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Until the day when I get engaged.-The light which comes over darkness-
第31話
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ー**ー
「ちょっと滲みるよ?」
こうやってメルを手当てするのは何度めだろうか。
いつも無茶ばかりさせてしまうことを申し訳なく思う。
(メルには笑っていてほしいのに)
「カムイ...?」
メルが首を傾げている。
「ごめん、またぼーっとしてた」
するとメルは立ち上がり背伸びをして、こつんと俺の額に自らの額をあてる。
「熱があるわけではないんですね」
予想外の行動にドキドキしながら、俺はメルに心配をかけてしまったとさらに申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「ごめん、メル。メルの方が痛かったり辛い思いをしているのにね...」
「思いの重さは関係ないと思います。カムイには、少しおやすみしてほしいです。大切なものを失ったときは、とても疲れるものですから」
(メルらしい反応だな)
「ごめん、それじゃあ少しだけ寝るよ...」
俺はソファーに横になり、目をゆっくりと閉じる。
「カムイは偉いです」
メルがそう小さく呟いたのを最後に、俺の意識は途絶えた。
ー*ー
(よかったです、ちゃんとやすんでくださって...)
カムイが寝ている間に、リンゴを調理する。
私ができるのがこれだけなのが、大変申し訳ない。
(カムイは喜んでくれるでしょうか?)
この場所はあの家に比べてとても静かだ。
周りに何があるのか分からない。
「うう、ん...」
「カムイ、起きましたか?」
「うん」
「あの...これ食べてください。私も食べますけど...」
テーブルにあったのは、アップルパイとアールグレイだった。
ー**ー
「ありがとう」
メルには本当に気を遣わせてばかりだ。
「いただきます」
「いただきます」
俺はその味にやはり驚いた。
「この前作ってもらって食べたときより、甘く感じるんだけど...もしかして俺の好きな味つけにしてくれたの?」
「お口に合いませんでしたか?」
「ううん、すごく嬉しい。ありがとう」
とても甘くてとろけそうだ。
この時間もこのアップルパイも...メルの笑顔も。
「片づけは俺がやっておくから、メルはゆっくりしてて?」
「ありがとうございます」
メルはバスルームに向かったようだった。
俺は食器を洗いながら今日一日のことを思い出していた。
(『大切なものを失ったときはとても疲れるもの』、か)
メルはどれだけ大切なものを失ったのだろうか。
俺も一緒に、背負うことはできるだろうか。
ー*ー
私がお風呂から出ると、カムイは本を読んでいた。
「カムイ、お風呂でました」
「ありがとう」
カムイがバスルームへと向かっていく。
私はカムイが読んでいた本を読んでみることにした。
(『むかしむかしあるところに、心の優しい農業をしている夫婦がいました』...幸せそうです)
そんなことを考えていると、ドアがノックされる。
二回...四回...二回。
「エリックさん、こんばんは。カムイはお風呂に入っているのですが...」
「中で待たせてもらっても構わないだろうか?」
「はい、勿論です」
私はアールグレイを淹れる。
(確かエリックさんはミルクティーがお好きだったはず...)
「どうぞ」
「ああ、すまない」
「急ぎの用事ですか?」
「いや、仕事の合間にきただけだ」
いつかのように、沈黙が流れる。
「エリックさん、一つ聞いてもいいですか?」
「ああ」
「エリックさんは、どうして女性が苦手なんですか?」
「それは、その...」
私は後悔した。
人には聞かれたくないことがあるのに、土足で踏みこんだような気分になったからだ。
「ごめんなさい、言いたくないなら」
「ネチネチしているやつらが嫌だからだ」
「え...?」
ー**ー
なにやら話し声が聞こえたので、俺は急いでバスルームを出る。
エリックがメルに何かを説明しているようだ。
(もしかして...)
エリックが自分から説明するのは珍しい。
「ごめん、俺に用があったんじゃない?」
「いや、仕事の合間にきただけだ」
「珍しいね、女性嫌いの理由を話すなんて」
「親友の恋人には話しておくべきだろうと思っただけだ」
律儀なところもエリックらしいと俺は思う。
「俺は、女性たちが集団で女性をリンチするという事件を担当した。その時の女性たちの言い分が、『ウザいから』だった。そんなのが一人の女性の心が壊れるまで追いこんでいい理由にはならない。それに...」
「あのお姉さんたちのこと?」
「エリックさんにはお姉様がいらっしゃるんですか?」
「そうだよ」
俺が代わりに答える。
「そのお姉さんたちが賑やかな人たちでね...。エリックに無茶なことばかり言って、困らせていたんだ。たとえばドレ...」
俺はそこまで言ったところでエリックの激しい殺気を感じて、黙ることにした。
「まあ、色々理由はあるということだ」
「お姉様、何人いらっしゃるんですか?」
「ざっと七人だ」
ー*ー
「七人⁉多いですね...」
私は驚いてしまった。
私にはよく分からないけれど、兄弟が多いというのは大変だと思う。
「俺は仕事に戻る」
「エリックさん、ありがとうございました」
「あ、ああ」
エリックさんは再び仕事へ行ってしまった。
「メル」
「なんでしょうか?」
「俺にも紅茶を淹れてくれる?」
「はい!」
カムイがいつもの調子に戻ってきているのを感じた。
カムイとエリックさんの会話を聞いていて、やはり羨ましいと思った。
(お友だちってどんな感じなのでしょうか?)
