路地裏のマッチ売りの少女

黒蝶

文字の大きさ
上 下
101 / 220
Until the day when I get engaged. -In linear light-

第61話

しおりを挟む
ー*ー
この日は朝から大忙しだった。
「メル、チェリーパイできた?」
「はい」
「それじゃあ次は、シチューを作ろうか」
「はい!」
大量の料理を家で作り、しかも夕方までに警察署まで運ばなければならない。
「それからマフィンも焼かないと...」
「私、焼きます!」
「じゃあ、俺はシチューを作るよ」
お昼前、ようやく料理が完成した。
「三時間くらいかかったね」
「はい...」
「お疲れ様」
カムイが口のなかにできたてのパンケーキをいれてくれる。
「美味しいです」
「よかった」
「いつの間に作ったんですか?」
「んー?あ、ちょっとだけ余裕ができたから。お昼御飯にもなるかなって」
カムイは微笑みながら言うけれど、相当大変だったにちがいない。
「ありがとうございます」
私は感謝の気持ちでいっぱいだった。
(私は何も作れませんでした...)
「メルがいっぱい頑張ってくれたおかげで、去年よりずっと早く終わったよ。こちらこそありがとう」
頭を撫でられて、私はほっとしてしまう。
「私、ちゃんと役にたちましたか?」
「うん、上出来」
ー**ー
メルがぱあっと明るくなる。
(役にたててないわけないのに...)
「メルは、昨日からあれだけ手伝ってくれてるでしょ?役にたつどころか、メルがいなかったら料理を作るのが間に合わなかったよ。本当にありがとう」
「...!」
メルは本当に嬉しそうに笑っていた。
「さて、と。あとは恐らく五分後にくるであろうエリックを引き止めるだけだよ」
「お料理はどうやって運ぶんですか?」
「家の前に馬車がきてるから、早速運んでもらおう」
「はい!」
俺たちは馬車に乗っているナタリーたちに料理を渡して、急いで食器を片づけた。
ー*ー
食器を片づけ終えた頃、ちょうどエリックさんがやってきた。
「こ、こんにちは」
「ああ」
「紅茶を淹れますね。コーヒーも...」
エリックさんの好みは、コーヒーに角砂糖五つだ。
「どうぞ」
「ありがとう」
「エリックって意外と甘党だよね」
「うるせー」
エリックさんはゴクゴク飲み干してしまう。
「エリック、これで勝負しないか?」
そう言ってカムイが出したのは、トランプだった。
「メルはルールが分かるのか?」
「はい!」
「メルはポーカーが強いんだよ。ブラックジャックも」
「そんなマニアックなものを...」
「でも私、一番得意なのはメランコリーです」
「ならば、メランコリー、ポーカー、ブラックジャックの順番にやっていけばいいんじゃないか?」
「そうしようか」
こうして私たちは、トランプで遊んだ。
今日はコインの代わりにキャンディーを使った。
「なっ...。競技が変わってないか?」
「メル、またたくさん揃ったね」
「はい!」
メランコリーは私の圧勝だった。
エリックさんはとても驚いていた。
次は、ポーカーだ。
「コインベット!」
「レイズです」
「コールだ」
しばらくやりとりが続き...
「ショウ・ダウン」
私はセブンのスリーカード、カムイはエースとテンのツーペア...エリックさんは、ロイヤルストレートフラッシュだった。
「エリックさん、強いです」
「まあ、なれてるからな」
「あー、今日は手札がいまいちだ...」
それからブラックジャックをした。
「ヒット、ヒット、ヒット、スタンド」
「スタンドです」
「スタンドかな」
「「「オープン」」(です)」
エリックさんは十八、私は二十、カムイは...
「ブラックジャック」
「相変わらずおまえはブラックジャックが強いんだな」
「まあね」
「なあ、一つ聞きたかったのだが...メルがいつも腕にしているそれは、大切なものなのか?」
エリックさんが指さしているのは、ブルーのブレスレットだ。
「はい、とっても大切なものなんです」
ー**ー
とっても大切なもの、か。
そんなふうに思われているのが嬉しくて、俺はメルの手をそっと握った。
「いいか、大事なものなら絶対に手離すな。大事なものほど、失いやすいからな...」
「...?はい、分かりました」
エリックの過去からすればそうなのだろう。
だが、俺がメルのすべてを守ってみせる。
...そろそろ、馬車がくる時間だ。
「エリック、一緒にきてくれる?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「今日はもう休めと言われたのだが...」
「いいから、ほら」
キイ、と音をたてて扉を開けた瞬間、
クラッカーが宙を舞う。
「エリック警部補、お誕生日おめでとうございます!」
「は?え?あ?」
エリックは混乱している。
「そうか、今日は俺の誕生日か...」
毎年のように、エリックは自分の誕生日を忘れる。
「俺の好きなものばかり...プレゼントまである。毎年ありがとう」
エリックはかなり感激したようだ。
その後、無事にパーティーは成功し、俺とメルは家に帰った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ベッドの中で二人で今日のことを話す。
「メル、ありがとう」
「...?」
「それのこと、『とっても大切なもの』って言ってくれて」
俺はブレスレットを指さす。
「あ...」
メルがかあっと赤くなる。
「た、大切なのは本当ですから」
「ありがとう」
俺はメルを腕のなかに閉じこめて、そっと頭を撫でた。
しばらくすると、メルが抱きしめかえしてくれる。
そのあたたかさに安心して、俺はそっと瞼を閉じた。
しおりを挟む
感想 76

あなたにおすすめの小説

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

【完結】あなたを忘れたい

やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。 そんな時、不幸が訪れる。 ■□■ 【毎日更新】毎日8時と18時更新です。 【完結保証】最終話まで書き終えています。 最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

なにをおっしゃいますやら

基本二度寝
恋愛
本日、五年通った学び舎を卒業する。 エリクシア侯爵令嬢は、己をエスコートする男を見上げた。 微笑んで見せれば、男は目線を逸らす。 エブリシアは苦笑した。 今日までなのだから。 今日、エブリシアは婚約解消する事が決まっているのだから。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

処理中です...