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Until the day when I get engaged.-The light which comes over darkness-
第23話
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ー*ー
そんなこんなで時間は過ぎていき、あっという間に買い物に行く時間になった。
「よし、行こう!...この手を絶対に離さないから」
「はい...!」
私たちは街へと向かっていく...。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ありがとうございました!」
店員さんに笑顔を向けられて、私は思わず礼をした。
「カムイ」
「どうしたの?」
「店員さんは、みんな笑っていらっしゃるのですか?」
「...」
カムイは黙りこんでしまった。
「あの、すみません。困らせるつもりは...」
「メルはお店で買い物したの、今日がはじめて?」
「はい。おばあさまが、『嫌な思いをさせたくないから』と...。だからお留守番でした。いつも待ってたご褒美だってキャンディを買ってきてくれましたけど...」
カムイは複雑な表情を浮かべながらも、私の頭を撫でてくれた。
「じゃあ今日が、はじめての食事の買い出しの日だね」
「はい!」
「おばあさん、本当にメルのことが大好きだったんだね」
「そうだと嬉しいのですが...」
昔のことを少し思い出す。
《ごめんね、私がもっとお金持ちだったらね...。あの男からも解放してやれるのに》
《おばあさまと二人で暮らすということですか?》
《ああ。私が死んだ後が気がかりだよ...。あんな酒ばかり飲んでいる男...あの子の旦那じゃなかったら追い出してるところだよ。あの子も死んでしまったしね...。ごめんね、メル》
おばあさまは、最後まで私を心配してくれていた。
いつも笑顔で、しかし悲しそうな顔のこともあった。
おばあさまとの思い出も大切だ。
しかし...
「カムイ、行きましょう?私のせいでカムイが暗い顔をするのは嫌です」
「俺、そんな顔してた?」
「はい、してます。笑ってください」
「そうだね。早く帰ってハンバーグ作ろう」
カムイとの時間も、大切な宝物だと私は思っている。
「メル、重いから持つよ」
「でも、」
「じゃあメルは、俺から手を離さないで?」
カムイは片手で荷物を持ち、もう一方の手で私の手を繋いだ。
「...はいっ」
(なんだかぽかぽかします)
恋人になってからというもの、そのぬくもりを感じる日はさらに増えたような気がする。
カムイには、感謝したいことばかりだ。
ー**ー
家に帰って、俺は早速メルにエプロンを手渡す。
「ありがとうございます」
メルはキラキラした瞳で材料を順番に見ている。
(やっぱり可愛いな。それにしても、買い物がはじめてだったとは思わなかった)
俺はなれているのであっという間にタネを完成させた。
「カムイ、早いです!」
「作りなれてるからね」
「このあとはどうするんですか?」
メルはかなりわくわくしているようだ。
「形を作って、空気を抜いて...」
「うーん、なかなかできません」
「もう少し力を抜いて?」
メルもなれてきたところで、俺は母直伝のハンバーグを作った。
「デミグラスソースでもいいし、トマトソース、塩コショウのみでも美味しいよ?」
「えっと、茶色のソースは...」
「デミグラスソースね」
俺は一気に仕上げた。
メルにばかり家族の話をさせておいて、俺がしないのはズルいだろう...俺はそう思い、メルに話してみた。
「実は俺の母は、コックだったんだ」
「コックさんですか⁉だからカムイはお母さんに教えてもらって上手になったんですか?」
「うん。父親が仕事が忙しくて、あまり家に帰ってこられない人だったからね」
「あの、お父様は...」
「警視正だった」
「警視正?って、すごく偉い人ですよね?」
「うん、普通はあまり現場に出ないみたいだけど、俺の父は現場に出て捜査をしていたみたい」
俺は、ハートの形のハンバーグをメルの皿にのせる。
「ごめん、俺は塩コショウで食べたいからその味つけにしちゃったけど...」
「嬉しいです、ありがとうございます!カムイの子どもの頃からの味なんですか?」
「うん」
俺はどういうわけか、ソースよりも塩コショウが好きだった。
母がデミグラスソース派だったので、いつも数種類の味を用意してくれていたのを覚えている。
「羨ましいです」
(ん?何がだろう?)
「私のお母様は、私を産んで二ヶ月後に死んでしまったそうなので、お母様のお料理を食べたことがないんです」
...俺はなんで気づかなかったんだろう。
メルはいつもおばあさんの話をしても、母親の話はしなかったのに。
「じゃあ、おばあちゃんの味とかある?」
「ハニートーストを作ってくれることが多かったので、それだと思います。作り方もちゃんと覚えてます」
「それなら次は、そのハニートーストを作ろうか」
「...!はい!」
メルはにこにこしている。
「美味しいです、このハンバーグ!」
「メル、口についてるよ」
俺は手でとってやり、そのあと真新しいナプキンでふいた。
「ありがとうございます...」
少し恥ずかしそうに言うメルの隣に座り、メルの顎をくいっとあげ...
