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Until the day when I get engaged. -In linear light-
第60話
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ー*ー
二日後、私たちは警察署に呼ばれた。
「カムイさん、今年もどうか手伝っていただけないでしょうか...?先日の爆破事件で数人が負傷してしまって、そいつらが当日にしかこられなくなってしまったんです。このままではエリック警部補に悟られてしまいます!お願いします!」
「エリックのためだもんね。いいよ、何をすればいい?」
エリックさんがどれだけ信頼されているのか、この警察署に集まっている人数を見れば分かる。
「カムイさんは奥様と一緒に飾りつけの方をお願いできますか?」
...奥様?
「え、あ、」
「了解」
私がしどろもどろしている間に、カムイは少しくすぐったそうにしながら飾りつけのやり方を私に教えてくれる。
「勘違いされたまま終わってしまいましたがいいんですか?」
「ああ、『奥様』?」
「...っ」
(恥ずかしいです!)
ー**ー
「周りからはそう見えるのかな?」
「私が、お、奥様にですか?」
メルはなにやら慌てている。
「俺はメルの旦那さん?」
「うう...」
「嫌?」
メルは首を横にふる。
...いつか本当にそうなれればいい。
俺はそんなことを呑気に考えていたが、だんだん恥ずかしくなってきてしまう。
「メル、ありがとう」
「私、何もしてませんよ?」
「俺のそばにいてくれて、いつも感謝してる」
「カムイ...」
メルの小さな手が俺の頬に触れる。
「ずっと一緒にいたいです。私はカムイのそばを離れたりしませんから」
メルはにこにこしながらあたたかい眼差しをむけて言う。
「ありがとう」
俺はメルの頭を撫でて、目の前の飾りを綺麗に磨く。
今この瞬間が止まってしまえばいい...そう思えるほど、心地いい時間だった。
ー*ー
「カムイ、これでいいですか?」
「もう少し右に飾ろうか」
「はい!」
私はカムイの指示どおりに飾れるように、手を動かしているつもりだ。
「カムイ、次は...」
ぐらりと梯子が揺れる。
あ、と思ったときにはもう遅い。
「メル!」
私は咄嗟に目を閉じた。
怖い、という思いがどんな気持ちよりも勝ったからだ。
しばらくして、ガラガラと音がしたものの、体に痛みはない。
「大丈夫?」
カムイに横抱きにキャッチされていた。
「は、はい」
「ごめん、怖かったよね...」
ぎゅっとカムイに抱きしめられて、とても安心した。
...我慢しようとしていたものが溢れでて、止まらなかった。
「ごめん。怪我がなくてよかった...」
私の頬を滴が伝った。
ー**ー
やはり女の子にさせるべきじゃなかったと後悔した。
梯子が安定していないことに気づいたときには遅かった。
俺はメルの頭を撫でて、こっそり誰もいない部屋の隅まで行った。
「メル」
メルはしゃくりあげて泣いている。
「...ここに、俺の手があります」
こんなこと、くだらないのかもしれない。
「?」
メルはきょとんとしている。
「メルの手をのせて、布を被せると...」
でも、メルを笑顔にできるなら、俺はなんでもする。
「はい!」
「わあ...」
メルと俺の手の間には、大量のキャンディーがある。
「すごいです!どうやってやったんですか?」
「内緒。俺が使える魔法だよ」
「可愛いです...!」
メルは華が咲いたような笑顔になった。
(失敗するかと思った...)
《カムイ、いつかあなたが元気にする魔法使いになるのよ。あ、王子様でもいいけどね!》
《分かったよ、お母さん!》
昔、母から教わった魔法は、今になって役立っている。
俺は、魔法使いから王子になれるだろうか。
ずっとメルを、そばで守れるだろうか。
ー*ー
「カムイ、一つ食べてもいいですか?」
「うん、どうぞ。俺も一つ食べようかな」
ストロベリーにミルク、ライム...色々あったものの、私はやっぱりアップルを選んだ。
「メルは本当にリンゴが好きだね」
「はい!カムイは何の味を食べるんですか?」
「俺は...メロンかな」
緑色のキャンディーを包みから取り出すと、カムイは口のなかにいれた。
私も綺麗な色のキャンディーを、同じようにして口のなかにいれる。
「甘いです」
「うん、俺のも甘い」
なんだか空気も甘くなってきたような気がする。
二人で微笑みあっていると、突然扉が倒れた。
私は思わずカムイにしがみついてしまう。
「警察署の扉まで破壊するなんて...きみは脱獄犯のつもりかな、ナタリー?」
「え?あたしまた邪魔だった?」
「ナタリー、中から声がしたんなら邪魔になるから待つようにって、おいらがちゃんと言っただよな?」
「二人も手伝いなのか。お疲れ」
カムイが棒読みで言うのを聞いて、私は思わず笑ってしまった。
「お嬢さん、カムイ...本当にすまねえだよ」
「ベンは悪くないだろう?問題はそこの怪力さんだよ」
「ええっと、ナタリーさんとベンさんも飾りつけですか?」
私はこれ以上空気が悪くならないことを祈りながら、話題を変えようとする。
「ええ、あたしたちはこれから手伝いよ」
「俺とメルは帰るところなんだ。もう五時だからね」
「お疲れ様です!」
「メル、行こうか」
いつものようにカムイが手をさしのべてくれる。
「はい!」
私はその手を握り、ゆっくりと歩みだす。
「それでは、おやすみなさい」
「ええ、また明日ね」
キャンディーをなめながら、夕闇迫るなかを二人で歩いて帰った。
...明日は、エリックさんの誕生日だ。
二日後、私たちは警察署に呼ばれた。
「カムイさん、今年もどうか手伝っていただけないでしょうか...?先日の爆破事件で数人が負傷してしまって、そいつらが当日にしかこられなくなってしまったんです。このままではエリック警部補に悟られてしまいます!お願いします!」
「エリックのためだもんね。いいよ、何をすればいい?」
エリックさんがどれだけ信頼されているのか、この警察署に集まっている人数を見れば分かる。
「カムイさんは奥様と一緒に飾りつけの方をお願いできますか?」
...奥様?
