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Until the day when I get engaged. -In linear light-
第49話
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ー**ー
俺はできあがった骨を、真夜中のうちにエリックに渡した。
「失血死の可能性が高い。あと、なにかしらの毒物が出るかも」
「...骨にまで染みこむものなのか?」
「それは調べてみないと分からない。毒物が出なかったら、その時は検視官と相談して」
「...ああ」
エリックは俺が言ったことを全てメモにとっている。
彼の勤勉さは長所だ。
だが...同時に短所でもある。
「エリック」
「なんっ...⁉」
俺は持っていたビスケットを、エリックの口に押しこんだ。
「頑張りすぎるなよ?あと、食事はちゃんと摂らないと体に悪い」
俺はひらひらと手をふり、そのまま家へと直行した。
(...雪解け水か)
もうすぐ、春がくる。
ー*ー
春の足音が近づく今日このごろ...私は、カムイとナタリーさんのお店にきていた。
「いらっしゃい!」
「こ、こんにちは...」
ナタリーさんの元気な所に相変わらずなれない私は、つい後退ってしまう。
「ナタリー、朝から元気だね」
「まあね!いい生地が手に入ったの!それで?今日はイースターの洋服?」
「よく分かったね」
(イースター...?)
私が首を傾げていると、カムイが丁寧に説明してくれる。
「本来は神様だったかな...何かの復活を祝うお祭りだったはずだけど、ここの場合は『イースターエッグ』という卵を集めるイベントになってる。その時着る、専用の服があるんだ」
「そうなんですか...?」
私にはまだまだ分からないことが多い。
人が騒がしいのは、きっと何かあるのだろうとは思っていた。
でも、その内容を私はほとんど知らない。
「さあ、とっとと作っちゃうわよ!...で、メルはどんな洋服が着てみたいの?」
「...分かりません」
「え?」
「分からないんです...」
ー**ー
ナタリーはよく分からないといった顔をしていたが、俺にはそれがどういう意味か、なんとなく理解できた。
メルにとって、自分が好きな洋服を着るというのは、『普通』ではなかったのだろう。
のうのうと生活してきた奴らや、所謂『普通』の生活をしてきた奴らにはきっと分からない。
(俺も『普通』ではないからメルの気持ちも分からなくはない)
「メル、それじゃあこういうのはどうかな?」
俺は思いきって、メルに提案した。
「俺がメルの服を選んで、メルが俺の服を選ぶ」
「え...?」
「俺に似合いそうなものを、メルが選んでよ。俺は頑張って、メルが着てみて楽しくなるようなデザインを選ぶから」
決して自信があるわけではなかった。
女性の服なんて選んだことがない。
だが、メルが喜ぶなら俺はそれでいい。
「カムイが似合いそうなもの...分かりました」
メルは少し考えるような仕草をしたあと、了承してくれた。
「ありがとう」
「相変わらず見せつけてくれるわね...」
「見せつけるって、」
「メル、気にしなくていいよ」
俺はメルの言動を予測し、即座に話題を収束させる。
「それよりもメル、好きな色だけ教えてもらってもいいかな?」
「...海の色です」
(アイスブルーのことか?)
「分かった。あとは頑張って考えてみるよ。もし嫌だったら言ってね」
「はい、私も頑張ります!ところで、カムイが好きな色は...」
「俺は黒だよ」
「了解です!」
そういうわけで、俺たちは分かれて洋服を選ぶことにした。
ー*ー
(黒、ですか...)
たしかにカムイの仕事着は、黒いものが多い。
もう少し違った生地の色を選んでみてもいいのかもしれない。
「カムイの髪はブラウンだからね...」
「黄色、とかでしょうか...え?」
私がふと声がした方を向くと、そこにはいつの間にかナタリーさんが腕組みをして立っていた。
「いいじゃんメル!センスいい!」
「そうでしょうか...?」
「たまにはこういう明るい色の服もいいと思うの」
ナタリーさんが誇らしげに語ってくれた。
「じゃあそれでいきましょう!あたしはカムイの所に行ってくるわね」
ナタリーさんは私が選んだものを奥の部屋へとしまったあと、カムイのところへ行ってしまった。
ー**ー
(アイスブルー...)
たしかにメルはアイスブルーが好きらしく、家ではよくアイスブルーのワンピースを着ている。
だが、女の子ならピンクも似合ったりするのではないだろうか。
「ベビーピンク、か...」
「ふりふりでメルには似合いそうね!」
突然、背後から声がした。
「メルはシンプルなデザインを着ていることが多いから...」
「そうね、メルには似合うんじゃないかしら」
「でも、メルは喜んでくれるのだろうか...」
俺の呟きを聞き逃さずに、ナタリーは自信たっぷりに言った。
「いい?女の子はね、誰かの『一番』になれたり、王子様が自分のために頑張ってくれたら嬉しいものなのよ。あたしだって、そのおかげで本当の『お姫様』になれたんだから。女の子は誰だってお姫様になれるのよ」
『本当のお姫様』、か...。
俺も、メルを『お姫様』にしてあげられるのだろうか。
「ありがとうナタリー。これでお願いできるかな?」
「了解よ!」
すると、近くをベンが通った。
「あ...ナタリー、王子様が帰ってきたよ」
「ちょっ、カムイ!」
「王子様...?」
「ベン、忘れて!」
ナタリーが慌てふためくのを見て、俺はつい笑ってしまった。
ー*ー
カムイの呼ぶ声がして、私はその方へ向かった。
「じゃあ、できたらあたしたちが届けに行くわね!」
はりきっているナタリーさんと隣で苦笑しているベンさんと別れたすぐあと、唐突にカムイがこう言ってきた。
「メル、明日からしばらく旅行に行かない?」
俺はできあがった骨を、真夜中のうちにエリックに渡した。
「失血死の可能性が高い。あと、なにかしらの毒物が出るかも」
「...骨にまで染みこむものなのか?」
「それは調べてみないと分からない。毒物が出なかったら、その時は検視官と相談して」
「...ああ」
エリックは俺が言ったことを全てメモにとっている。
彼の勤勉さは長所だ。
だが...同時に短所でもある。
「エリック」
「なんっ...⁉」
俺は持っていたビスケットを、エリックの口に押しこんだ。
「頑張りすぎるなよ?あと、食事はちゃんと摂らないと体に悪い」
俺はひらひらと手をふり、そのまま家へと直行した。
(...雪解け水か)
もうすぐ、春がくる。
ー*ー
春の足音が近づく今日このごろ...私は、カムイとナタリーさんのお店にきていた。
「いらっしゃい!」
「こ、こんにちは...」
ナタリーさんの元気な所に相変わらずなれない私は、つい後退ってしまう。
「ナタリー、朝から元気だね」
「まあね!いい生地が手に入ったの!それで?今日はイースターの洋服?」
「よく分かったね」
(イースター...?)
