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Until the day when I get engaged. -In linear light-
第42話
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ー*ー
いよいよ今日は、あの場所に帰る日。
「カムイ、おはようございます」
「うん、おはよう」
「馬車の時間まで少しあるから...ご飯を食べたら出掛けようか」
「...!はい!」
私はサンドイッチを作る。
(今度こそ、カムイに食べてもらいましょう)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
公園に行くと、白い花が咲いていた。
「カムイ、このお花はなんていうお名前ですか?」
「ん?それは、ヒメジョオンだよ」
「マーガレットに花が似ている気がするのですが...」
「マーガレットはまだ咲かないよ。ヒメジョオンは雑草だからね」
「ええ⁉こんなに綺麗なのに、雑草なんですか?」
「そうだよ」
私は驚いた。雑草というのは、花が咲かないと思っていた。
「これは多年草だから、一年中咲くんだよ」
「そうなんですか。その黄色いお花のは...」
「これはノゲシ。これも多年草だね」
「カムイはお花に詳しいんですね」
「うん」
ー**ー
たしかに俺は花が好きだ。
だが、ただの花よりも道や公園に咲いている雑草の方が好きだった。
素朴で必死に咲いているそれらは、とても綺麗だった。
「お昼にしましょう!」
そう言ってメルが出したのは、玉子とレタスのサンドイッチだった。
「これって、」
「カムイに食べてほしくて...」
メルは顔を赤らめる。
「ありがとう。いただきます」
「カムイ、口を開けてください...」
俺はどういう意味かと思いつつ、口を少しだけ開けた。
「...!」
「美味しいですか?」
「...っ、美味しいよ」
本当は味なんて分からない。
メルが食べさせてくれたことへの驚きと、それ以上のドキドキで、味なんて分からない。
「...くしゅっ」
「残りは帰ってから食べようか」
俺は自分が着ていたコートをメルに着せ、手を繋ぐ。
「はい」
俺たちはあの場所へと急ぐ...。
ー*ー
夕方、扉がノックされた。
二回...四回...二回。
「エリック?どうしたの?」
「馬車だ。今日は俺が御者だ」
「エリックさんが、御者さんですか?」
なんだか不思議な感じがした。
「いいから乗れ、行くぞ」
「メル、忘れ物はない?」
「はい!」
私たちは馬車へと乗りこむ。
「久しぶりですね」
「そうだね」
...会話が続かない。
不思議な沈黙が流れるなか、馬車が止まった。
「ほら、着いたぞ」
カムイが先に降りて、手を差しのべてくれた。
「あ、ありがとうございます」
私は馬車を降り、家を見る。
(すごい...見た目は元通りです)
「ドアを開けて、中に入れ」
何故かエリックさんが急かすように言う。
「じゃあ...ありがとうエリック。このドアはきみが直したんだろう?」
「...何故分かった?」
「一つは消去法。ベンじゃ大柄すぎてこの大きさにはならない。だからと言って、ナタリーは小柄でもあの怪力では直すどころか壊しかねない。もう一つは...この丁寧さだよ。こんなに器用なのは、メルかきみくらいだ」
「...流石の推理力だな。じゃあ俺は帰るから、二人でゆっくり過ごせよ」
「エリックさん、ありがとうございました」
「ああ、おやすみ」
私はまた少し、エリックさんと仲良くなれた気がした。
ー**ー
「それじゃあドアを開けようか」
「はい!」
俺がドアを開けると...
そこには、壊されてしまう前と全く同じ景色があった。
「...すごいな」
「ピカピカですね!」
メルは早速ベッドルームの方へ行ってしまった。
恐らく、荷物を置きに行ったのだろう。
メルが俺を呼ぶ声がする。
「カムイ!べ、ベッドが...」
「ん?ベッドがどうしたの?」
ベッドルームに入ると、真新しいベッドがあった。
...キングサイズの一つのベッドが。
「ベッドを変えるように、カムイが言ったんですか?」
「いや、俺も今はじめて知ったよ」
どういうことなのかとあたりを見回していると、テーブルの上に手紙が置いてあった。
『カムイとメルへ
あんなに近い距離にベッドを置くならこっちの方がいいでしょ?
それに、カムイのベッドは柱が腐ってたし。
あれじゃあ危ないから、二人で仲良く寝ればいいんじゃない?
ベンとあたしからの、帰ってきたお祝いです。
趣味悪いとか言わないでよね!』
「あの二人...」
「お二人がご好意で、ということでしょうか?」
「そうみたい」
俺は寝転がってみた。
真新しい青いベッドはとてもふかふかで、寝心地はよさそうだった。
(でもこれって...)
毎日メルを抱きしめてしまいそうだ。
ここ最近は抱きしめてばかりだったけれど、今以上に抱きしめてしまうだろう。
呆れられそうで少し怖い。
「カムイ...わがままを、言ってもいいですか?」
「うん、何?」
「ぎゅーってしてもらってもいいですか?」
「いいよ」
「そうじゃなくて、そのっ...カムイが気が向いたときでいいので、毎日でもいいので、ぎゅーってしてほしいんです」
...殺し文句だ。
「メルが嫌じゃないなら」
「!」
メルも寝転がってくる。
「ありがとうございます」
にこにこしていて、本当に幸せそうだ。
俺はメルを、世界で一番幸せにしたい。
だが...暴走してしまうような俺に、メルを幸せにすることができるのだろうか?
