路地裏のマッチ売りの少女

黒蝶

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Until the day when Christmas comes.

閑話『The first letter offered to you』

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これは、クリスマスの夜の物語である...。

ー*ー
「お片づけしましょうか」
「そうだね。それよりもメル、口にクリームがついてる」
カムイがクスッと笑って綺麗な布で拭いてくれた。
「ありがとうございます...」
(やっぱりなんだか恥ずかしいのです)
食器を洗っていて、私はふと思った。
(私は何もカムイにプレゼントできませんでした...)
カムイは綺麗なブレスレットをくれたのに、私は家に置いてもらっているのに...何もできない自分が悔しかった。
「メル?」
「いいえ、なんでもありません」
私はあることを思いついた。
(そうです、あれを使えば...)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
カムイが入浴している間に、私は以前カムイからもらった便箋の残りをテーブルに置く。
(勝手に借ります、ごめんなさい!)
筆記用具は近くにあったものを勝手に使わせてもらうことにした。
私にはお金がないので綺麗なものをカムイにあげることはできない。
便箋だってカムイのものだった訳であって、決して自分のものではない。
それでも、感謝を伝えたかった。
(よし、できました!)
「メル、あがったよ」
私は手紙を見られないように、そっとカムイに近づく。
「どうしたの?」
「あ、あの...」
《この役立たずめ!》
私はつい思い出してしまう。
(...カムイは優しいから受け取ってくださるとは思いますが、迷惑かもしれません)
「ほ、埃がついてました!」
私はなんでもないふりをして、カムイの肩を軽く触る。
「ありがとう」
「私も入ってきますね!」
私は急いでその場を離れた。
...そのあと浴槽で一人、溢れ落ちる涙を止めることができなかった。
ー**ー
メルの様子が明らかにおかしかったことに俺は気づいた。
俺はメルが嫌がるようなことをしてしまったのだろうか。
「何があったんだ?」
俺の声に反応したかのように、テーブルの上にあった何かが宙を舞う。
(封筒?)
それは、見覚えのある封筒だった。
『カムイへ』
可愛らしい、少し小さめの文字...見間違えようがない。
(どうして渡してくれなかったんだ?)
俺はある仮説をたてた。
だが俺はそれを勝手に開け、読むことにした。
「いいお湯でした...」
ちょうど読み終えたところで、メルがバスルームから出てきた。
「メル」
俺はまだ温かい彼女の身体を抱きしめた。
「カムイ...?」
ー*ー
「ごめん、勝手に読んじゃった」
「...!」
私は今更、書くのに使ったものも、渡さずにいようと思っていた手紙も、テーブルに置いたままだったことに気づく。
「すごく嬉しかった。ありがとう」
「ご迷惑だったのではないですか...?」
「迷惑なわけないでしょ、好きな子からの手紙なのに。一生大切にするよ」
カムイは私の頭をわしゃわしゃと撫で、そのまま顔を近づけてくる。
私は目を閉じ、そのまま唇が重なる。
「これからもこうやって二人で楽しく暮らしていこうね」
「...っ、はい」
ー**ー
メルは疲れたからと先に寝てしまった。
俺はもう一度その手紙を読み直す。
何度読み返しても、心が温かかった。


『カムイへ

いつも助けていただいてばかりでごめんなさい。
でも私は、カムイの側にいたいです。
カムイはいつも私を守ってくれるけれど、私もカムイを守ります。
全然力になれないかもしれないけれど、私にできることを沢山やります。
これからもずっと、カムイが大好きです。

                                                   メル』
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