66 / 220
Until the day when I get engaged.-The light which comes over darkness-
第31話
しおりを挟む
ー**ー
「ちょっと滲みるよ?」
こうやってメルを手当てするのは何度めだろうか。
いつも無茶ばかりさせてしまうことを申し訳なく思う。
(メルには笑っていてほしいのに)
「カムイ...?」
メルが首を傾げている。
「ごめん、またぼーっとしてた」
するとメルは立ち上がり背伸びをして、こつんと俺の額に自らの額をあてる。
「熱があるわけではないんですね」
予想外の行動にドキドキしながら、俺はメルに心配をかけてしまったとさらに申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「ごめん、メル。メルの方が痛かったり辛い思いをしているのにね...」
「思いの重さは関係ないと思います。カムイには、少しおやすみしてほしいです。大切なものを失ったときは、とても疲れるものですから」
(メルらしい反応だな)
「ごめん、それじゃあ少しだけ寝るよ...」
俺はソファーに横になり、目をゆっくりと閉じる。
「カムイは偉いです」
メルがそう小さく呟いたのを最後に、俺の意識は途絶えた。
ー*ー
(よかったです、ちゃんとやすんでくださって...)
カムイが寝ている間に、リンゴを調理する。
私ができるのがこれだけなのが、大変申し訳ない。
(カムイは喜んでくれるでしょうか?)
この場所はあの家に比べてとても静かだ。
周りに何があるのか分からない。
「うう、ん...」
「カムイ、起きましたか?」
「うん」
「あの...これ食べてください。私も食べますけど...」
テーブルにあったのは、アップルパイとアールグレイだった。
ー**ー
「ありがとう」
メルには本当に気を遣わせてばかりだ。
「いただきます」
「いただきます」
俺はその味にやはり驚いた。
「この前作ってもらって食べたときより、甘く感じるんだけど...もしかして俺の好きな味つけにしてくれたの?」
「お口に合いませんでしたか?」
「ううん、すごく嬉しい。ありがとう」
とても甘くてとろけそうだ。
この時間もこのアップルパイも...メルの笑顔も。
「片づけは俺がやっておくから、メルはゆっくりしてて?」
「ありがとうございます」
メルはバスルームに向かったようだった。
俺は食器を洗いながら今日一日のことを思い出していた。
(『大切なものを失ったときはとても疲れるもの』、か)
メルはどれだけ大切なものを失ったのだろうか。
俺も一緒に、背負うことはできるだろうか。
ー*ー
私がお風呂から出ると、カムイは本を読んでいた。
「カムイ、お風呂でました」
「ありがとう」
カムイがバスルームへと向かっていく。
私はカムイが読んでいた本を読んでみることにした。
(『むかしむかしあるところに、心の優しい農業をしている夫婦がいました』...幸せそうです)
そんなことを考えていると、ドアがノックされる。
二回...四回...二回。
「エリックさん、こんばんは。カムイはお風呂に入っているのですが...」
「中で待たせてもらっても構わないだろうか?」
「はい、勿論です」
私はアールグレイを淹れる。
(確かエリックさんはミルクティーがお好きだったはず...)
「どうぞ」
「ああ、すまない」
「急ぎの用事ですか?」
「いや、仕事の合間にきただけだ」
いつかのように、沈黙が流れる。
「エリックさん、一つ聞いてもいいですか?」
「ああ」
「エリックさんは、どうして女性が苦手なんですか?」
「それは、その...」
私は後悔した。
人には聞かれたくないことがあるのに、土足で踏みこんだような気分になったからだ。
「ごめんなさい、言いたくないなら」
「ネチネチしているやつらが嫌だからだ」
「え...?」
ー**ー
なにやら話し声が聞こえたので、俺は急いでバスルームを出る。
エリックがメルに何かを説明しているようだ。
(もしかして...)
