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Until the day when I get engaged. -Of light, ahead of it...-
第65話
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ー*ー
この日は本当にいい天気だった。
窓を開けると、小鳥のさえずりが聞こえてきた。
「カムイ、おはようございます」
「うん、おはよう...」
いつの間にか私の後ろに立っていたカムイが、私を後ろから包みこむように抱きしめてくれる。
「今日は出掛けられそうだね」
「はい!」
「着替えてくるよ」
私はその間に、アイスブルーのワンピースを着る。
カムイは相変わらず、白いカッターシャツに黒いスラックス、黒いジャケットという格好だ。
(カムイはこのお洋服が好きなんでしょうか?)
「たまには別の色も似合うと思うよ?」
「カムイも、別のものを着ても似合うと思いますよ?」
「俺は仕事着でこれが多いんだ」
「私も、この色のお洋服が多いです」
カムイと顔を見あわせて、二人で微笑みあう。
この時間がとても幸せで。
私は、いつものようにカムイの手をとった。
ー**ー
「お花がいっぱいです!」
「そうだね」
無邪気に辺りをきょろきょろ見ているメルを、俺は近くで見つめていた。
(...あ)
俺はそっとしゃがみ、それをとる。
「カムイ?」
「ん?」
「何かありましたか?」
「いや、色々な花が咲いているなと思って...」
チューリップにデージー、ムルチコーレ...スターチス、イベリス、スノーフレークまで咲いている。
だが俺はその花たちではなく、小さく咲く花に手をかけていた。
「カタバミだ」
「この黄色い、小さなお花ですか?」
「うん」
小さい頃、父から花冠の作り方を習ったのを思い出す。
カタバミは雑草扱いだが、他の花では表現できない可愛らしさがあると俺は思っている。
「ちょっと待ってね」
「...?はい」
俺は懸命に思い出しながら作る。
「...よし。メル、はい」
「わっ...」
ー*ー
それは、私の頭にすっぽりとおさまった。
「可愛いです!でもこのお花、抜いてしまっても大丈夫だったんですか?」
「うん。これ、雑草扱いなんだ」
とても綺麗な花なのに、もったいないと私は思った。
カムイもそう思っていたりするのだろうか。
「こんなに小さい花なのに、とっても強いんですね」
「強い...そうかもしれないね」
「これ、どうやって作るんですか?」
「手が痛くなるからやめた方がいいよ」
「それなら...」
私はカムイの手を両手で包みこむ。
「...!」
「カムイの手、こうしたら痛くないですか?」
「メルの手は、優しい手だね。温かい...」
「そうでしょうか?」
「そうだよ」
ー**ー
いきなり手を握ってくるものだから、すごくドキドキしてしまう。
(あー...本当にらしくない)
メルはにこにこしている。
しばらく手を離してくれそうにないので、俺はされるがままになっていた。
「...『輝く心』、『喜び』」
「?」
「カタバミの花言葉だよ」
「素敵な言葉ですね」
「そうだね」
お互いに微笑みあう。
メルは俺の手を少しゆるく握りなおし、丁寧に見ている。
「カムイの手は、とっても綺麗ですね」
「そうかな?」
「はい。...あ、トゲが刺さってます。痛いかもしれませんけど、我慢してください」
「っ、」
なんとか叫びそうになるのを押し殺した。
「えっと...ごめんなさい」
(ん?何に謝ってるんだ?)
メルは緑のトゲトゲしたそれをぱきりと折り、そっと俺の指を消毒してくれた。
(アロエか)
「メル、可愛い」
「え?え?」
メルは慌てている。
「アロエにわざわざごめんなさいを言う人なんて、滅多にいないよ」
「植物も命ですから」
メルらしい答えだと俺は思った。
改めてお礼を言おうとすると...
「こら!なにアロエを折ってるんだ!」
メルの瞳は明らかに恐怖を含んでいた。
「え、あ、それは...」
「大事なもんなんだぞ⁉くそっ、高値で売ろうと思ったのに!」
その男は持っていた鎌でいきなりメルを切りつけた。
「...!」
ー*ー
くると思っていた痛みは、目を閉じているといつまでもこなかった。
「おい」
カムイが低い声で言う。
「いきなり切りつけるのはおかしいだろ」
「はあ?おまえは黙ってろ!」
「カムイ!」
咄嗟にカムイを庇った結果、庇い方がまずかったらしい。
ようやく傷痕が消えかけていた右肩から出血する。
「...っ」
「メル!」
「お、俺は悪くない。悪くない...」
カムイはその男を、いとも簡単になぎ倒していた。
「知ってる?アロエってこの公園では雑草扱いで、誰でも手当てに使っていいってこと。それを売りさばくのは違法じゃないかな?」
「な、何を...」
「おい、いたぞ!」
いつの間にいたのか、大勢の警官たちが男を連れていく。
私の身体は抱きしめられる。
「ごめんね、怖かったよね...。それに、また無茶をさせて怪我をさせた。ごめん」
「カムイは無事ですか?」
「俺は少しかすった程度だから」
カムイの肩からも血が出ている。
「ちゃんと守れなくて、ごめんなさい...」
「大丈夫だから、帰ろうか」
「はい...」
私は涙を止められず、カムイは下を向いたまま、出掛けはじめの時のわくわくが嘘のように消えてしまった。
(帰ったら、カムイが元気になる方法を考えましょう)
「メル」
とても優しい声で私の名前を呼んでくれるこの人を、完璧に守りたかった...。
この日は本当にいい天気だった。
窓を開けると、小鳥のさえずりが聞こえてきた。
「カムイ、おはようございます」
「うん、おはよう...」
いつの間にか私の後ろに立っていたカムイが、私を後ろから包みこむように抱きしめてくれる。
「今日は出掛けられそうだね」
「はい!」
「着替えてくるよ」
私はその間に、アイスブルーのワンピースを着る。
カムイは相変わらず、白いカッターシャツに黒いスラックス、黒いジャケットという格好だ。
(カムイはこのお洋服が好きなんでしょうか?)
