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Until the day when I get engaged.-The light which comes over darkness-
第34話
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ー*ー
それから数日、カムイは夜遅くまで起きているようだった。
「メル、先に寝てていいよ」
「...はい」
(私のせいで、みなさんにご迷惑をかけてしまっています)
私はそれがイヤで仕方なかった。
しかし今のところ、私にできることはない。
邪魔になってしまうのもイヤで、私は先にベッドルームへ行くことが多くなった。
いつも一緒にベッドルームに行っていたのに、ここ最近は一人で入っている。
私はそれが寂しくてたまらなかった。
(でも、ワガママを言って困らせたくありません)
カムイにもらったブレスレットを握りしめたまま、私はベッドに横になる。
すると、自然と涙が溢れてきた。
「私では、何の役にもたてない...」
私の口からは自然とその言葉が漏れていた。
ー**ー
その日、たまたまベッドルームのドアが中途半端に開いていた。
俺が閉めようとすると、中からメルの独り言が聞こえてくる。
「私では、何の役にもたてない...」
そんなことないよ、と言いかけてやめた。
(もっとメルの気持ちが知りたい)
「やっぱり一人は寂しいです...」
俺はそこまで聞いて気づいた。
いくら事件を解決するためだからといって、メルに寂しい思いをさせては意味がない。
俺はどうすべきか考えた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「メル、おはよう」
「カムイ...?おはようございます」
まだ寝起きの、ふにゃふにゃな笑顔で俺の方を見る。
(...っ、可愛い)
「朝御飯できたよ」
「はい!」
いつもより元気がないように感じられる。
どうしてもっと早く気づけなかったのかと、かなり後悔した。
「メル、お昼からパンケーキを作ろう」
俺はそう提案した。
作る約束をしておいて、今まですっかり忘れてしまっていた。
「いいんですか?」
ぱあっとメルの表情は明るくなった。
「勿論だよ。それと...明日は出掛けようか」
「どこにですか?」
「本屋と公園かな」
「本屋さん...ですか?図書館とはどう違うんですか?」
本屋にも行ったことがないのか...と思っていると、メルが興味津々といった顔でこちらを見ている。
ちゃんと説明するべきだろう。
「本を売ってくれるんだよ。図書館は借りたら返さないといけないけれど、本屋で買ったものは自分のものになる」
「本が、自分のものに...?すごいです!」
「明日の話もいいけど、取り敢えず準備しようか」
「はい!」
メルはとても楽しそうにしている。
(パンケーキ...)
メルに喜んでもらうには、どうすればいいのだろうか。
ー*ー
久しぶりに、カムイと一緒に料理ができる。
私はそれが嬉しかった。
「じゃあまずは、ミルクを...」
カムイが手本を見せてくれる。
フライパンの使い方もとても綺麗で、私はみとれてしまっていた。
「メルもやってみる?」
「はい!」
材料を混ぜ、生地を流し入れるところまではうまくいった。
しかし...
(裏返せません...)
「メル、これを使って。これはフライ返し。こうやって...」
カムイの丁寧な教えのもと、なんとか無事にできた。
カムイは皿に盛りつける。
「仕上げは自由なんだけど...」
カムイは、なにかしぼり器のようなものを使っている。
「それはなんですか?」
「これは、生クリームを出す道具だよ。...よし、できた」
ブルーベリーとチェリーがのった、生クリームで可愛らしい顔が書かれているパンケーキが完成した。
「すごいです!いただきます」
「いただきます」
私ははじめての感触に、どう反応すればいいのか分からなくなった。
「ブルーベリーとチェリー、そして生クリーム...パンケーキとの相性抜群です!」
「よかった、喜んでくれて」
私もカムイも、あっという間に完食してしまった。
洗い物をしていると、カムイが後ろから抱きしめてくる。
「カムイ...?」
ー**ー
俺はメルを抱きしめたまま、そっと耳許で囁く。
「寂しい思いをさせてごめんね」
「っ、カムイはお仕事で忙しいのですから、気にしないでください」
「ううん、俺が嫌なんだ。メルが一人で寂しい思いをするのが、とても嫌なんだ...」
俺はメルに、笑っていてほしい。
俺の隣で、ずっと笑っていてほしい。
「でもお仕事が」
「昨日で全部終わったよ。あとはエリックに任せるだけ」
「そうなんですか?」
声が少し明るくなったのを感じた。
「うん。だから今日からは、また一緒の時間に寝られる」
「嬉しいです!」
メルが俺の腕のなかでぴょんぴょん跳ねている。
そういうところも含めて、俺はメルが好きだ。
「あんまりはねると危ないよ?」
俺がそう言うと、メルは再び洗い物をはじめた。
もうすでに夜は深まり、時計は九時をさしていた。
俺はメルから手を離し、洗い終わるのを待った。
「カムイ?」
メルが不思議そうにきょとんとしている。
「行こうか、ベッドルーム。少し早いけど、明日はたくさんのところに行くからね」
「はい!」
俺はメルの手を繋ぎ、そのまま二人でベッドに横になる。
「カムイ」
「どうしたの?」
「ありがとうございました」
メルはにこにこしている。
「俺はただ、メルの笑顔が見たかっただけだから」
