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Until the day when I get engaged. -In linear light-
第44話
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ー*ー
「ナタリー、栗はもっと丁寧に剥いて。あと...剥いたやつは水につけて。じゃないと乾燥するから」
「分かったわ」
ナタリーさんはカムイの話をしっかりと聞いている。
「えっと、こうやれば...」
バリン、と大きな音を立てて栗が割れた。
「力を入れすぎだよ。もう少し力を抜いて。ここを、こう」
「うん!」
カムイは手をナタリーさんの手に重ね、丁寧に教えている。
そのとき、胸がちくりと痛んだ。
(...?なんでしょう、この気持ちは)
ナタリーさんとベンさんに仲直りしてほしいという気持ちは本物だ。
でも...カムイとナタリーさんの手が重なっているのを見ると、なんだかもやもやしてしまうのも事実。
(私はやっぱり、ダメな子です...)
「メル?」
カムイが心配そうに私の名前を呼ぶ。
「ごめんなさい、少しぼうっとしてました」
「...珍しいね」
カムイに勘づかれてしまっただろうか。
この気持ちがなんなのか分からず、私はベッドルームに一旦戻ることにした。
「ごめんなさい、ちょっと部屋に戻りますね」
私は足早に部屋に入り扉を閉める。
私は一体、どうしてしまったのだろうか。
ー**ー
メルの様子が明らかにおかしい。
何がいけなかったのだろうか...。
「メルに悪いことをしちゃったわ」
(ナタリーは気づいているのか?)
「悪いことって...何が?」
「...カムイでも分からないことがあるのね」
一番近くにいる俺が分からなくて、たまに遊びにくるくらいで、しかも鈍感なナタリーに分かっているなんて...。
「もったいぶらずに教えてくれ」
「あのね...もしメルが、ベンやエリックに手を添えられて仲良く料理してたら...」
「すぐに手をどかすよ。それでもダメなら二度と近づかせないように...」
「なんか怖い!...まあ、それと同じ現象よ。メルだって...あたしとカムイだけで仲良くしてたら嫌なんじゃない?あたしはメルの気持ちが分かる気がするけど」
どうして気づけなかったんだろう。
そんなことを考えながら、ナタリーに残りの指示を出す。
「ブランデーにつけて。本当は三日以上漬けないといけないけど、時間がないから数時間だけにする。あんまり染みこまないと思うけど...」
「はい、できた」
「じゃああとは冷やして。ごめんナタリー。ちょっと部屋にいてくれる?」
「ええ」
ナタリーは部屋に入っていく。
俺は急いでメルの所に行く。
「メル」
俺の胸に、小さな身体が飛びこんできた。
ー*ー
私はカムイがきてくれた喜びのあまり、思いきり抱きついてしまった。
「メル...」
「ごめんなさい、カムイ...。また困らせてしまいました」
私はノートに書こうとしたことをしっかりと言葉にして伝える。
「なんだか、ナタリーさんとカムイが仲良しで、手をあわせているのを見たら、胸が苦しくて...。もやもやしてしまったんです。私のカムイなのにって...本当に私は、ダメな子です」
言いたいことを最後まで言うと、腕をひかれた。
「カムイ...?」
「ごめん。全然気づかなくて、本当にごめんね。でも...やきもちを焼いてくれたなんて、なんだか嬉しいよ」
やきもちとは一体なんだろう?