「え、あ、」
「了解」
私がしどろもどろしている間に、カムイは少しくすぐったそうにしながら飾りつけのやり方を私に教えてくれる。
「勘違いされたまま終わってしまいましたがいいんですか?」
「ああ、『奥様』?」
「...っ」
(恥ずかしいです!)
ー**ー
「周りからはそう見えるのかな?」
「私が、お、奥様にですか?」
メルはなにやら慌てている。
「俺はメルの旦那さん?」
「うう...」
「嫌?」
メルは首を横にふる。
...いつか本当にそうなれればいい。
俺はそんなことを呑気に考えていたが、だんだん恥ずかしくなってきてしまう。
「メル、ありがとう」
「私、何もしてませんよ?」
「俺のそばにいてくれて、いつも感謝してる」
「カムイ...」
メルの小さな手が俺の頬に触れる。
「ずっと一緒にいたいです。私はカムイのそばを離れたりしませんから」
メルはにこにこしながらあたたかい眼差しをむけて言う。
「ありがとう」
俺はメルの頭を撫でて、目の前の飾りを綺麗に磨く。
今この瞬間が止まってしまえばいい...そう思えるほど、心地いい時間だった。
ー*ー
「カムイ、これでいいですか?」
「もう少し右に飾ろうか」
「はい!」
私はカムイの指示どおりに飾れるように、手を動かしているつもりだ。
「カムイ、次は...」
ぐらりと梯子が揺れる。
あ、と思ったときにはもう遅い。
「メル!」
私は咄嗟に目を閉じた。
怖い、という思いがどんな気持ちよりも勝ったからだ。
しばらくして、ガラガラと音がしたものの、体に痛みはない。
「大丈夫?」
カムイに横抱きにキャッチされていた。
「は、はい」
「ごめん、怖かったよね...」
ぎゅっとカムイに抱きしめられて、とても安心した。
...我慢しようとしていたものが溢れでて、止まらなかった。
「ごめん。怪我がなくてよかった...」
私の頬を滴が伝った。
ー**ー
やはり女の子にさせるべきじゃなかったと後悔した。
梯子が安定していないことに気づいたときには遅かった。
俺はメルの頭を撫でて、こっそり誰もいない部屋の隅まで行った。
「メル」
メルはしゃくりあげて泣いている。
「...ここに、俺の手があります」
こんなこと、くだらないのかもしれない。
「?」
メルはきょとんとしている。
「メルの手をのせて、布を被せると...」
でも、メルを笑顔にできるなら、俺はなんでもする。
「はい!」
「わあ...」
メルと俺の手の間には、大量のキャンディーがある。
「すごいです!どうやってやったんですか?」
「内緒。俺が使える魔法だよ」
「可愛いです...!」
メルは華が咲いたような笑顔になった。
(失敗するかと思った...)
《カムイ、いつかあなたが元気にする魔法使いになるのよ。あ、王子様でもいいけどね!》
《分かったよ、お母さん!》
昔、母から教わった魔法は、今になって役立っている。
俺は、魔法使いから王子になれるだろうか。
ずっとメルを、そばで守れるだろうか。
ー*ー
「カムイ、一つ食べてもいいですか?」
「うん、どうぞ。俺も一つ食べようかな」
ストロベリーにミルク、ライム...色々あったものの、私はやっぱりアップルを選んだ。
「メルは本当にリンゴが好きだね」
「はい!カムイは何の味を食べるんですか?」
「俺は...メロンかな」
緑色のキャンディーを包みから取り出すと、カムイは口のなかにいれた。
私も綺麗な色のキャンディーを、同じようにして口のなかにいれる。
「甘いです」
「うん、俺のも甘い」
なんだか空気も甘くなってきたような気がする。
二人で微笑みあっていると、突然扉が倒れた。
私は思わずカムイにしがみついてしまう。
「警察署の扉まで破壊するなんて...きみは脱獄犯のつもりかな、ナタリー?」
「え?あたしまた邪魔だった?」
「ナタリー、中から声がしたんなら邪魔になるから待つようにって、おいらがちゃんと言っただよな?」
「二人も手伝いなのか。お疲れ」
カムイが棒読みで言うのを聞いて、私は思わず笑ってしまった。
「お嬢さん、カムイ...本当にすまねえだよ」
「ベンは悪くないだろう?問題はそこの怪力さんだよ」
「ええっと、ナタリーさんとベンさんも飾りつけですか?」
私はこれ以上空気が悪くならないことを祈りながら、話題を変えようとする。
「ええ、あたしたちはこれから手伝いよ」
「俺とメルは帰るところなんだ。もう五時だからね」
「お疲れ様です!」
「メル、行こうか」
いつものようにカムイが手をさしのべてくれる。
「はい!」
私はその手を握り、ゆっくりと歩みだす。
「それでは、おやすみなさい」
「ええ、また明日ね」
キャンディーをなめながら、夕闇迫るなかを二人で歩いて帰った。
...明日は、エリックさんの誕生日だ。
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