「カムイ...?」
心配そうに俺の顔を見るメルを、俺は抱きしめた。
(今はまだ、恋人としての時間を大切にしたい)
「なんでもないよ。それじゃあ寝ようか」
「はい、おやすみなさい」
この日は疲れていたのか、俺もメルもあっという間に眠ってしまっていた。
いよいよ今日は、あの場所に帰る日。
「カムイ、おはようございます」
「うん、おはよう」
「馬車の時間まで少しあるから...ご飯を食べたら出掛けようか」
「...!はい!」
私はサンドイッチを作る。
(今度こそ、カムイに食べてもらいましょう)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
公園に行くと、白い花が咲いていた。
「カムイ、このお花はなんていうお名前ですか?」
「ん?それは、ヒメジョオンだよ」
「マーガレットに花が似ている気がするのですが...」
「マーガレットはまだ咲かないよ。ヒメジョオンは雑草だからね」
「ええ⁉こんなに綺麗なのに、雑草なんですか?」
「そうだよ」
私は驚いた。雑草というのは、花が咲かないと思っていた。
「これは多年草だから、一年中咲くんだよ」
「そうなんですか。その黄色いお花のは...」
「これはノゲシ。これも多年草だね」
「カムイはお花に詳しいんですね」
「うん」
ー**ー
たしかに俺は花が好きだ。
だが、ただの花よりも道や公園に咲いている雑草の方が好きだった。
素朴で必死に咲いているそれらは、とても綺麗だった。
「お昼にしましょう!」
そう言ってメルが出したのは、玉子とレタスのサンドイッチだった。
「これって、」
「カムイに食べてほしくて...」
メルは顔を赤らめる。
「ありがとう。いただきます」
「カムイ、口を開けてください...」
俺はどういう意味かと思いつつ、口を少しだけ開けた。
「...!」
「美味しいですか?」
「...っ、美味しいよ」
本当は味なんて分からない。
メルが食べさせてくれたことへの驚きと、それ以上のドキドキで、味なんて分からない。
「...くしゅっ」
「残りは帰ってから食べようか」
俺は自分が着ていたコートをメルに着せ、手を繋ぐ。
「はい」
俺たちはあの場所へと急ぐ...。
ー*ー
夕方、扉がノックされた。
二回...四回...二回。
「エリック?どうしたの?」
「馬車だ。今日は俺が御者だ」
「エリックさんが、御者さんですか?」
なんだか不思議な感じがした。
「いいから乗れ、行くぞ」
「メル、忘れ物はない?」
「はい!」
私たちは馬車へと乗りこむ。
「久しぶりですね」
「そうだね」
...会話が続かない。
不思議な沈黙が流れるなか、馬車が止まった。
「ほら、着いたぞ」
カムイが先に降りて、手を差しのべてくれた。
「あ、ありがとうございます」
私は馬車を降り、家を見る。
(すごい...見た目は元通りです)
「ドアを開けて、中に入れ」
何故かエリックさんが急かすように言う。
「じゃあ...ありがとうエリック。このドアはきみが直したんだろう?」
「...何故分かった?」
「一つは消去法。ベンじゃ大柄すぎてこの大きさにはならない。だからと言って、ナタリーは小柄でもあの怪力では直すどころか壊しかねない。もう一つは...この丁寧さだよ。こんなに器用なのは、メルかきみくらいだ」
「...流石の推理力だな。じゃあ俺は帰るから、二人でゆっくり過ごせよ」
「エリックさん、ありがとうございました」
「ああ、おやすみ」
私はまた少し、エリックさんと仲良くなれた気がした。
ー**ー
「それじゃあドアを開けようか」
「はい!」
俺がドアを開けると...
そこには、壊されてしまう前と全く同じ景色があった。
「...すごいな」
「ピカピカですね!」
メルは早速ベッドルームの方へ行ってしまった。
恐らく、荷物を置きに行ったのだろう。
メルが俺を呼ぶ声がする。
「カムイ!べ、ベッドが...」
「ん?ベッドがどうしたの?」
ベッドルームに入ると、真新しいベッドがあった。
...キングサイズの一つのベッドが。
「ベッドを変えるように、カムイが言ったんですか?」
「いや、俺も今はじめて知ったよ」
どういうことなのかとあたりを見回していると、テーブルの上に手紙が置いてあった。
『カムイとメルへ
あんなに近い距離にベッドを置くならこっちの方がいいでしょ?
それに、カムイのベッドは柱が腐ってたし。
あれじゃあ危ないから、二人で仲良く寝ればいいんじゃない?
ベンとあたしからの、帰ってきたお祝いです。
趣味悪いとか言わないでよね!』
「あの二人...」
「お二人がご好意で、ということでしょうか?」
「そうみたい」
俺は寝転がってみた。
真新しい青いベッドはとてもふかふかで、寝心地はよさそうだった。
(でもこれって...)
毎日メルを抱きしめてしまいそうだ。
ここ最近は抱きしめてばかりだったけれど、今以上に抱きしめてしまうだろう。
呆れられそうで少し怖い。
「カムイ...わがままを、言ってもいいですか?」
「うん、何?」
「ぎゅーってしてもらってもいいですか?」
「いいよ」
「そうじゃなくて、そのっ...カムイが気が向いたときでいいので、毎日でもいいので、ぎゅーってしてほしいんです」
...殺し文句だ。
「メルが嫌じゃないなら」
「!」
メルも寝転がってくる。
「ありがとうございます」
にこにこしていて、本当に幸せそうだ。
俺はメルを、世界で一番幸せにしたい。
だが...暴走してしまうような俺に、メルを幸せにすることができるのだろうか?
「カムイ...?」
心配そうに俺の顔を見るメルを、俺は抱きしめた。
(今はまだ、恋人としての時間を大切にしたい)
「なんでもないよ。それじゃあ寝ようか」
「はい、おやすみなさい」
この日は疲れていたのか、俺もメルもあっという間に眠ってしまっていた。
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