路地裏のマッチ売りの少女

黒蝶

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Until the day when I get engaged. -In linear light-

第59話

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ー*ー
それから数日後...。
「カムイ!」
「朝から大声で元気だね、ナタリー」
「ついに完成したの!あたしの自信作よ!」
ナタリーさんはカムイに箱を渡した。
「それじゃあね!」
ナタリーさんは足早に行ってしまった。
「イースターの衣装みたいだ」
「そうなんですか...?」
私は箱を開けてみる。
「これ、」
「ごめん。メルに好きな色を聞いておいて、全く違う色のものを選んじゃった」
パステルカラー、というやつだろうか。
薄いピンクの、可愛らしいブラウスとスカートだった。
(自分では絶対に選ばない色です)
「私に似合うでしょうか?」
「きっとよく似合うよ」
カムイがそう言ってくれるものの、あまり自信はない。
それと一緒に入っているのは、ウサギの耳の飾りがついた帽子だ。
「わあ...こういうのもあるんですね」
「気に入ってもらえたようでなによりだよ」
「ありがとうございます」
私はすでに、イースターが楽しみになっていた。
ー**ー
俺はもう一つの別の箱を開ける。
「...!これは、メルが選んでくれたの?」
俺は当たり前なことを聞いてしまった。
黄と黒を基調とした、トップスとボトムスが入っていた。
帽子はブラックだが、トランプのモチーフがついている。
「ごめんなさい、カムイ。好きな色を聞いておいて、私も全く違う色のものを選んでしまいました...」
全く違うというほどではないと思うのだが、メルは申し訳なさそうに俯いている。
「俺のために、一生懸命選んでくれたんでしょ?俺はそれが一番嬉しいから。ありがとうメル。俺に似合うかな?」
俺はメルの頭を撫でながら問う。
「絶対カムイが一番かっこいいです!」
どうしてこの子はこんなに純粋な瞳で俺の方を真っ直ぐ見て、こんなに恥ずかしいことを言えるのだろう。
「きっとメルが一番可愛いよ。でも...」
俺はメルを抱きしめる。
「変な男が近寄っていかないか心配だな」
「変な男、ですか?」
「うん。可愛いメルが拐われないようにしないとね」
メルはぽうっと赤くなる。
そういうところが可愛らしくて、思わず閉じこめておきたくなってしまう。
(俺も相当末期だな)
ふと箱に目をやると、一枚の紙切れが入っている。
『今年はどうするの?』
そのメモを見て、ようやく思い出した。
「しまった...!」
ー*ー
「何かあったんですか?」
いきなり慌てるカムイに疑問をなげかける。
「もうすぐエリックの誕生日なんだ」
「そうなんですか?」
「うん、三月二十三日だから...あと三日しかない!メル、これから買い物につきあってくれる?」
「はい」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「えっと、エリックさんのプレゼントを買うんですか?」
「うん。毎年みんなでお祝いしてるから...。今年はメルもいるからますます賑やかになりそうだね」
「が、頑張ります!」
私に何ができるのかは分からないけれど、エリックさんが喜んでくれるなら、カムイの力になれるなら、私は私にできることをするだけだ。
「あの、エリックさんって何がお好きなんですか?」
「チェリーパイかな。エリックはさくらんぼに目がないんだ」
「さくらんぼ大好きなんですね...」
「プレゼントは...メル、一緒に選んでくれる?」
「はい!」
ー**ー
今年は何を贈ろうかと毎年のように悩む。
「エリックさんはお外のお仕事が多いんですよね?」
「うん。本当は内勤でいいはずなんだけどね」
「ナイキン...?」
「書類を整理したり、事件についての捜査の指示を出す人のことだよ」
「でもエリックさんは見回りに...」
「エリックは書類とか苦手なんだ」
通常なら楽になったと喜びそうなものなのに、俺の親友は一ミクロンも喜んではいなかった。
寧ろ内勤を部下に譲り、自分が現場に出ている。
「ずっと使えるものがいいですよね?」
「そうだね。...あ、これはどうかな?」
「帽子ですか?たしかにいつでも使えますね!エリックさんは何色がお好きなんでしょう?」
「うーん...茶色?」
メルと色々話しながら、ようやくプレゼントが決まった。
「場所はどこでするんですか?」
「警察署だよ。多分、エリックの部下たちがサプライズでお祝いの準備しているはずだからね」
そう、毎年恒例行事のように、警察署ではサプライズパーティーが開かれる。
「私はチェリーパイを作りますね。あとは紅茶も淹れます」
「うん、俺も一緒に作るよ」
帰り道、手を繋いで歩いて帰る。
「エリックさん、喜んでくださるのでしょうか?」
「きっと喜ぶよ」
俺はそう答えつつ、若干量エリックに妬いてしまっていた。
(メルがわくわくしているのが分かるぶん、ちょっともやもやするな)
「あ」
「メル、どうかしたの?」
「いえ、なんでもありません」
メルの視線の先には、焼きたてのパンを売っているお店があった。
「...買って帰ろうか」
「え?いえ、悪いですし」
「俺も食べたいから。ほら、行こう?一つが多いなら半分こにすればいい」
「...はい」
メルのキラキラした表情を見ると、俺は心底ときめいてしまった。
帰り道、二人でパンを分けて食べながら家へと急いだ。
...今、最高に幸せだと心からそう思った。
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