私が首を傾げていると、カムイが丁寧に説明してくれる。
「本来は神様だったかな...何かの復活を祝うお祭りだったはずだけど、ここの場合は『イースターエッグ』という卵を集めるイベントになってる。その時着る、専用の服があるんだ」
「そうなんですか...?」
私にはまだまだ分からないことが多い。
人が騒がしいのは、きっと何かあるのだろうとは思っていた。
でも、その内容を私はほとんど知らない。
「さあ、とっとと作っちゃうわよ!...で、メルはどんな洋服が着てみたいの?」
「...分かりません」
「え?」
「分からないんです...」
ー**ー
ナタリーはよく分からないといった顔をしていたが、俺にはそれがどういう意味か、なんとなく理解できた。
メルにとって、自分が好きな洋服を着るというのは、『普通』ではなかったのだろう。
のうのうと生活してきた奴らや、所謂『普通』の生活をしてきた奴らにはきっと分からない。
(俺も『普通』ではないからメルの気持ちも分からなくはない)
「メル、それじゃあこういうのはどうかな?」
俺は思いきって、メルに提案した。
「俺がメルの服を選んで、メルが俺の服を選ぶ」
「え...?」
「俺に似合いそうなものを、メルが選んでよ。俺は頑張って、メルが着てみて楽しくなるようなデザインを選ぶから」
決して自信があるわけではなかった。
女性の服なんて選んだことがない。
だが、メルが喜ぶなら俺はそれでいい。
「カムイが似合いそうなもの...分かりました」
メルは少し考えるような仕草をしたあと、了承してくれた。
「ありがとう」
「相変わらず見せつけてくれるわね...」
「見せつけるって、」
「メル、気にしなくていいよ」
俺はメルの言動を予測し、即座に話題を収束させる。
「それよりもメル、好きな色だけ教えてもらってもいいかな?」
「...海の色です」
(アイスブルーのことか?)
「分かった。あとは頑張って考えてみるよ。もし嫌だったら言ってね」
「はい、私も頑張ります!ところで、カムイが好きな色は...」
「俺は黒だよ」
「了解です!」
そういうわけで、俺たちは分かれて洋服を選ぶことにした。
ー*ー
(黒、ですか...)
たしかにカムイの仕事着は、黒いものが多い。
もう少し違った生地の色を選んでみてもいいのかもしれない。
「カムイの髪はブラウンだからね...」
「黄色、とかでしょうか...え?」
私がふと声がした方を向くと、そこにはいつの間にかナタリーさんが腕組みをして立っていた。
「いいじゃんメル!センスいい!」
「そうでしょうか...?」
「たまにはこういう明るい色の服もいいと思うの」
ナタリーさんが誇らしげに語ってくれた。
「じゃあそれでいきましょう!あたしはカムイの所に行ってくるわね」
ナタリーさんは私が選んだものを奥の部屋へとしまったあと、カムイのところへ行ってしまった。
ー**ー
(アイスブルー...)
たしかにメルはアイスブルーが好きらしく、家ではよくアイスブルーのワンピースを着ている。
だが、女の子ならピンクも似合ったりするのではないだろうか。
「ベビーピンク、か...」
「ふりふりでメルには似合いそうね!」
突然、背後から声がした。
「メルはシンプルなデザインを着ていることが多いから...」
「そうね、メルには似合うんじゃないかしら」
「でも、メルは喜んでくれるのだろうか...」
俺の呟きを聞き逃さずに、ナタリーは自信たっぷりに言った。
「いい?女の子はね、誰かの『一番』になれたり、王子様が自分のために頑張ってくれたら嬉しいものなのよ。あたしだって、そのおかげで本当の『お姫様』になれたんだから。女の子は誰だってお姫様になれるのよ」
『本当のお姫様』、か...。
俺も、メルを『お姫様』にしてあげられるのだろうか。
「ありがとうナタリー。これでお願いできるかな?」
「了解よ!」
すると、近くをベンが通った。
「あ...ナタリー、王子様が帰ってきたよ」
「ちょっ、カムイ!」
「王子様...?」
「ベン、忘れて!」
ナタリーが慌てふためくのを見て、俺はつい笑ってしまった。
ー*ー
カムイの呼ぶ声がして、私はその方へ向かった。
「じゃあ、できたらあたしたちが届けに行くわね!」
はりきっているナタリーさんと隣で苦笑しているベンさんと別れたすぐあと、唐突にカムイがこう言ってきた。
「メル、明日からしばらく旅行に行かない?」
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