エリックが自分から説明するのは珍しい。
「ごめん、俺に用があったんじゃない?」
「いや、仕事の合間にきただけだ」
「珍しいね、女性嫌いの理由を話すなんて」
「親友の恋人には話しておくべきだろうと思っただけだ」
律儀なところもエリックらしいと俺は思う。
「俺は、女性たちが集団で女性をリンチするという事件を担当した。その時の女性たちの言い分が、『ウザいから』だった。そんなのが一人の女性の心が壊れるまで追いこんでいい理由にはならない。それに...」
「あのお姉さんたちのこと?」
「エリックさんにはお姉様がいらっしゃるんですか?」
「そうだよ」
俺が代わりに答える。
「そのお姉さんたちが賑やかな人たちでね...。エリックに無茶なことばかり言って、困らせていたんだ。たとえばドレ...」
俺はそこまで言ったところでエリックの激しい殺気を感じて、黙ることにした。
「まあ、色々理由はあるということだ」
「お姉様、何人いらっしゃるんですか?」
「ざっと七人だ」
ー*ー
「七人⁉多いですね...」
私は驚いてしまった。
私にはよく分からないけれど、兄弟が多いというのは大変だと思う。
「俺は仕事に戻る」
「エリックさん、ありがとうございました」
「あ、ああ」
エリックさんは再び仕事へ行ってしまった。
「メル」
「なんでしょうか?」
「俺にも紅茶を淹れてくれる?」
「はい!」
カムイがいつもの調子に戻ってきているのを感じた。
カムイとエリックさんの会話を聞いていて、やはり羨ましいと思った。
(お友だちってどんな感じなのでしょうか?)
私はそんなことを考えながら、いつものように夜を過ごした。
「ちょっと滲みるよ?」
こうやってメルを手当てするのは何度めだろうか。
いつも無茶ばかりさせてしまうことを申し訳なく思う。
(メルには笑っていてほしいのに)
「カムイ...?」
メルが首を傾げている。
「ごめん、またぼーっとしてた」
するとメルは立ち上がり背伸びをして、こつんと俺の額に自らの額をあてる。
「熱があるわけではないんですね」
予想外の行動にドキドキしながら、俺はメルに心配をかけてしまったとさらに申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「ごめん、メル。メルの方が痛かったり辛い思いをしているのにね...」
「思いの重さは関係ないと思います。カムイには、少しおやすみしてほしいです。大切なものを失ったときは、とても疲れるものですから」
(メルらしい反応だな)
「ごめん、それじゃあ少しだけ寝るよ...」
俺はソファーに横になり、目をゆっくりと閉じる。
「カムイは偉いです」
メルがそう小さく呟いたのを最後に、俺の意識は途絶えた。
ー*ー
(よかったです、ちゃんとやすんでくださって...)
カムイが寝ている間に、リンゴを調理する。
私ができるのがこれだけなのが、大変申し訳ない。
(カムイは喜んでくれるでしょうか?)
この場所はあの家に比べてとても静かだ。
周りに何があるのか分からない。
「うう、ん...」
「カムイ、起きましたか?」
「うん」
「あの...これ食べてください。私も食べますけど...」
テーブルにあったのは、アップルパイとアールグレイだった。
ー**ー
「ありがとう」
メルには本当に気を遣わせてばかりだ。
「いただきます」
「いただきます」
俺はその味にやはり驚いた。
「この前作ってもらって食べたときより、甘く感じるんだけど...もしかして俺の好きな味つけにしてくれたの?」
「お口に合いませんでしたか?」
「ううん、すごく嬉しい。ありがとう」
とても甘くてとろけそうだ。
この時間もこのアップルパイも...メルの笑顔も。
「片づけは俺がやっておくから、メルはゆっくりしてて?」
「ありがとうございます」
メルはバスルームに向かったようだった。
俺は食器を洗いながら今日一日のことを思い出していた。
(『大切なものを失ったときはとても疲れるもの』、か)
メルはどれだけ大切なものを失ったのだろうか。
俺も一緒に、背負うことはできるだろうか。
ー*ー
私がお風呂から出ると、カムイは本を読んでいた。
「カムイ、お風呂でました」
「ありがとう」
カムイがバスルームへと向かっていく。
私はカムイが読んでいた本を読んでみることにした。
(『むかしむかしあるところに、心の優しい農業をしている夫婦がいました』...幸せそうです)
そんなことを考えていると、ドアがノックされる。
二回...四回...二回。
「エリックさん、こんばんは。カムイはお風呂に入っているのですが...」
「中で待たせてもらっても構わないだろうか?」
「はい、勿論です」
私はアールグレイを淹れる。
(確かエリックさんはミルクティーがお好きだったはず...)
