路地裏のマッチ売りの少女

黒蝶

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Until the day when I get engaged.-The light which comes over darkness-

第39話

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ー**ー
「今日はスノーボールを作ろう」
俺は考えた末、スノーボールを作ろうと思った。
「スノーボール、ですか...?」
(やっぱりメルは知らないか)
俺にとっては大切な味だ。
何かに失敗したとき、何かに悩んだとき、何か嬉しいことがあったとき...。
母が作ってくれたのは、いつもスノーボールだった。
ハンバーグを食べたあと、スノーボールを一緒に作ったのを今でも覚えている。
《お母さん、ごめんなさい...》
《カムイ、頑張った人が偉いのよ。結果が全てじゃないと私は思ってる》
《努力が偉い?》
《そうそう、私はそう思うわ。...さあ、もう泣かないで?一緒にスノーボールを作ろうね》
目を閉じると、甦るのは懐かしい記憶ばかりだ。
「カムイ?」
メルが心配そうに見上げている。
「ごめん、作ろうか」
「はい!」
ー*ー
「まずはバターと砂糖をボールに入れて」
「はい!」
私は言われた通りにやってみた。
きちんとメモもしながら、順調に進む。
「次は薄力粉をふるいいれ、混ぜる」
私は手順通りにやる。
「しまった、オーブンを予熱するの忘れてた!」
「何度ですか?」
「百七十度だよ」
「私やりますね」
私はオーブンの準備をする。
「天板の上にのせていくんだけど...この材料だと、三十等分くらいかな。俺も一緒にやるよ」
二人で必死に等分していくが、なかなかうまくいかない。
「これ、大きすぎるかな」
「私のは小さすぎました...」
私たちは顔を見あわせ笑った。
「半分にするのは難しいですね...」
「そうだね」
「あ、オーブンの準備もできた。これで大丈夫だと思う。じゃあ入れるね」
カムイがオーブンの中に入れ、十五分待たなければならないと言った。
私たちはその間、何をしようか考えた。
ー**ー
「メル、こっちおいでよ」
俺はそわそわしているメルを呼んだ。
俺は自分の膝の上にメルを座らせた。
「...っ、カムイ、恥ずかしいです」
かあっと頬が熱くなるのが後ろから見ていても分かる。
(いつももっと恥ずかしいことを言ってるくせに...)
俺はメルを片腕で支えた。
「俺はメルがいないとダメみたい」
「...私も、カムイから離れたくないです」
メルが俺の腕をそっと握る。
(まずい、離したくなくなった)
「あんまり可愛いこと言わないで...」
俺まで身体が熱くなってきた。
「あ!十五分たちましたよ」
メルはわくわくした様子で俺に言う。
「よし、じゃああとは仕上げだね」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「これを、まぶすんですか?」
「そう。粉砂糖だよ」
俺はゆっくりとまぶしていく。
「わあ...雪みたいです」
「そうだね」
こうして無事、スノーボールは完成した。
「メル、口開けて?」
「はむっ...美味しいです!サクサクしててとってもいいですね」
「よかった」
「折角ですから紅茶も淹れましょう」
「うん、お願いするね」
メルはご機嫌なようだ。
ポットを準備して、いつものようにアールグレイをサーブする。
その姿は本当に綺麗で、俺はいつもみとれてしまう。
「できました!」
「ありがとう」
俺はメルから淹れたてのそれを受け取る。
「じゃあ、食べようか」
「はい!」
俺は一口食べた途端、咳こんでしまった。
「カムイ⁉」
ー*ー
「大丈夫ですか⁉」
私は急いでカムイの背中をさすった。
「ごめんっ、俺としたことが...ゲホッ」
「紅茶、飲んでください」
カムイは少しずつ飲んでいる。
(少し冷ましてから出してよかったです)
「大丈夫ですか...?」
「うん、もう平気。ありがとう」
「よかったです」
ドアがノックされる。
二回...四回...二回。
「エリックさん、どうかなさったのですか?」
「いや、休憩時間になったから明日の予定を話しにきた」
「エリックもスノーボール食べる?」
「いただこう」
エリックさんはカムイの隣の席に座った。
(私が座っていた場所です...)
「エリック、きみは本当に...」
「ん?」
「なんでもない。取り敢えず、明日の作戦は?」
「まずはおまえたちに行ってもらうことになる。俺の部下は、俺についてきてくれると誓ってくれたから、おまえたちの出現で油断している隙に、強行突破だ。...で、例のものは準備できたのか?」
「勿論、ぬかりはないよ」
(例のもの...?)
私が疑問に思っていると、カムイが丁寧に教えてくれた。
「令状っていえば分かるかな?」
「おうちとかを好きに調べることができる紙ですか?」
「うん、そうだよ」
それならエリックさんが頼めば手に入れられるはずなのにと私は考えたが、すぐに思い出した。
(たしかエリックさんは上の人たちに忘れろと言われていたのでしたね...。だからカムイが令状を...)
「そんなに申し訳なさそうにしなくていい。俺はただ、警察としての正義を...いや、俺の正義を果たすだけだ」
「エリックさん...」
「それでは作戦は話したから俺は巡回に戻る。じゃあな」
エリックさんはお仕事に戻っていった。
「カムイ、令状を手に入れるのは大変だったのでは...?」
「まあ、それなりにはね。でも俺だって、表に出られないだけで一応警察みたいなものだし、ものすごく大変だった訳じゃないよ」
私は、カムイに気を遣わせてしまっているのではないかと考えた。
「ねえメル」
「はい」
「俺のお願いを聞いてくれる?」
「なんでも言ってください!」
「今日も、メルを抱きしめて寝てもいいかな?」
カムイが私にお願いしてくれたことが嬉しくて。
私はすぐに頷いた。
「ありがとう」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そして夜。
私は二人のノートに色々なことを書いた。
カムイは読書をしていたので、私は邪魔にならないように先にベッドルームにきたのだ。
(これでよし、と)
私はカムイのベッドに横になり、いつの間にか寝てしまっていた。
ー**ー
(メルは先に寝ちゃったか)
俺は起こさないように近づく。
デスクから、ノートがぱさりと音をたてて落ちる。
「ん?」
そこには、メルの新しい言葉が書かれていた。
(...これは俺の台詞なのに)
俺もノートに返事を書いた。
そのあと、いつも以上にメルをそっと抱きしめ、そのまま眠りについた。


『カムイへ
私はカムイと一緒なら、どんなことも楽しいです。
カムイはいつも私を守ると言ってくれるけれど、私もカムイを守りたいです。
私がカムイを幸せにします。
この事が終わったら...
一緒に幸せになりましょうね』
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