「それでも嬉しかったです。おやすみなさい」
「うん、おやすみ」
俺は明日のことを考えながら、蝋燭の火を消した。
それから数日、カムイは夜遅くまで起きているようだった。
「メル、先に寝てていいよ」
「...はい」
(私のせいで、みなさんにご迷惑をかけてしまっています)
私はそれがイヤで仕方なかった。
しかし今のところ、私にできることはない。
邪魔になってしまうのもイヤで、私は先にベッドルームへ行くことが多くなった。
いつも一緒にベッドルームに行っていたのに、ここ最近は一人で入っている。
私はそれが寂しくてたまらなかった。
(でも、ワガママを言って困らせたくありません)
カムイにもらったブレスレットを握りしめたまま、私はベッドに横になる。
すると、自然と涙が溢れてきた。
「私では、何の役にもたてない...」
私の口からは自然とその言葉が漏れていた。
ー**ー
その日、たまたまベッドルームのドアが中途半端に開いていた。
俺が閉めようとすると、中からメルの独り言が聞こえてくる。
「私では、何の役にもたてない...」
そんなことないよ、と言いかけてやめた。
(もっとメルの気持ちが知りたい)
「やっぱり一人は寂しいです...」
俺はそこまで聞いて気づいた。
いくら事件を解決するためだからといって、メルに寂しい思いをさせては意味がない。
俺はどうすべきか考えた。
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「メル、おはよう」
「カムイ...?おはようございます」
まだ寝起きの、ふにゃふにゃな笑顔で俺の方を見る。
(...っ、可愛い)
「朝御飯できたよ」
「はい!」
いつもより元気がないように感じられる。
どうしてもっと早く気づけなかったのかと、かなり後悔した。
「メル、お昼からパンケーキを作ろう」
俺はそう提案した。
作る約束をしておいて、今まですっかり忘れてしまっていた。
「いいんですか?」
ぱあっとメルの表情は明るくなった。
「勿論だよ。それと...明日は出掛けようか」
「どこにですか?」
「本屋と公園かな」
「本屋さん...ですか?図書館とはどう違うんですか?」
本屋にも行ったことがないのか...と思っていると、メルが興味津々といった顔でこちらを見ている。
ちゃんと説明するべきだろう。
「本を売ってくれるんだよ。図書館は借りたら返さないといけないけれど、本屋で買ったものは自分のものになる」
「本が、自分のものに...?すごいです!」
「明日の話もいいけど、取り敢えず準備しようか」
「はい!」
メルはとても楽しそうにしている。
(パンケーキ...)
メルに喜んでもらうには、どうすればいいのだろうか。
ー*ー
久しぶりに、カムイと一緒に料理ができる。
私はそれが嬉しかった。
「じゃあまずは、ミルクを...」
カムイが手本を見せてくれる。
フライパンの使い方もとても綺麗で、私はみとれてしまっていた。
「メルもやってみる?」
「はい!」
材料を混ぜ、生地を流し入れるところまではうまくいった。
しかし...
(裏返せません...)
「メル、これを使って。これはフライ返し。こうやって...」
カムイの丁寧な教えのもと、なんとか無事にできた。
カムイは皿に盛りつける。
「仕上げは自由なんだけど...」
カムイは、なにかしぼり器のようなものを使っている。
「それはなんですか?」
「これは、生クリームを出す道具だよ。...よし、できた」
ブルーベリーとチェリーがのった、生クリームで可愛らしい顔が書かれているパンケーキが完成した。
「すごいです!いただきます」
「いただきます」
私ははじめての感触に、どう反応すればいいのか分からなくなった。
「ブルーベリーとチェリー、そして生クリーム...パンケーキとの相性抜群です!」
「よかった、喜んでくれて」
私もカムイも、あっという間に完食してしまった。
洗い物をしていると、カムイが後ろから抱きしめてくる。
「カムイ...?」
ー**ー
俺はメルを抱きしめたまま、そっと耳許で囁く。
「寂しい思いをさせてごめんね」
「っ、カムイはお仕事で忙しいのですから、気にしないでください」
「ううん、俺が嫌なんだ。メルが一人で寂しい思いをするのが、とても嫌なんだ...」
俺はメルに、笑っていてほしい。
俺の隣で、ずっと笑っていてほしい。
「でもお仕事が」
「昨日で全部終わったよ。あとはエリックに任せるだけ」
「そうなんですか?」
声が少し明るくなったのを感じた。
「うん。だから今日からは、また一緒の時間に寝られる」
「嬉しいです!」
メルが俺の腕のなかでぴょんぴょん跳ねている。
そういうところも含めて、俺はメルが好きだ。
「あんまりはねると危ないよ?」
俺がそう言うと、メルは再び洗い物をはじめた。
もうすでに夜は深まり、時計は九時をさしていた。
俺はメルから手を離し、洗い終わるのを待った。
「カムイ?」
メルが不思議そうにきょとんとしている。
「行こうか、ベッドルーム。少し早いけど、明日はたくさんのところに行くからね」
「はい!」
俺はメルの手を繋ぎ、そのまま二人でベッドに横になる。
「カムイ」
「どうしたの?」
「ありがとうございました」
メルはにこにこしている。
「俺はただ、メルの笑顔が見たかっただけだから」
「それでも嬉しかったです。おやすみなさい」
「うん、おやすみ」
俺は明日のことを考えながら、蝋燭の火を消した。
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