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Until the day when I get engaged.-The light which comes over darkness-
第28話
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ー**ー
隣のベッドを見ると、メルがすやすやと眠っていた。
(起こすのは可哀想だな)
俺はベッドを飛び降り、朝食を作る。
最近気づいたのが、メルはリンゴが一番好きだということ。
その他はベーコンや卵、レタスを使った料理が好みのようだ。
ハンバーグもかなり気に入ってくれたようなのでまた作りたい。
「カムイ?」
「ああメル、おはよう。ご飯できてるよ」
ー*ー
「わあ...」
ベーコンにスクランブルエッグ、レタスとコーンのサラダ...それにほかほかの食パン。
(私が好きなものばかりです)
「ありがとうございます」
「二人で暮らしてるんだから当然でしょ?今日は近くの店まで出掛けてみようか」
私はあの人に会ってしまった一件以来、外に出るのが少しだけ怖くなっていた。
「大丈夫だよ、あの人はいないから。それにいたとしても、俺が絶対に守るから」
「カムイ...」
カムイと一緒なら、頑張れる気がする。
「行きます、今日は何を買うんですか?」
「メルはパンケーキって食べたことある?」
「パンケーキ...?」
(なんでしょう?パンとケーキが合体したようなもの、ということでしょうか?)
「じゃあ今日はそれを作ろう」
「いいんですか?」
「うん。じゃあ、お昼くらいに出掛けようか」
「はい!」
二人で出掛けられるのだと思うと、私はとてもわくわくした。
ー**ー
二人で前とは少し違った道を歩いていると、見覚えのある影が二つ。
「ナタリー、ベン⁉どうしてきみたちがこっちにいるのかな?」
「カムイ!昨日家に行ったのよ?なのに誰も出ないし...だからあたしたちはこっちにきてるんじゃないかと思って探していたのよ」
「ナタリーがお嬢さんとカムイが心配だからと聞かなくて...すまねえだよ」
ベンはいつもナタリーのことで謝る。
この場合は謝る必要はないと思うのだが、彼は昔からこういう男だったと思いかえす。
「色々あって、しばらくはエリックの家の近所にいるから」
「分かった、じゃあ今度遊びにいくね!」
「扉を破壊しないならきてもいいよ」
「もうっ!あたしだってちゃんと学習」
「ナタリー、二人の邪魔になるから今日は帰るだよ」
ベンがナタリーを引きずるような形で二人は退散していく。
「お二人とも、本当に仲がいいですね」
「俺とメルも負けてないと思うよ?」
「そうでしょうか...?」
俺はメルの手を少し強引にひく。
「絶対に負けてない」
俺がそう宣言すると、メルはクスッと笑っていた。
「カムイって、負けず嫌いなんですね」
ー*ー
「そうかもしれない。メルのことになると冷静じゃいられなくなるし...」
「そうなんですか?」
カムイはいつも冷静でいるのだと思っていた。
慌てる姿を見たことがないからだ。
「俺だって、焦ることはあるよ。...着いたよ!」
そこは不思議な雰囲気がするお店だった。
「いらっしゃいませ」
店員さんの数も少なく感じた。
品物も少ないように感じる。
(これが普通なのでしょうか?)
「メル、あのミルクをとってきてくれる?」
「はい!」
持ってみると、それはずっしりと重かった。
「よいしょ...きゃっ」
転びそうになったところを唐牛でカムイに支えられる。
「ごめんね、これがすごく重いってことをすっかり忘れていたよ」
「ごめんなさい、役に立ちたかったのに逆にご迷惑を...」
ー**ー
俺は失敗したと思った。
メルには卵をとってきてもらえばよかったのだ。
「気にしないで、メルが悪い訳じゃないから...ね?」
「はい」
(大量に商品が入ったカゴも重いミルクも、女の子に持たせるものじゃないのに...)
俺は時々、メルのことを読み違えてしまう。
メルに対する態度も、メルの細かな仕草も。
今まで一度もはずしたことがなかったのに、メルのこととなると何故かはずしてしまうのだ。
昔、父が言っていたことを思い出す。
《好きな人のことは、よく分からなくなってしまうんだ。俺もお母さんのことが時々分からなくなる》
今ならその意味が分かる。
(愛が強いからこそ分からない、というやつか)
「カムイ...?」
「ごめんね、少しぼーっとしてた。会計をして帰ろうか」
「はい!」
メルはにこにこしている。
俺はこの笑顔に出会ってから、いつも心が温かくなる。
この子のためならなんでもできる気がする。
ー*ー
お会計が終わったあと、カムイが手をつないでくれる。
私たちの近くを親子連れが通った。
「ママ、僕今日はオムレツが食べたい!」
「いいわよ、今日はオムレツにしましょう!」
微笑みあう親子を見て、私は少し胸が苦しくなった。
(どうしてでしょう?いつもなら平気だったはずなのに...)
「メル?」
「いえ、なんでもありません」
「親子連れを見るのは、やっぱり辛い?」
「...少しだけ」
「ごめんメル。今日のご飯の予定は変更」
「え?」
「オムレツにしようか」
オムレツ...というものを、私は知らない。
何を使ったものなのかも全く想像がつかなかった。
「私は構いませんが...」
「じゃあ、明日のお昼にパンケーキを作ろう。卵をたくさん買ったから、オムレツも作れるよ」
「はい!」
(卵を使った料理なんですね)
私は、まだ慣れないあの場所へ早く帰りたくなった。
(カムイのお手伝い、ちゃんとできるでしょうか...?)
