路地裏のマッチ売りの少女

黒蝶

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Until the day when I get engaged. -In linear light-

第52話

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ー*ー
小鳥のさえずりで目が覚めると、隣でぐっすりとカムイが寝ていた。
(たまにはおやすみしてほしかったので、本当によかったです)
私はそっと起きあがろうとしたが、腰にしっかりと何かがくっついていて...身体が動かせない。
「んん...」
眠そうに声をあげたカムイを見て気づいた。
私の腰にくっついているのは、カムイのたくましい腕なのだということに。
(どうしましょう...動けません)
私はカムイの腕から抜け出すのを諦め、おとなしく眠りについた...。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「...ル」
「んんっ」
「起...メル」
「んー...」
「起きて、メル。もう夕方だよ?」
...まさかそんなに時がたっているとは思わなかった。
「ごめんなさい!私、朝はきちんと起きていたのに...」
ー**ー
メルはしゅんとしている。
「気にしないで。俺もついさっき起きたばかりだし...」
俺は少しだけ嘘をついた。
実を言うと...仕事を片づけていた。
...といっても今回は書類整理だったため、あっという間に終わってしまった。
「パンケーキ、焼こうか」
「いいんですか?」
「この雨では、しばらく馬車を呼べそうにないからね。あと二、三日はここに泊まることになるかな...」
「ご飯は大丈夫なんですか...?食料がなくなったりとか」
「しないよ。家から大量に持ってきたし、ここにも冷蔵の設備があるから腐る心配もない」
調理器具はバッチリ揃っているので完璧だ。
雨が降るとは予想していなかったものの、念のために様々な材料を持ってきたのは正解だったらしい。
(備えあれば憂いなし、か)
「今日は、イチゴとチョコレートシロップをかけようか」
「はい!」
メルの瞳はキラキラしている。
メルの元気な姿を見ていると、俺まで元気になってくる。
「じゃあ私は、紅茶を淹れますね」
「うん、お願い」
俺は急いでパンケーキを焼く。
生にならないように、尚且焦げすぎないように。
「よし、できたよ」
「紅茶も淹れ終わりました」
俺がパンケーキをメルの前にことんと置くと...メルはとても嬉しそうに、にこにこと笑っていた。
「「いただきます」」
「もぐもぐ...美味しいです!イチゴの酸味とチョコレートシロップの甘味のハーモニーがすごくいいです」
「それはよかった」
メルは料理のことになると、時々評論家のようになる。
それがまた可愛くてしかたない。
聞いているこっちまで幸せな気分になる。
「カムイは本当にお料理が上手なんですね」
メルのその一言で、昔のことを思い出す。
《カムイは本当にお料理が上手ね!さすがは私の大事な息子だわ!》
《俺は絶望的に料理がヘタだから、きっときみの才能を受け継いだんだよ》
《僕、もっとお料理上手になりたい!困っているみんなに食べさせてあげるの!》
《その正義感は俺に似たのかな》
《そうだと思う。カムイはいいところばかり似てくれてよかった...》
そんなことを思い出しながらも、次の瞬間頭によぎるのは、あの日のことだ。
《カムイ、お母さんちょっとお父さんを迎えに行ってくるわね。いい子で待っててね?》
《うん、いってらっしゃい!》
あれが最後だと分かっていれば、行かないでとワガママを言ったのに。
あれが最後だと分かっていれば...
「カムイ?大丈夫ですか...?」
「うん大丈夫、心配させてごめんね。先にお風呂に入っておいで?」
「...?はい」
メルはバスルームへ行ってしまった。
(...ダメだ、抑えきれない)
ー*ー
カムイの様子が明らかにおかしかった。
ぼーっとしていることはあっても、あんなに焦っているような...正確にいうと、あんなに怖い顔はしない。
(一体どうしたのでしょうか...?)
『カムイの様子が明らかにおかしい』
それは、バスルームを出た瞬間に疑惑から確信に変わった。
切り刻まれたクッション、綿が出てしまっているソファー...。
シャキン、という音が絶え間なく聞こえる。
(ベッドルームの方でしょうか?)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そこに行くと、見たことがないような表情をした、カムイがいた。
「はあ...はあ...」
カムイの息づかいが荒い。
「カムイ、どうし...」
「近寄るな!」
いきなり叫ばれた言葉に、私は呆然とした。
「お願いだ、こないで...。このままでは、きっとメルを傷つけてしまうから」
放っておくのが正解だという人がいるかもしれない。
近づかないのが正解なのかもしれない。
でも、私は...
「カムイ」
「くるな!」
「...っ!」
それは、いつもカムイが持っていたナイフで...塞がっていた傷が、再び開いた。
勿論痛みがなかったわけではない。
でも...カムイの心の方が、きっともっと痛い。
だから私は覚悟を決めて...カムイを抱きしめた。
「取り敢えず落ち着きましょう?ゆっくりでいいから息をしてください...」
私の腕から逃れようとするカムイを、血で染まっていない左手だけでなんとか抱きしめる。
しばらくそうしていると...
「あ...メル...?」
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