路地裏のマッチ売りの少女

黒蝶

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Until the day when I get engaged.-The light which comes over darkness-

第29話

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ー**ー
「カムイ、まずは何からすればいいですか?」
メルが目をキラキラさせて俺に聞く。
「えっと、そこのボールに卵を二つ割って入れてくれる?」
「はい!」
メルは卵を器用に割る。
「そこにミルクと...今回はチーズを入れよう」
「チーズは、普通なら入れないのですか?」
「人の好みに合わせてかな」
俺の好みに合わせてしまい、申し訳なく思う。
隣で俺も自分の分を作りながら、メルにも作り方を教えていく。
「フライパンに流しこんで...」
俺は慣れているので、器用に形を整えていく。
「わあ...可愛いハートの形ですね!」
「これであとはソースをかけるんだけど、デミグラスソースでいいかな?」
「はい!」
俺は別の鍋でソースを仕上げていく。
「私も焼いてみます」
メルは火加減を見ながらやっているようだ。
だが...
「形が上手くできませんでした...」
「貸して」
俺はノーマルな楕円形のオムレツを仕上げた。
「カムイ、すごいです!」
「メル、バターを使いすぎてたみたいだよ?もう少し量を減らしたら上手く焼けると思う。形はなれかな」
「はい...」
メルはしゅんとしている。
「みんながはじめから上手にできる訳じゃないから、メルが心配することじゃないよ」
俺は自分で作ったものを、メルに差し出す。
「俺はメルが作ったのを食べたいから、交換しよう?」
メルはキラキラとした目で俺が盛りつけたオムレツを見る。
「いいんですか?」
「勿論だよ」
(実を言うと、メルに食べてほしくて作ったわけだし...)
俺は手を止め、メルの方を見る。
嬉しそうににこにこしている彼女を見ると、どうしようもなく可愛く思えて、抱きしめたくなる。
「それじゃあ食べようか」
ー*ー
「いただきます」
「いただきます」
私は一口食べて、その味に驚いた。
「美味しいです。チーズもとろりとのびて、ふわふわの卵と相性抜群です!」
「...ははっ」
(何か変なことを言ったでしょうか?)
「カムイ...私、変なこと言いましたか?」
言ったのならばすぐに取り消さなければと思いながら、カムイをじっと見る。
「いや、可愛いなって思っただけだよ」
「可愛くないです」
「可愛いよ、俺のメルは」
何度私が可愛くないと否定しても、カムイはずっと可愛いと言ってくる。
私にはその感覚がよく分からない。
私は、可愛いのだろうか。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「おやすみなさい」
「おやすみ、メル」
食器の片付けをしたあと、私たちは疲れていたのかすぐにベッドに入った。
(疲れているはずなのに、なんだか眠れません...)
私はしばらくじっとしていたが、どうしても眠ることができなかったのでリビングに行った。
(お水でも飲みましょうか)
そう考えたときに、ふとある案が閃いた。
「~♪」
よくおばあさまが歌ってくれた歌だ。
歌詞の意味もよく分からないまま、なんとか耳で聞いて覚えた音を真似しているうちに数曲覚えた。
(久しぶりに歌いました)
ひととおり歌い終え、水を飲もうとすると、後ろから声が聞こえた。
「メル、歌が上手いんだね」
ー**ー
ベッドルームにまで聞こえてくる、不思議な歌声。
俺は導かれるままに部屋を出た。
声の主は、メルだった。
「カムイ⁉ごめんなさい、起こしちゃいましたか?」
「ううん、なんだか喉が渇いたからきただけだよ」
こう言わないと、きっとメルは歌うのをやめてしまう...そう思ったので俺はそういうことにした。
「いつから聞いていらしたんですか?」
「多分はじめからかな。メルが歌が好きなのは知らなかったよ」
「私は上手でしょうか?」
「うん、すごく上手」
恐らくメルは、あまり褒められた経験がないのだろう。
俺はメルを抱きよせ、頭を優しく撫でる。
「もう少し状況が落ち着いたら、二人で歌える歌を探そう」
「いいんですか?」
「俺はメルじゃなきゃ嫌だよ。俺の方が下手だと思うけどね...」
メルの歌声は本当に神秘的で、言葉には表せないような感動があると思った。
俺はあんなふうに歌うことはできない。
(もう十二時か...)
「メル、そろそろ寝ようか」
「はい!」
ベッドルームに戻ろうとしたとき、扉がノックされる。
二回...四回...二回。エリックだ。
俺は扉を開ける。
「どうしたの、こんな夜遅くに」
「おまえの家が、まずいことになっているかもしれない」
「どういうことだ?」
俺の後ろで不安そうにしているメルの手を握る。
「明日の朝、一番に様子を見に行ってみろ。診療所は大丈夫そうだが、他は...」
俺はなんとなく何が起こったのかを直感した。
「ありがとうエリック。行ってみることにするよ」
「あの、私も一緒に行ってもいいですか?」
ダメだ、とは言えない。
「俺から離れないでね」
「はい!エリックさん、おやすみなさい」
「あ、ああ、おやすみ」
エリックは帰っていった。
次の朝、俺は馬車を呼び、それに乗って家まで帰った。
「酷い...」
その悲惨な状況に、メルは泣き出しそうな顔をしている。
「これはベンたちに頼んで修理してもらうしかなさそうだ」
数日前まで住んでいた俺の実家が、廃墟と化した状態で目の前にあった。
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