隣のベッドを見ると、メルがすやすやと眠っていた。
(起こすのは可哀想だな)
俺はベッドを飛び降り、朝食を作る。
最近気づいたのが、メルはリンゴが一番好きだということ。
その他はベーコンや卵、レタスを使った料理が好みのようだ。
ハンバーグもかなり気に入ってくれたようなのでまた作りたい。
「カムイ?」
「ああメル、おはよう。ご飯できてるよ」
ー*ー
「わあ...」
ベーコンにスクランブルエッグ、レタスとコーンのサラダ...それにほかほかの食パン。
(私が好きなものばかりです)
「ありがとうございます」
「二人で暮らしてるんだから当然でしょ?今日は近くの店まで出掛けてみようか」
私はあの人に会ってしまった一件以来、外に出るのが少しだけ怖くなっていた。
「大丈夫だよ、あの人はいないから。それにいたとしても、俺が絶対に守るから」
「カムイ...」
カムイと一緒なら、頑張れる気がする。
「行きます、今日は何を買うんですか?」
「メルはパンケーキって食べたことある?」
「パンケーキ...?」
(なんでしょう?パンとケーキが合体したようなもの、ということでしょうか?)
「じゃあ今日はそれを作ろう」
「いいんですか?」
「うん。じゃあ、お昼くらいに出掛けようか」
「はい!」
二人で出掛けられるのだと思うと、私はとてもわくわくした。
ー**ー
二人で前とは少し違った道を歩いていると、見覚えのある影が二つ。
「ナタリー、ベン⁉どうしてきみたちがこっちにいるのかな?」
「カムイ!昨日家に行ったのよ?なのに誰も出ないし...だからあたしたちはこっちにきてるんじゃないかと思って探していたのよ」
「ナタリーがお嬢さんとカムイが心配だからと聞かなくて...すまねえだよ」
ベンはいつもナタリーのことで謝る。
この場合は謝る必要はないと思うのだが、彼は昔からこういう男だったと思いかえす。
「色々あって、しばらくはエリックの家の近所にいるから」
「分かった、じゃあ今度遊びにいくね!」
「扉を破壊しないならきてもいいよ」
「もうっ!あたしだってちゃんと学習」
「ナタリー、二人の邪魔になるから今日は帰るだよ」
ベンがナタリーを引きずるような形で二人は退散していく。
「お二人とも、本当に仲がいいですね」
「俺とメルも負けてないと思うよ?」
「そうでしょうか...?」
俺はメルの手を少し強引にひく。
「絶対に負けてない」
俺がそう宣言すると、メルはクスッと笑っていた。
「カムイって、負けず嫌いなんですね」
ー*ー
「そうかもしれない。メルのことになると冷静じゃいられなくなるし...」
「そうなんですか?」
カムイはいつも冷静でいるのだと思っていた。
慌てる姿を見たことがないからだ。
「俺だって、焦ることはあるよ。...着いたよ!」
そこは不思議な雰囲気がするお店だった。
「いらっしゃいませ」
店員さんの数も少なく感じた。
品物も少ないように感じる。
(これが普通なのでしょうか?)
「メル、あのミルクをとってきてくれる?」
「はい!」
持ってみると、それはずっしりと重かった。
「よいしょ...きゃっ」
転びそうになったところを唐牛でカムイに支えられる。
「ごめんね、これがすごく重いってことをすっかり忘れていたよ」
「ごめんなさい、役に立ちたかったのに逆にご迷惑を...」
ー**ー
俺は失敗したと思った。
メルには卵をとってきてもらえばよかったのだ。
「気にしないで、メルが悪い訳じゃないから...ね?」
「はい」
(大量に商品が入ったカゴも重いミルクも、女の子に持たせるものじゃないのに...)
俺は時々、メルのことを読み違えてしまう。
メルに対する態度も、メルの細かな仕草も。
今まで一度もはずしたことがなかったのに、メルのこととなると何故かはずしてしまうのだ。
昔、父が言っていたことを思い出す。
《好きな人のことは、よく分からなくなってしまうんだ。俺もお母さんのことが時々分からなくなる》
今ならその意味が分かる。
(愛が強いからこそ分からない、というやつか)
「カムイ...?」
「ごめんね、少しぼーっとしてた。会計をして帰ろうか」
「はい!」
メルはにこにこしている。
俺はこの笑顔に出会ってから、いつも心が温かくなる。
この子のためならなんでもできる気がする。
ー*ー
お会計が終わったあと、カムイが手をつないでくれる。
私たちの近くを親子連れが通った。
「ママ、僕今日はオムレツが食べたい!」
「いいわよ、今日はオムレツにしましょう!」
微笑みあう親子を見て、私は少し胸が苦しくなった。
(どうしてでしょう?いつもなら平気だったはずなのに...)
「メル?」
「いえ、なんでもありません」
「親子連れを見るのは、やっぱり辛い?」
「...少しだけ」
「ごめんメル。今日のご飯の予定は変更」
「え?」
「オムレツにしようか」
オムレツ...というものを、私は知らない。
何を使ったものなのかも全く想像がつかなかった。
「私は構いませんが...」
「じゃあ、明日のお昼にパンケーキを作ろう。卵をたくさん買ったから、オムレツも作れるよ」
「はい!」
(卵を使った料理なんですね)
私は、まだ慣れないあの場所へ早く帰りたくなった。
(カムイのお手伝い、ちゃんとできるでしょうか...?)
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