く起きる気配がない。
俺はくすっと笑い、メルの頭をそっと撫でる。
(そういえば...俺もメルがきてからというもの、安眠できている気がする)
最近は少し...かなり気がかりなことがあるので睡眠が浅くなりつつあるが、メルがそばにいるという安心感は俺にいい影響を与えているのだろう。
俺が思っている以上に、
「メルが隣にいることは幸せなんだろうな...」
「か、カムイ...おはようございます」
「うん、おはよう」
「私も、カムイが隣にいることは、とても幸せなことだと思ってますよ」
ー*ー
起きたときにはびっくりしたけれど、胸がいっぱいだった。
「あれ⁉口に出てた...?」
「え?」
(無意識だったんでしょうか?)
珍しくカムイが顔を真っ赤にしている。
少し笑っていると、いきなり抱きしめられる。
「笑わないで」
「ごめんなさい」
「あと...ちょっと待って、今絶対に赤くなってるから」
「分かりました」
カムイのぬくもりに包まれて、私はつい、もう一度寝かけてしまう。
「寝たかったら寝ていいよ」
頭をぽんぽんと撫でられて、それがまた心地よくて...私はいつの間にか、もう一度眠ってしまっていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ん...」
身体が動かない。
動かせない。
「...!」
後ろにカムイの手があるからだとようやく気づく。
(抱きしめられたまま、ということでしょうか?)
なんとか動こうと身を捩った時、
「いなくならないで...」
カムイの声が頭の上で響いた。
「私はいなくなりませんよ?」
「行かないで」
「どこにも行きませんから」
私はカムイを起こそうと思った。
「カムイ、多分もう夕方ですよ」
「メ、ル...」
「っ、カムイっ、苦しいです...」
「ごめん、ちょっとだけこうさせて?」
「はい」
カムイに何があったのか分からないが、時折落ちてくる滴をなんとか手を伸ばして拭う。
「ごめん...」
弱々しいカムイを見て、私は心配になった。
ー**ー
...女の子に頼って泣きすがるなんて、本当に俺らしくない。
だが、あの夢を視たのが久しぶりだったのも事実だ。
「なにか嫌なことがあったんですか?」
「...昔の夢を見てたんだ」
「昔の...?」
「両親が殺されたときのものだよ」
「!」
俺は目を閉じ、あの日の記憶を思い出す...。
《お母さん、お父さん!》
《きみ、近づいてはいけないよ》
《俺のお父さんとお母さんなんです!》
《...すまないが、今は無理だ》
俺は一人で泣いていて。
そんな時に、あいつに声をかけられたのだ。
《大丈夫、僕が全部お片づけしてあげるから》
あいつだけは許せない。
今まで人を殺してこなかったとはいえ、あいつだけは止めてやる。
...たとえこの手を、血で染めることになったとしても。
「カムイ?」
「ごめん、なんでもな...」
メルが俺の頬に手を添える。
(ん?)
「嘘です。カムイは嘘をつくのがヘタです」
「酷いなあ。嘘なんて言ってないよ?」
「...嘘です。だってなんにもないのに、そんな何かを覚悟するような顔をしないでしょう?」
俺は何も言えなかった。
今までなら、嘘だと言い張れたのかもしれない。
だが、不思議とメルには嘘をつけない。
(どうして見破られたんだ?)
ー*ー
「人を傷つけるのは、ダメですよ?」
私は直感したことを口にした。
カムイは少し驚いたような顔をしたあと、黙りこんでしまった。
「『人は殺さない』。それだけは、ちゃんと守らないとダメです」
「...メル」
「私は、怒ったカムイも、今みたいに悲しそうなカムイも、私が少し何かをしただけで喜んでくれるカムイも、お仕事しているカムイも...どんなカムイもみんな好きです。そのなかで一番好きなのは、幸せそうに笑っているカムイなんです。カムイが心から笑えなくなるようなこと...カムイがするのが嫌なことはしちゃダメです」
カムイはふっと頬を緩ませると、私にキスをした。
「メルがいると、どんなに間違った道を歩きそうになっても止まることができる。どんな道でも、歩き続けられる気がする。...そうだね、『人は殺さない』。それだけは必ず守るよ。メルとずっと一緒にいたいから」
「カムイ...」
ー**ー
俺のお姫様は、とっても強いらしい。
「ありがとう、メル。おかげでまた覚悟が決まったよ」
『人は殺さない』。ただし、あいつとの決着はつける。
(殺さずに快楽殺人鬼を止めるには、どうすればいいだろう)
メルがいなければ、きっとこんなことを考えたりはしなかっただろう。
「本当にありがとう」
「私だけ助けてもらってばかりではいられませんから」
メルはにこにこしている。
メルの肩を傷つけないようにそっと抱きしめていると、いきなり扉が開いた。
「誰だ?」
俺はナイフを玄関に向ける。
「すまない、急ぎの用だったものでな...」
「エリックさん!」
「何かあったの?」
「先日の件の調書をとりにきた。それと至急手伝ってほしいことがある」
「何?」
エリックが言いづらそうにしている。
俺がメルを抱きしめたままだからだと分かってはいるが、エリックがこれほど慌てるのは珍しい。
「はっきり言って?」
「...ナタリーが、いや、正確には二人が...」
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