色々考えていると、カムイにさらに強く腕をひかれる。
「ところで、一緒にキッチンにきてくれる?メルと一緒に作りたいものがあったんだ」
「作りたいもの、ですか?」
「うん」
なんだろうとわくわくしつつ、カムイやナタリーさんを困らせてしまったという気持ちでいっぱいになる。
「チョコレートを刻んで」
「はい!」
「生クリームとバターも鍋に入れて」
「こうですか?」
「うん、上出来」
カムイは私の頭を撫でてくれる。
それが嬉しくてしかたなくて...指示通り、出来あがったものを冷やす。
「これで二時間おくから、先にお風呂に入っておいでよ」
「はい」
私はパタパタとバスルームに走っていく。
気分は先程よりも軽かった。
ー**ー
「もういいよ、ナタリー」
「うまくいったの?」
「ああ。もう仕上げてしまおうか」
「ええ!」
俺はナタリーと共に、マロングラッセを完成させた。
「ありがとう、これでちゃんと謝れるといいんだけど...」
「きっと大丈夫だよ」
俺は、メルと作るのを思い浮かべて、楽しみになっていた。
...『トリュフ』は、俺にとっても大切なものの一つだ。
メルは食べてくれるだろうか。
「ちょっとバスルーム借りるね!」
「待って、今バスルームにはメルが...」
俺が言ったときにはもうすでに遅かった。
バスルームから悲鳴が聞こえてくるのを、俺はただ聞くことしかできなかった。
ー*ー
「ごめんね!驚かせてしまうとは...」
(なんだか変な感じです)
私は何故か、ナタリーさんとお風呂に入っていた。
(ナタリーさんなら、知っているかもしれません)
「あの、ナタリーさん...」
「何?」
「リンゴを使ったチョコレートのお菓子、知りませんか?」
「うーん...レシピも知っているのは、アップルグラッセかな。あたしは作れないんだけどね」
「どうやって作るのか教えてください!」
私はナタリーさんに言われたことを必死で覚えた。
「ありがとうございます。お願いがあるのですが...」
「カムイを部屋にひきつけておくわ。その間に作るのでしょう?」
「はい!」
「よし、じゃああたしはカムイを部屋に呼ぶけど...やきもち焼かなくても、カムイはメルしか見えてないからね!」
「...っ」
私は恥ずかしくなって、黙りこんでしまった。
「メル、可愛い」
「可愛くないです...」
ナタリーさんにからかわれながら、楽しく入浴を済ませた。
ー**ー
「さて。メル、仕上げをしようか」
「はい!」
形を整えれば完成なので、あまり時間はかからなかった。
「できました!...とっても美味しそうです」
「そうだね」
メルのにこにこしている姿を見て、俺はそっと手を握る。
「さあ、これどうしようか?」
「ベンさんとエリックさん、あとはナタリーさんにあげてもいいでしょうか?」
メルらしい意見だと思った。
俺は静かに頷く。
「でも、少しだけ味見して?」
メルの口にトリュフを入れた。
「チョコレートがほろほろ溶けていきます!美味しいです」
「よかった。それじゃあ今日は」
「カムイ!ちょっときてくれない?」
俺は少し苛立ったが、行かないわけにはいかない。
「待ってて、すぐに終わらせるから」
俺はその場をあとにする。
それから一時間ほどナタリーに引き留められ、メルのところに戻るのが遅くなってしまった。
「ナタリー、栗はもっと丁寧に剥いて。あと...剥いたやつは水につけて。じゃないと乾燥するから」
「分かったわ」
ナタリーさんはカムイの話をしっかりと聞いている。
「えっと、こうやれば...」
バリン、と大きな音を立てて栗が割れた。
「力を入れすぎだよ。もう少し力を抜いて。ここを、こう」
「うん!」
カムイは手をナタリーさんの手に重ね、丁寧に教えている。
そのとき、胸がちくりと痛んだ。
(...?なんでしょう、この気持ちは)
ナタリーさんとベンさんに仲直りしてほしいという気持ちは本物だ。
でも...カムイとナタリーさんの手が重なっているのを見ると、なんだかもやもやしてしまうのも事実。
(私はやっぱり、ダメな子です...)
「メル?」
カムイが心配そうに私の名前を呼ぶ。
「ごめんなさい、少しぼうっとしてました」
「...珍しいね」
カムイに勘づかれてしまっただろうか。
この気持ちがなんなのか分からず、私はベッドルームに一旦戻ることにした。
「ごめんなさい、ちょっと部屋に戻りますね」
私は足早に部屋に入り扉を閉める。
私は一体、どうしてしまったのだろうか。
ー**ー
メルの様子が明らかにおかしい。
何がいけなかったのだろうか...。
「メルに悪いことをしちゃったわ」
(ナタリーは気づいているのか?)