「たまには別の色も似合うと思うよ?」
「カムイも、別のものを着ても似合うと思いますよ?」
「俺は仕事着でこれが多いんだ」
「私も、この色のお洋服が多いです」
カムイと顔を見あわせて、二人で微笑みあう。
この時間がとても幸せで。
私は、いつものようにカムイの手をとった。
ー**ー
「お花がいっぱいです!」
「そうだね」
無邪気に辺りをきょろきょろ見ているメルを、俺は近くで見つめていた。
(...あ)
俺はそっとしゃがみ、それをとる。
「カムイ?」
「ん?」
「何かありましたか?」
「いや、色々な花が咲いているなと思って...」
チューリップにデージー、ムルチコーレ...スターチス、イベリス、スノーフレークまで咲いている。
だが俺はその花たちではなく、小さく咲く花に手をかけていた。
「カタバミだ」
「この黄色い、小さなお花ですか?」
「うん」
小さい頃、父から花冠の作り方を習ったのを思い出す。
カタバミは雑草扱いだが、他の花では表現できない可愛らしさがあると俺は思っている。
「ちょっと待ってね」
「...?はい」
俺は懸命に思い出しながら作る。
「...よし。メル、はい」
「わっ...」
ー*ー
それは、私の頭にすっぽりとおさまった。
「可愛いです!でもこのお花、抜いてしまっても大丈夫だったんですか?」
「うん。これ、雑草扱いなんだ」
とても綺麗な花なのに、もったいないと私は思った。
カムイもそう思っていたりするのだろうか。
「こんなに小さい花なのに、とっても強いんですね」
「強い...そうかもしれないね」
「これ、どうやって作るんですか?」
「手が痛くなるからやめた方がいいよ」
「それなら...」
私はカムイの手を両手で包みこむ。
「...!」
「カムイの手、こうしたら痛くないですか?」
「メルの手は、優しい手だね。温かい...」
「そうでしょうか?」
「そうだよ」
ー**ー
いきなり手を握ってくるものだから、すごくドキドキしてしまう。
(あー...本当にらしくない)
メルはにこにこしている。
しばらく手を離してくれそうにないので、俺はされるがままになっていた。
「...『輝く心』、『喜び』」
「?」
「カタバミの花言葉だよ」
「素敵な言葉ですね」
「そうだね」
お互いに微笑みあう。
メルは俺の手を少しゆるく握りなおし、丁寧に見ている。
「カムイの手は、とっても綺麗ですね」
「そうかな?」
「はい。...あ、トゲが刺さってます。痛いかもしれませんけど、我慢してください」
「っ、」
なんとか叫びそうになるのを押し殺した。
「えっと...ごめんなさい」
(ん?何に謝ってるんだ?)
メルは緑のトゲトゲしたそれをぱきりと折り、そっと俺の指を消毒してくれた。
(アロエか)
「メル、可愛い」
「え?え?」
メルは慌てている。
「アロエにわざわざごめんなさいを言う人なんて、滅多にいないよ」
「植物も命ですから」
メルらしい答えだと俺は思った。
改めてお礼を言おうとすると...
「こら!なにアロエを折ってるんだ!」
メルの瞳は明らかに恐怖を含んでいた。
「え、あ、それは...」
「大事なもんなんだぞ⁉くそっ、高値で売ろうと思ったのに!」
その男は持っていた鎌でいきなりメルを切りつけた。
「...!」
ー*ー
くると思っていた痛みは、目を閉じているといつまでもこなかった。
「おい」
カムイが低い声で言う。
「いきなり切りつけるのはおかしいだろ」
「はあ?おまえは黙ってろ!」
「カムイ!」
咄嗟にカムイを庇った結果、庇い方がまずかったらしい。
ようやく傷痕が消えかけていた右肩から出血する。
「...っ」
「メル!」
「お、俺は悪くない。悪くない...」
カムイはその男を、いとも簡単になぎ倒していた。
「知ってる?アロエってこの公園では雑草扱いで、誰でも手当てに使っていいってこと。それを売りさばくのは違法じゃないかな?」
「な、何を...」
「おい、いたぞ!」
いつの間にいたのか、大勢の警官たちが男を連れていく。
私の身体は抱きしめられる。
「ごめんね、怖かったよね...。それに、また無茶をさせて怪我をさせた。ごめん」
「カムイは無事ですか?」
「俺は少しかすった程度だから」
カムイの肩からも血が出ている。
「ちゃんと守れなくて、ごめんなさい...」
「大丈夫だから、帰ろうか」
「はい...」
私は涙を止められず、カムイは下を向いたまま、出掛けはじめの時のわくわくが嘘のように消えてしまった。
(帰ったら、カムイが元気になる方法を考えましょう)
「メル」
とても優しい声で私の名前を呼んでくれるこの人を、完璧に守りたかった...。
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