路地裏のマッチ売りの少女

黒蝶

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Until the day when I get engaged.-The light which comes over darkness-

閑話『Story of a Herculean strength girl』Ⅲ

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《ナタリー目線》
目を開けると、そこは全く知らない場所で。
「...?」
「起きただか?」
横を向くと、大柄の人が座っていた。
「ナタリー...」
「エリック?あれ、あたしは...」
徐々に思い出してくる。
「爆発で家が燃えて、それであたしは...っ」
「無理に思い出さなくてもいいだよ。犯人はちゃんと捕まえるだよ」
「ベン...」
あたしはみっともなく泣いてしまった。
ベンはあたしの背中をそっとさすってくれた。
あたしは泣き晴らしたあと、今更聞いた。
「あの、ここってどこなの?」
「ここは、おいらの家だよ。出ていきたいなら目的地まで運んでもいい。他に宛があるならそこにだって運ぶぞお」
「...ここに置いて」
「⁉ここは危ないぞお?おいらを恨んでるやつらがくるかもしれねえだよ」
「いいの。お願い...」
あたしは何故だか、この人から離れたくなかった。
誰かにそばにいてほしかったのかもしれない。
「いいんじゃない?消去法で俺の所が一番危ない。エリックの所は最近治安が悪い。だったら、おまえしかいないだろう?それに...もともとの目的地に行ったら、彼女が生きていることがバレて殺されてしまうかもしれない。だからせめて、事件が解決するまではその方がいいんじゃない?」
「それもそうだか。...分かっただよ」
ベンは意外にもあっさりと了承してくれた。
「じゃあ俺たちは今日は帰るよ。行こうエリック」
「そうだな」
二人が帰っていったあと、沈黙がながれる。
「...好きな食べ物はあるだか?」
ベンが遠慮がちに聞いてくる。
「パスタが、好きよ」
「分かっただよ」
(...?どういうこと?)
あたしは疑問に思いながら、ベッドからおりられなかった。
《ベン目線》
少しでも元気になってほしくて、おいらはベーコンクリームパスタを作ることにした。
おいらはあまり、料理が上手いというわけではないだろう。
しかし、どうしても何かしたかったのだ。
「取り敢えず食べるだよ」
「あ、ありがとう...」
おいらはナタリーが食べるのをじっと見ていた。
「美味しい...」
「よかっただよ」
「あの、どうしてあたしが食べるところをそんなに見てるの?」
「すまねえだよ、綺麗だなと思って...」
「綺麗⁉あたしが⁉」
「?ああ、そうだぞお」
(何か間違ったことを言っただか?)
「お世辞?」
「おいらは思ったことしか言わねえだよ」
ナタリーは顔を真っ赤にしている。
「...はじめてよ」
「え?」
「あたしを可愛いなんて言う人、はじめてなの!」
眩しすぎる笑顔でこちらを見る。
鼓動が高鳴るのを感じる。
「やっと笑っただよ」
「え?」
「絶対に笑ってた方が可愛いだよ」
「...ありがとう」
食事を終えたあと、ナタリーはすぐに眠ってしまった。
《ナタリー目線》
「しまった、学校に遅刻...」
そこまで言って気づいた。
学校に行ってもいいのだろうか?
しかし、ここからどの方角に行けば学校なのかも分からない。
「よく眠れただか?」
「...ええ」
「学校、行くだか?今日はカムイも仕事が入ってないはずだぞお」
「いいの?」
「学校ではカムイが守る。帰ってからは...おいらが守るだよ」
出会ったばかりなのに、ずっとそばにいたくなる。
とても不思議な感覚だった。
「ただ...見つかると厄介だから、学校まで狭いけどこの中で我慢してほしいだよ」
ドアを開けて、あたしは目の前の馬車の荷台にのっている大きな鍋のようなもののなかに入った。
(すごい、こんなのはじめて!)
ガタガタと揺れるものの、そんなに嫌な思いはしなかった。
カタン、とどこかで止まった音がする。
「ついただよ。取り敢えず出すから待つだよ」
すると、あたしがいた鍋のようなものの底が抜けた。
「...!」
「あれ?もう開けちゃっただか?すぐにどけるから待っててだよ」
周りの鉄のようなものをどけてくれた。
目の前は学校だった。
『ベン、ナタリーはどうしてる?』
「ああ、今学校の前だよ」
『何っ⁉』
バタバタと足音がする。
「ナタリー、大丈夫なのか?」
「ええ、全然平気よ」
なんだかんだで、全てベンのお陰だ。
「ベン、『底鍋作戦』で運んできたのか」
「ああ。帰りはお願いするだよ、エリック」
「あ?ああ...」
「それじゃあおいらはこれからそのまま仕事に行くぞお」
「あの...ありがとう!」
ベンは嬉しそうに笑っていた。
手をふって、そのまま馬車をはしらせていってしまった。
「ベンとは仲良くなれたみたいだな」
「ええ!」
「よかったな」
「...ええ」
ベンの笑顔が、頭に焼きついて離れない。
「ナタリー?」
エリックが心配そうにしている。
「ううん、なんでもない!」
あたしはエリックと一緒に、学校へ入っていく。
この時のあたしはまだ、この気持ちの名前を知らなかった。
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