路地裏のマッチ売りの少女

黒蝶

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Until the day when I get engaged.-The light which comes over darkness-

第41話

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ー*ー
私は思わず目を閉じた。
しかし、私が悲鳴をあげることはなかった。
「あ、お、俺の手が、手があっ!」
「ああごめん。手が滑って...ちゃんと神経に当ててあげられなかったみたいだね」
(カムイ?)
カムイの殺気が...いつもと違って見えた。
「メルに触るな」
「ひいっ!」
ナイフが突き刺さったままの手を、あの人は引っ込める。
「カムイ...?」
カムイの方を見ると、手が血で少し染まっていた。
(カムイは怪我をしたのでしょうか?)
...いや、違う。
あれはきっと、あの人の血だ。
「...その麻薬、マフィア関係でしょ?さっさとボスについて教えろよ」
私の言葉が届いていないように、カムイは闇を宿した瞳であの人たちを見る。
「そ、それはっ...がっ!」
一瞬の出来事で、何が起こったのか分からなかった。
あの人の背中には、槍が刺さっていた。
「『裏切り者には制裁を...』」
あの人は倒れた。
「きゃあああ!」
お嬢様が悲鳴をあげる。
『メル、どうかしたのか?』
「エリックさん、急いでください。カムイの様子がおかしいんです」
ー**ー
俺は獲物を仕留めた。
メルを傷つけるやつはみんな消してやる。
俺は何事もなかったかのようにナイフを抜くと、『オークスの汚れ』にそれを向けた。
「次はおまえだ。家をめちゃくちゃにしやがって...」
「ひいっ!お願いします、ちゃんと罪を償います!だからお願いやめてえ...」
俺はナイフをふりあげた。
(こいつら全員、始末してやる...)
「汚れは落とさないとな、オークス様?」
「...っ!」
確かに手応えはあった。
しかし俺が前を見ると、そこにいたのは...
「痛っ...」
メルだった。
「メル?どうして、どうしてメルが...」
「カムイ、もう終わったんです。一人で頑張らなくていいんですよ...。『人を殺さない』。カムイは人を殺したくないはずです。私を守ってくれたのは嬉しかったです。でもそれで、カムイが傷ついたら意味がないんですよ...」
「メ、ル...」
俺は徐々に冷静さを取り戻してきた。
「俺が、怖くないの?」
ー*ー
ようやくカムイは冷静になってくれたようだ。
「はい、怖くありませんよ。優しくて、かっこよくて、いつも人のことばかりで...。カムイは一人で頑張りすぎです」
「ごめん、ごめんねメル...。ナイフを持っている手を離してくれる?もう殺そうとしたりしないから」
「はい」
私はナイフを握っていた右手を離した。
「さて、と。でもけじめはつけてもらわないとね。そこのマフィア、お前らも捕まえる」
「はっ、小僧と小娘がどうやって...」
「動くな!」
その声は聞いたことがある声で。
「遅いよエリック。おかげでその槍使いのマフィアに殺されちゃったじゃないか」
「...!全員残らず捕まえろ。遺体はひとまずそのままおいておけ」
「はい!」
黒服の人たちも、オークス一家の人も...全員逮捕された。
「カムイ、おまえ...」
「ごめん。暴走しそうになった。でも、メルのおかげで助かったよ」
「いえ、私は何も...」
「!メル、出血しているじゃないか!早くこいつに手当てしてもらえ」
今更ながら痛みが右手にはしる。
「はい」
「メル、行こう」
ー**ー
本当に申し訳ないことをした。
「ごめんね、痛くない?」
「カムイが側にいてくれるから、全然痛くないですよ」
俺はメルを抱きしめる。
「本当にごめん...」
俺は少し掠れた声で言う。
「もう謝らないでください。私もカムイも無事に帰ってこられましたから」
「メル...」
俺がメルの頭をそっと撫でると、メルは嬉しそうにしていた。
メルの顔に俺の顔を近づけていく...。
「カムイ!...あ」
バリン、という音とともに扉が破壊され、ナタリーが姿を現した。
「...!」
「...」
「...あたし、またお邪魔だったみたいね」
「ナタリー、二人とも真っ赤になってしまってるだよ」
俺も、きっとメルも、恥ずかしくて言葉が出なかった。
ー*ー
「き、今日はどんなご用事でいらっしゃったんですか?」
私は緊張しながらも、うまく言えた...と思う。
「カムイからお金を徴収しにきたの!あの家、直すのすっごく大変だったんだからね!」
「あの家って...襲撃されていた家ですか?」
「そうそう、頼まれちゃったからね。『事が片づくまでに直してほしい』って」
私は全く知らなかったので、驚きすぎて声も出なかった。
「『俺とメルの居場所を』...」
「ベン、そこから先は言うな」
「悪かっただよ。それで?いつから向こうに帰るだよ?」
「三日後、かな」
「分かったわ、任せて!」
「あの...任せるって、何をですか?」
「メル、気にしなくていいよ。ナタリーは勝手に慌てているだけだから」
私は不審に思いながらも、気にしないことにした。
ナタリーさんたちが帰ったあと、カムイはドアを修理した。
「帰る準備をしないとね」
私は思わずカムイに抱きついた。
「カムイ、ありがとうございます」
「俺はメルが笑顔でいられる場所を作るよ」
「はいっ...」
私たちの唇が重なる。
二人きりの静かな部屋に、月明かりがさしこんだ...。
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