「悪いことって...何が?」
「...カムイでも分からないことがあるのね」
一番近くにいる俺が分からなくて、たまに遊びにくるくらいで、しかも鈍感なナタリーに分かっているなんて...。
「もったいぶらずに教えてくれ」
「あのね...もしメルが、ベンやエリックに手を添えられて仲良く料理してたら...」
「すぐに手をどかすよ。それでもダメなら二度と近づかせないように...」
「なんか怖い!...まあ、それと同じ現象よ。メルだって...あたしとカムイだけで仲良くしてたら嫌なんじゃない?あたしはメルの気持ちが分かる気がするけど」
どうして気づけなかったんだろう。
そんなことを考えながら、ナタリーに残りの指示を出す。
「ブランデーにつけて。本当は三日以上漬けないといけないけど、時間がないから数時間だけにする。あんまり染みこまないと思うけど...」
「はい、できた」
「じゃああとは冷やして。ごめんナタリー。ちょっと部屋にいてくれる?」
「ええ」
ナタリーは部屋に入っていく。
俺は急いでメルの所に行く。
「メル」
俺の胸に、小さな身体が飛びこんできた。
ー*ー
私はカムイがきてくれた喜びのあまり、思いきり抱きついてしまった。
「メル...」
「ごめんなさい、カムイ...。また困らせてしまいました」
私はノートに書こうとしたことをしっかりと言葉にして伝える。
「なんだか、ナタリーさんとカムイが仲良しで、手をあわせているのを見たら、胸が苦しくて...。もやもやしてしまったんです。私のカムイなのにって...本当に私は、ダメな子です」
言いたいことを最後まで言うと、腕をひかれた。
「カムイ...?」
「ごめん。全然気づかなくて、本当にごめんね。でも...やきもちを焼いてくれたなんて、なんだか嬉しいよ」
やきもちとは一体なんだろう?
色々考えていると、カムイにさらに強く腕をひかれる。
「ところで、一緒にキッチンにきてくれる?メルと一緒に作りたいものがあったんだ」
「作りたいもの、ですか?」
「うん」
なんだろうとわくわくしつつ、カムイやナタリーさんを困らせてしまったという気持ちでいっぱいになる。
「チョコレートを刻んで」
「はい!」
「生クリームとバターも鍋に入れて」
「こうですか?」
「うん、上出来」
カムイは私の頭を撫でてくれる。
それが嬉しくてしかたなくて...指示通り、出来あがったものを冷やす。
「これで二時間おくから、先にお風呂に入っておいでよ」
「はい」
私はパタパタとバスルームに走っていく。
気分は先程よりも軽かった。
ー**ー
「もういいよ、ナタリー」
「うまくいったの?」
「ああ。もう仕上げてしまおうか」
「ええ!」
俺はナタリーと共に、マロングラッセを完成させた。
「ありがとう、これでちゃんと謝れるといいんだけど...」
「きっと大丈夫だよ」
俺は、メルと作るのを思い浮かべて、楽しみになっていた。
...『トリュフ』は、俺にとっても大切なものの一つだ。
メルは食べてくれるだろうか。
「ちょっとバスルーム借りるね!」
「待って、今バスルームにはメルが...」
俺が言ったときにはもうすでに遅かった。
バスルームから悲鳴が聞こえてくるのを、俺はただ聞くことしかできなかった。
ー*ー
「ごめんね!驚かせてしまうとは...」
(なんだか変な感じです)
私は何故か、ナタリーさんとお風呂に入っていた。
(ナタリーさんなら、知っているかもしれません)
「あの、ナタリーさん...」
「何?」
「リンゴを使ったチョコレートのお菓子、知りませんか?」
「うーん...レシピも知っているのは、アップルグラッセかな。あたしは作れないんだけどね」
「どうやって作るのか教えてください!」
私はナタリーさんに言われたことを必死で覚えた。
「ありがとうございます。お願いがあるのですが...」
「カムイを部屋にひきつけておくわ。その間に作るのでしょう?」
「はい!」
「よし、じゃああたしはカムイを部屋に呼ぶけど...やきもち焼かなくても、カムイはメルしか見えてないからね!」
「...っ」
私は恥ずかしくなって、黙りこんでしまった。
「メル、可愛い」
「可愛くないです...」
ナタリーさんにからかわれながら、楽しく入浴を済ませた。
ー**ー
「さて。メル、仕上げをしようか」
「はい!」
形を整えれば完成なので、あまり時間はかからなかった。
「できました!...とっても美味しそうです」
「そうだね」
メルのにこにこしている姿を見て、俺はそっと手を握る。
「さあ、これどうしようか?」
「ベンさんとエリックさん、あとはナタリーさんにあげてもいいでしょうか?」
メルらしい意見だと思った。
俺は静かに頷く。
「でも、少しだけ味見して?」
メルの口にトリュフを入れた。
「チョコレートがほろほろ溶けていきます!美味しいです」
「よかった。それじゃあ今日は」
「カムイ!ちょっときてくれない?」
俺は少し苛立ったが、行かないわけにはいかない。
「待ってて、すぐに終わらせるから」
俺はその場をあとにする。
それから一時間ほどナタリーに引き留められ、メルのところに戻るのが遅くなってしまった。
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