路地裏のマッチ売りの少女

黒蝶

文字の大きさ
上 下
68 / 220
Until the day when I get engaged.-The light which comes over darkness-

第33話

しおりを挟む
ー*ー
「じゃあ、黙っておく代わりに...伝票の計算を手伝ってくれない?」
(伝票?)
「いいけど...ベンもナタリーも計算苦手だったよね」
「あはは...」
二人の会話から、計算するものということは分かった。
全部で十枚の紙にカムイが目を通す。
「三枚目と七枚目以外、全部間違ってる」
「全部⁉どうしよう、明日までに計算しないといけないのに...!」
「さすがの俺でも、暗算でこの量をこなすのは無理だ」
「...貸してください」
私は左眼で目を通す。
「一枚目は千五百六十七、二枚目は五千四十、四枚目は...」
私は次々と計算を済ませた。
「訂正終わりました!」
「メル、すごいね!風のはやさで計算が終わったね。俺じゃあその速度では計算できないよ」
「おばあさまに習ったのでとても得意なんです!」
私はようやく二人の役に立てて、とても嬉しかった。
「ありがとう、メル!助かったわ!私はそろそろ帰らないと...それじゃあね!」
ナタリーさんは伝票を持って走っていってしまった。
「メル、本当にすごい才能だね」
「私にできるのはこれくらいですから...」
私には、文字を書くことと読むこと、計算すること...そして、ある程度の家事しかできない。
「私は私にできることをしただけですから」
「なかなかできることじゃないよ」
カムイはそう言って褒めてくれた。
ー**ー
メルと穏やかな時間を過ごしていると、ドアがノックされる。
二回...四回、二回。
「エリッ」
俺は急いでメルの口を塞ぐ。
「しー...」
俺はメルに向かって人差し指をたてた。
メルは頷く。
(もしも本当にエリックなら、いないかどうか確認するためにこの後は窓から覗くはずだ)
「おまえら、引き揚げるぞ」
どうやら近くに住む、ならず者たちだったらしい。
メルは少し震えている。
「大丈夫だよ」
彼女は立ち上がり、窓からそっと外を覗いている。
「メルっ、危ないから...!」
俺は一応小声でメルに言う。
「もう行きました、大丈夫です」
何故ならず者たちがここにきたのかは分からない。それよりも俺はどうしてもメルに聞きたいことがあった。
「メル...もしかしてその綺麗な左眼は、オッドアイであること以外に秘密があるの?」
ー*ー
私は話すべきかどうか悩んだ。
小さい頃からそうなのだが、私には左眼が原因かどうか分からないからだ。
「話したくないなら無理に言う必要はないよ。メルが話したいと思ったときに話して?」
「ごめんなさい...」
(今は怖くて話せません)
いつかきっと、話さなくてはならないときがくる。
でもせめて、今だけは話したくないと思った。
嫌われるかもしれない。
異常だと言われるのが怖くて、言うことができなかった。
「それよりもメル」
カムイに抱きよせられる。
「...?」
「こんなに震えるくらい怖い思いさせてごめんね。多分、俺が依頼を断った人たちだと思う」
「依頼を断った...?」
ー**ー
俺はとある組織の依頼を断ったのだ。
勿論、何件か断ったことはある。
しかし奴等は違う。奴等は...
「カムイ?辛いことだったんですか?」
「...うん。何件かは断ったよ。人を殺したりする依頼をね。でも断られた腹いせに、何度も殺されかけたのも事実なんだ」
「そんな...!カムイは何も悪いことをしていないのに...」
メルの言葉はとてもありがたい。
だが、俺のせいでメルが危険な目に遭うのだけは避けたい。
「ありがとう、メル」
俺はメルを強く抱きしめた。
「大丈夫、大丈夫だから...」
メルの震えが止まるまで、俺はずっとメルを抱きしめていた。
ー*ー
次の日。
私はカムイと一緒にエリックさんの家に行った。
「なんだ、俺は今日は休みなんだぞ?」
「ごめん。どうしても頼みたいことがあって...」
「仕事の話ならメルには聞かせない方がいいんじゃないか?」
エリックさんが私のことを気にしてくれているのはとても嬉しい。
(でも、私は...)
「いいんです、聞かせてください」
「俺も止めたんだけど、どうしてもって聞いてくれないんだ」
「...分かった。あの男の、潜伏先と思われるものを見つけた」
「...!」
「だが...道が狭く、大勢で突入するのは不可能だ。広い道も存在しているのだが、どこから繋がっているのか不明でな。場所が路地裏で、道が分かりづらく...」
「あの、多分私なら分かります」
「メル⁉」
私は路地裏を熟知している。
それは、色々な場所でマッチを売ったからだ。
「この建物を見たことがあるか?」
エリックさんは一枚の絵を見せてくれた。
(ここは九番街の...)
「それなら、こっちの道から行けますよ」
「メルは行ったことがあるの?」
「はい、この辺にもマッチを売りに...」
「そうか。情報感謝する。また聞きに行ってもいいだろうか?」
「勿論です!」
私はまた役に立てて嬉しかった。
あの人たちを捕まえたら、カムイのおうちが荒らされることもないはずだ。
「...そろそろ悪いやつを捕まえる計画をたてようか」
「ああ」
カムイとエリックさんは頷きあっていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その日の夜、私は少し心配になった。
「カムイ、無理しないでくださいね?」
「勿論だよ。だって...こんなに可愛いメルが待ってるからね」
「もう...からかわないでください」
「ごめんごめん。疲れたでしょ?ちゃんと寝て?」
カムイの優しい手が私の背中をとんとんと軽くたたく。
(眠くなってきました...)
私はいつの間にか眠りに落ちていた。
しおりを挟む
感想 76

あなたにおすすめの小説

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

処理中です...