「どうぞ」
「ああ、すまない」
「急ぎの用事ですか?」
「いや、仕事の合間にきただけだ」
いつかのように、沈黙が流れる。
「エリックさん、一つ聞いてもいいですか?」
「ああ」
「エリックさんは、どうして女性が苦手なんですか?」
「それは、その...」
私は後悔した。
人には聞かれたくないことがあるのに、土足で踏みこんだような気分になったからだ。
「ごめんなさい、言いたくないなら」
「ネチネチしているやつらが嫌だからだ」
「え...?」
ー**ー
なにやら話し声が聞こえたので、俺は急いでバスルームを出る。
エリックがメルに何かを説明しているようだ。
(もしかして...)
エリックが自分から説明するのは珍しい。
「ごめん、俺に用があったんじゃない?」
「いや、仕事の合間にきただけだ」
「珍しいね、女性嫌いの理由を話すなんて」
「親友の恋人には話しておくべきだろうと思っただけだ」
律儀なところもエリックらしいと俺は思う。
「俺は、女性たちが集団で女性をリンチするという事件を担当した。その時の女性たちの言い分が、『ウザいから』だった。そんなのが一人の女性の心が壊れるまで追いこんでいい理由にはならない。それに...」
「あのお姉さんたちのこと?」
「エリックさんにはお姉様がいらっしゃるんですか?」
「そうだよ」
俺が代わりに答える。
「そのお姉さんたちが賑やかな人たちでね...。エリックに無茶なことばかり言って、困らせていたんだ。たとえばドレ...」
俺はそこまで言ったところでエリックの激しい殺気を感じて、黙ることにした。
「まあ、色々理由はあるということだ」
「お姉様、何人いらっしゃるんですか?」
「ざっと七人だ」
ー*ー
「七人⁉多いですね...」
私は驚いてしまった。
私にはよく分からないけれど、兄弟が多いというのは大変だと思う。
「俺は仕事に戻る」
「エリックさん、ありがとうございました」
「あ、ああ」
エリックさんは再び仕事へ行ってしまった。
「メル」
「なんでしょうか?」
「俺にも紅茶を淹れてくれる?」
「はい!」
カムイがいつもの調子に戻ってきているのを感じた。
カムイとエリックさんの会話を聞いていて、やはり羨ましいと思った。
(お友だちってどんな感じなのでしょうか?)
私はそんなことを考えながら、いつものように夜を過ごした。
0
お気に入りに追加
96
あなたにおすすめの小説

【完結】あなたを忘れたい
やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。
そんな時、不幸が訪れる。
■□■
【毎日更新】毎日8時と18時更新です。
【完結保証】最終話まで書き終えています。
最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)

【完結】悪役令嬢の反撃の日々
くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

なにをおっしゃいますやら
基本二度寝
恋愛
本日、五年通った学び舎を卒業する。
エリクシア侯爵令嬢は、己をエスコートする男を見上げた。
微笑んで見せれば、男は目線を逸らす。
エブリシアは苦笑した。
今日までなのだから。
今日、エブリシアは婚約解消する事が決まっているのだから。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

貴方が側妃を望んだのです
cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。
「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。
誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。
※2022年6月12日。一部書き足しました。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
史実などに基づいたものではない事をご理解ください。
※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。
表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。
※更新していくうえでタグは幾つか増えます。
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる