路地裏のマッチ売りの少女

黒蝶

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Until the day when I get engaged. -In linear light-

第48話

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ー*ー
「おやすみなさい」
「ああ、おやすみ...」
私は瞼を閉じる。
(ね、眠いです...)
私は襲いくる睡魔と全力で戦う。
「...もう寝たかな?」
頭をそっと撫でられる。
「...おやすみ」
唇に柔らかい感触がして、扉が開く音がする。
(うう...すごく恥ずかしいです!)
私は目を開けそっと扉に近づく。
カムイの足音がどんどん遠ざかっていくのが聞こえた。
(よし、これで...)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
私はベッドルームの扉をそっと開き、カムイがいないか確認する。
...いないようだ。
カムイは何処へ行ってしまったのか...
そんなことを悠長に考えていると、カタカタと音がする。
(あそこは...)
近づいてはいけないと言われた、奥の部屋だった。
「細かす...。...れは、ここ?」
カチャカチャという音と共に、カムイの声がする。
入ってはいけないと言われている。
でも、カムイが眠れない原因がそこにあるとしたら...。
私は、力になりたい。
私は思いきって扉を開けた。
「メル⁉」
「カムイ、ごめんな...」
そこには、とんでもないものがあった。
「それって...」
白くて固い物体。
それはまさしく、
「どうしてここに人の骨があるんですか?」
ー**ー
見られてしまったものは仕方ない。
(全てを話そう)
「これは、最近あった殺人事件の遺体だよ」
「殺、人...?」
「うん。エリックにできるだけ元の形にしてほしいと頼まれたんだ。でも、パーツが細かすぎて終わらなくて...」
「私にも、やらせてください」
...メルならそう言うと思っていた。
だから言いたくなかったのだ。
メルをコインの裏側の世界に...こんな汚い世界の事情に巻きこみたくない。
「嫌だ」
「どうしてですか?だって、私の眼を使えば簡単に...」
「『使う』なんて嫌なんだ。俺はメルに、ただの恋人として側にいてほしいんだ。俺は、メルを利用するみたいな真似をしたくない」
本心だった。
メルだけは、表側の世界で輝けるように...それが俺の願いだ。
「この眼が一つの才能だって、そう教えてくれたのはカムイじゃないですか。だったら、私はその才能を生かしたいんです。この、死んでしまった人のためにも。...お願いします、カムイ。私にも手伝わせてください」
ー*ー
カムイが私の方を見る。
「...分かった。じゃあそこにある手袋をして」
「ありがとうございます!」
私は急いで手袋をする。
「...これが、バラバラに砕け散って粉々になった分。直せる...?」
「はい、大丈夫です」
一見、一つ一つが全く同じに見えるが、微妙な傷などから判断できる。
(これはここです...。そういえば、)
私はある疑問を口にした。
「この方は、どうしてこんなにバラバラになっているのですか?」
「どうやら爆発に巻きこまれたらしいんだ」
「それで、骨だけ砕けたんですか?」
「...そこが疑問なんだ。でも、どうして死んだのかを調べるには、骨をできるだけ元の状態に戻さないと分からないんだ」
カムイが困ったような表情で私を見る。
「もうすぐ終わります」
「やっぱり、早いね」
「そうでしょうか...?」
カムイが気遣ってくれるのは正直に言うと、とても嬉しい。
でも、カムイにはもっと自分の心配をしてほしいと私は思う。
「できました!でも、ここの部分はへこんで...」
「斧かなにかで切られたあとみたいだね」
「では、この粉々になっている場所は...」
「...なるほど。どうやらこの人は薬を飲んでいたようだ。でも、この日は違った。恐らく...毒で思うように動けなかったんだ」
カムイの推理力に、私は感動してしまう。
「すごいです!私には全然分からないのに...」
「はい、じゃあこの仕事はおしまい。寒いでしょ?今日は俺が、何か温かい飲み物を淹れるよ」
「ありがとうございます」
カムイの表情は少しだけ曇って見えた。
ー**ー
もっとメルにバレないように、うまく立ち回れなかったのだろうか。
結局ほとんどメルにやらせてしまった。
「メル」
「はいっ...⁉」
リビングまで戻ったところで、俺はメルを抱きしめる。
「ごめんね、もうこんな仕事は受けないから...」
「...そうですよ」
「え?」
「カムイはもっと、自分を大切にしてください。何日も眠れなくなるようなお仕事は受けちゃダメです。カムイがやりたいと思う仕事を受けてください」
メルが少しだけ怒ったように言う。
どうしてメルは、そんなにも俺のことを想ってくれるのだろうか。
俺はメルのために、何ができるだろう。
(俺もメルのことを強く想うことくらいか。あとは、絶対に守る)
「ごめんごめん、もう無理な仕事は受けないよ」
「...じゃあ、約束しましょう!」
メルはぱっと顔をあげると、小指をさしだしてくる。
俺ははじめ、意味が分からなかったがようやく理解した。
俺はメルの小指に自らの小指を絡める。
「ゆびきりげんまん...」
メルが可愛らしく歌っている。
「絶対に破ったらダメですからね?」
「うん、分かった」
俺はメルが眠そうにしているのに気づく。
「...一緒に寝ようか」
「はい!」
俺たちはベッドルームへ向かい、そのままお昼まで眠ってしまっていた。
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