路地裏のマッチ売りの少女

黒蝶

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Until the day when I get engaged.-The light which comes over darkness-

第33話

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ー*ー
「じゃあ、黙っておく代わりに...伝票の計算を手伝ってくれない?」
(伝票?)
「いいけど...ベンもナタリーも計算苦手だったよね」
「あはは...」
二人の会話から、計算するものということは分かった。
全部で十枚の紙にカムイが目を通す。
「三枚目と七枚目以外、全部間違ってる」
「全部⁉どうしよう、明日までに計算しないといけないのに...!」
「さすがの俺でも、暗算でこの量をこなすのは無理だ」
「...貸してください」
私は左眼で目を通す。
「一枚目は千五百六十七、二枚目は五千四十、四枚目は...」
私は次々と計算を済ませた。
「訂正終わりました!」
「メル、すごいね!風のはやさで計算が終わったね。俺じゃあその速度では計算できないよ」
「おばあさまに習ったのでとても得意なんです!」
私はようやく二人の役に立てて、とても嬉しかった。
「ありがとう、メル!助かったわ!私はそろそろ帰らないと...それじゃあね!」
ナタリーさんは伝票を持って走っていってしまった。
「メル、本当にすごい才能だね」
「私にできるのはこれくらいですから...」
私には、文字を書くことと読むこと、計算すること...そして、ある程度の家事しかできない。
「私は私にできることをしただけですから」
「なかなかできることじゃないよ」
カムイはそう言って褒めてくれた。
ー**ー
メルと穏やかな時間を過ごしていると、ドアがノックされる。
二回...四回、二回。
「エリッ」
俺は急いでメルの口を塞ぐ。
「しー...」
俺はメルに向かって人差し指をたてた。
メルは頷く。
(もしも本当にエリックなら、いないかどうか確認するためにこの後は窓から覗くはずだ)
「おまえら、引き揚げるぞ」
どうやら近くに住む、ならず者たちだったらしい。
メルは少し震えている。
「大丈夫だよ」
彼女は立ち上がり、窓からそっと外を覗いている。
「メルっ、危ないから...!」
俺は一応小声でメルに言う。
「もう行きました、大丈夫です」
何故ならず者たちがここにきたのかは分からない。それよりも俺はどうしてもメルに聞きたいことがあった。
「メル...もしかしてその綺麗な左眼は、オッドアイであること以外に秘密があるの?」
ー*ー
私は話すべきかどうか悩んだ。
小さい頃からそうなのだが、私には左眼が原因かどうか分からないからだ。
「話したくないなら無理に言う必要はないよ。メルが話したいと思ったときに話して?」
「ごめんなさい...」
(今は怖くて話せません)
いつかきっと、話さなくてはならないときがくる。
でもせめて、今だけは話したくないと思った。
嫌われるかもしれない。
異常だと言われるのが怖くて、言うことができなかった。
「それよりもメル」
カムイに抱きよせられる。
「...?」
「こんなに震えるくらい怖い思いさせてごめんね。多分、俺が依頼を断った人たちだと思う」
「依頼を断った...?」
ー**ー
俺はとある組織の依頼を断ったのだ。
勿論、何件か断ったことはある。
しかし奴等は違う。奴等は...
「カムイ?辛いことだったんですか?」
「...うん。何件かは断ったよ。人を殺したりする依頼をね。でも断られた腹いせに、何度も殺されかけたのも事実なんだ」
「そんな...!カムイは何も悪いことをしていないのに...」
メルの言葉はとてもありがたい。
だが、俺のせいでメルが危険な目に遭うのだけは避けたい。
「ありがとう、メル」
俺はメルを強く抱きしめた。
「大丈夫、大丈夫だから...」
メルの震えが止まるまで、俺はずっとメルを抱きしめていた。
ー*ー
次の日。
私はカムイと一緒にエリックさんの家に行った。
「なんだ、俺は今日は休みなんだぞ?」
「ごめん。どうしても頼みたいことがあって...」
「仕事の話ならメルには聞かせない方がいいんじゃないか?」
エリックさんが私のことを気にしてくれているのはとても嬉しい。
(でも、私は...)
「いいんです、聞かせてください」
「俺も止めたんだけど、どうしてもって聞いてくれないんだ」
「...分かった。あの男の、潜伏先と思われるものを見つけた」
「...!」
「だが...道が狭く、大勢で突入するのは不可能だ。広い道も存在しているのだが、どこから繋がっているのか不明でな。場所が路地裏で、道が分かりづらく...」
「あの、多分私なら分かります」
「メル⁉」
私は路地裏を熟知している。
それは、色々な場所でマッチを売ったからだ。
「この建物を見たことがあるか?」
エリックさんは一枚の絵を見せてくれた。
(ここは九番街の...)
「それなら、こっちの道から行けますよ」
「メルは行ったことがあるの?」
「はい、この辺にもマッチを売りに...」
「そうか。情報感謝する。また聞きに行ってもいいだろうか?」
「勿論です!」
私はまた役に立てて嬉しかった。
あの人たちを捕まえたら、カムイのおうちが荒らされることもないはずだ。
「...そろそろ悪いやつを捕まえる計画をたてようか」
「ああ」
カムイとエリックさんは頷きあっていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その日の夜、私は少し心配になった。
「カムイ、無理しないでくださいね?」
「勿論だよ。だって...こんなに可愛いメルが待ってるからね」
「もう...からかわないでください」
「ごめんごめん。疲れたでしょ?ちゃんと寝て?」
カムイの優しい手が私の背中をとんとんと軽くたたく。
(眠くなってきました...)
私はいつの間にか眠りに落ちていた。
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