私はそんなことを考えながら、いつものように夜を過ごした。
「ちょっと滲みるよ?」
こうやってメルを手当てするのは何度めだろうか。
いつも無茶ばかりさせてしまうことを申し訳なく思う。
(メルには笑っていてほしいのに)
「カムイ...?」
メルが首を傾げている。
「ごめん、またぼーっとしてた」
するとメルは立ち上がり背伸びをして、こつんと俺の額に自らの額をあてる。
「熱があるわけではないんですね」
予想外の行動にドキドキしながら、俺はメルに心配をかけてしまったとさらに申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「ごめん、メル。メルの方が痛かったり辛い思いをしているのにね...」
「思いの重さは関係ないと思います。カムイには、少しおやすみしてほしいです。大切なものを失ったときは、とても疲れるものですから」
(メルらしい反応だな)
「ごめん、それじゃあ少しだけ寝るよ...」
俺はソファーに横になり、目をゆっくりと閉じる。
「カムイは偉いです」
メルがそう小さく呟いたのを最後に、俺の意識は途絶えた。
ー*ー
(よかったです、ちゃんとやすんでくださって...)
カムイが寝ている間に、リンゴを調理する。
私ができるのがこれだけなのが、大変申し訳ない。
(カムイは喜んでくれるでしょうか?)
この場所はあの家に比べてとても静かだ。
周りに何があるのか分からない。
「うう、ん...」
「カムイ、起きましたか?」
「うん」
「あの...これ食べてください。私も食べますけど...」
テーブルにあったのは、アップルパイとアールグレイだった。
ー**ー
「ありがとう」
メルには本当に気を遣わせてばかりだ。
「いただきます」
「いただきます」
俺はその味にやはり驚いた。
「この前作ってもらって食べたときより、甘く感じるんだけど...もしかして俺の好きな味つけにしてくれたの?」
「お口に合いませんでしたか?」
「ううん、すごく嬉しい。ありがとう」
とても甘くてとろけそうだ。
この時間もこのアップルパイも...メルの笑顔も。
「片づけは俺がやっておくから、メルはゆっくりしてて?」
「ありがとうございます」
メルはバスルームに向かったようだった。
俺は食器を洗いながら今日一日のことを思い出していた。
(『大切なものを失ったときはとても疲れるもの』、か)
メルはどれだけ大切なものを失ったのだろうか。
俺も一緒に、背負うことはできるだろうか。
ー*ー
私がお風呂から出ると、カムイは本を読んでいた。
「カムイ、お風呂でました」
「ありがとう」
カムイがバスルームへと向かっていく。
私はカムイが読んでいた本を読んでみることにした。
(『むかしむかしあるところに、心の優しい農業をしている夫婦がいました』...幸せそうです)
そんなことを考えていると、ドアがノックされる。
二回...四回...二回。
「エリックさん、こんばんは。カムイはお風呂に入っているのですが...」
「中で待たせてもらっても構わないだろうか?」
「はい、勿論です」
私はアールグレイを淹れる。
(確かエリックさんはミルクティーがお好きだったはず...)
「どうぞ」
「ああ、すまない」
「急ぎの用事ですか?」
「いや、仕事の合間にきただけだ」
いつかのように、沈黙が流れる。
「エリックさん、一つ聞いてもいいですか?」
「ああ」
「エリックさんは、どうして女性が苦手なんですか?」
「それは、その...」
私は後悔した。
人には聞かれたくないことがあるのに、土足で踏みこんだような気分になったからだ。
「ごめんなさい、言いたくないなら」
「ネチネチしているやつらが嫌だからだ」
「え...?」
ー**ー
なにやら話し声が聞こえたので、俺は急いでバスルームを出る。
エリックがメルに何かを説明しているようだ。
(もしかして...)
エリックが自分から説明するのは珍しい。
「ごめん、俺に用があったんじゃない?」
「いや、仕事の合間にきただけだ」
「珍しいね、女性嫌いの理由を話すなんて」
「親友の恋人には話しておくべきだろうと思っただけだ」
律儀なところもエリックらしいと俺は思う。
「俺は、女性たちが集団で女性をリンチするという事件を担当した。その時の女性たちの言い分が、『ウザいから』だった。そんなのが一人の女性の心が壊れるまで追いこんでいい理由にはならない。それに...」
「あのお姉さんたちのこと?」
「エリックさんにはお姉様がいらっしゃるんですか?」
「そうだよ」
俺が代わりに答える。
「そのお姉さんたちが賑やかな人たちでね...。エリックに無茶なことばかり言って、困らせていたんだ。たとえばドレ...」
俺はそこまで言ったところでエリックの激しい殺気を感じて、黙ることにした。
「まあ、色々理由はあるということだ」
「お姉様、何人いらっしゃるんですか?」
「ざっと七人だ」
ー*ー
「七人⁉多いですね...」
私は驚いてしまった。
私にはよく分からないけれど、兄弟が多いというのは大変だと思う。
「俺は仕事に戻る」
「エリックさん、ありがとうございました」
「あ、ああ」
エリックさんは再び仕事へ行ってしまった。
「メル」
「なんでしょうか?」
「俺にも紅茶を淹れてくれる?」
「はい!」
カムイがいつもの調子に戻ってきているのを感じた。
カムイとエリックさんの会話を聞いていて、やはり羨ましいと思った。
(お友だちってどんな感じなのでしょうか?)
私はそんなことを考えながら、いつものように夜を過ごした。
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