「...っ」
そのままキスを落とした。
「ごめんね。メルがあまりに可愛かったから、つい」
「ビックリしたけど、嫌じゃないです」
メルは恥ずかしそうにしながらも素直に思いを伝えてくれる。
「メル」
もう一度口付けようとしたとき、ノックされた。
(二回...四回...二回)
間違いない。
俺はドアを開ける。
「どうしたの、エリック?」
「...大変言いづらいのだが、」
「取り敢えずあがって?」
エリックの珍しく焦った様子に、ただ事ではないことを察した。
「何かあったんですか?」
メルは不安そうにしている。
「この前捕まえた二人を殴った男なんだが...無罪で釈放された」
メルが椅子ごとひっくり返る。
かなり怯えているようだった。
メルの震える身体を支えながら、俺はエリックの言葉の意味を考えていた。
(...まさか)
俺の頭にある仮説が浮かぶ。
「エリック、真実を教えてくれ。あの男が出られたのは...」
そんなこんなで時間は過ぎていき、あっという間に買い物に行く時間になった。
「よし、行こう!...この手を絶対に離さないから」
「はい...!」
私たちは街へと向かっていく...。
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「ありがとうございました!」
店員さんに笑顔を向けられて、私は思わず礼をした。
「カムイ」
「どうしたの?」
「店員さんは、みんな笑っていらっしゃるのですか?」
「...」
カムイは黙りこんでしまった。
「あの、すみません。困らせるつもりは...」
「メルはお店で買い物したの、今日がはじめて?」
「はい。おばあさまが、『嫌な思いをさせたくないから』と...。だからお留守番でした。いつも待ってたご褒美だってキャンディを買ってきてくれましたけど...」
カムイは複雑な表情を浮かべながらも、私の頭を撫でてくれた。
「じゃあ今日が、はじめての食事の買い出しの日だね」
「はい!」
「おばあさん、本当にメルのことが大好きだったんだね」
「そうだと嬉しいのですが...」
昔のことを少し思い出す。
《ごめんね、私がもっとお金持ちだったらね...。あの男からも解放してやれるのに》
《おばあさまと二人で暮らすということですか?》
《ああ。私が死んだ後が気がかりだよ...。あんな酒ばかり飲んでいる男...あの子の旦那じゃなかったら追い出してるところだよ。あの子も死んでしまったしね...。ごめんね、メル》
おばあさまは、最後まで私を心配してくれていた。
いつも笑顔で、しかし悲しそうな顔のこともあった。
おばあさまとの思い出も大切だ。
しかし...
「カムイ、行きましょう?私のせいでカムイが暗い顔をするのは嫌です」
「俺、そんな顔してた?」
「はい、してます。笑ってください」
「そうだね。早く帰ってハンバーグ作ろう」
カムイとの時間も、大切な宝物だと私は思っている。
「メル、重いから持つよ」
「でも、」
「じゃあメルは、俺から手を離さないで?」
カムイは片手で荷物を持ち、もう一方の手で私の手を繋いだ。
「...はいっ」
(なんだかぽかぽかします)
恋人になってからというもの、そのぬくもりを感じる日はさらに増えたような気がする。
カムイには、感謝したいことばかりだ。
ー**ー
家に帰って、俺は早速メルにエプロンを手渡す。
「ありがとうございます」
メルはキラキラした瞳で材料を順番に見ている。
(やっぱり可愛いな。それにしても、買い物がはじめてだったとは思わなかった)
俺はなれているのであっという間にタネを完成させた。
「カムイ、早いです!」
「作りなれてるからね」
「このあとはどうするんですか?」
メルはかなりわくわくしているようだ。
「形を作って、空気を抜いて...」
「うーん、なかなかできません」
「もう少し力を抜いて?」
メルもなれてきたところで、俺は母直伝のハンバーグを作った。
「デミグラスソースでもいいし、トマトソース、塩コショウのみでも美味しいよ?」
「えっと、茶色のソースは...」
「デミグラスソースね」
俺は一気に仕上げた。
メルにばかり家族の話をさせておいて、俺がしないのはズルいだろう...俺はそう思い、メルに話してみた。
「実は俺の母は、コックだったんだ」
「コックさんですか⁉だからカムイはお母さんに教えてもらって上手になったんですか?」
「うん。父親が仕事が忙しくて、あまり家に帰ってこられない人だったからね」
「あの、お父様は...」
「警視正だった」
「警視正?って、すごく偉い人ですよね?」
「うん、普通はあまり現場に出ないみたいだけど、俺の父は現場に出て捜査をしていたみたい」
俺は、ハートの形のハンバーグをメルの皿にのせる。
「ごめん、俺は塩コショウで食べたいからその味つけにしちゃったけど...」
「嬉しいです、ありがとうございます!カムイの子どもの頃からの味なんですか?」
「うん」
俺はどういうわけか、ソースよりも塩コショウが好きだった。
母がデミグラスソース派だったので、いつも数種類の味を用意してくれていたのを覚えている。
「羨ましいです」
(ん?何がだろう?)
「私のお母様は、私を産んで二ヶ月後に死んでしまったそうなので、お母様のお料理を食べたことがないんです」
...俺はなんで気づかなかったんだろう。
メルはいつもおばあさんの話をしても、母親の話はしなかったのに。
「じゃあ、おばあちゃんの味とかある?」
「ハニートーストを作ってくれることが多かったので、それだと思います。作り方もちゃんと覚えてます」
「それなら次は、そのハニートーストを作ろうか」
「...!はい!」
メルはにこにこしている。
「美味しいです、このハンバーグ!」
「メル、口についてるよ」
俺は手でとってやり、そのあと真新しいナプキンでふいた。
「ありがとうございます...」
少し恥ずかしそうに言うメルの隣に座り、メルの顎をくいっとあげ...
「...っ」
そのままキスを落とした。
「ごめんね。メルがあまりに可愛かったから、つい」
「ビックリしたけど、嫌じゃないです」
メルは恥ずかしそうにしながらも素直に思いを伝えてくれる。
「メル」
もう一度口付けようとしたとき、ノックされた。
(二回...四回...二回)
間違いない。
俺はドアを開ける。
「どうしたの、エリック?」
「...大変言いづらいのだが、」
「取り敢えずあがって?」
エリックの珍しく焦った様子に、ただ事ではないことを察した。
「何かあったんですか?」
メルは不安そうにしている。
「この前捕まえた二人を殴った男なんだが...無罪で釈放された」
メルが椅子ごとひっくり返る。
かなり怯えているようだった。
メルの震える身体を支えながら、俺はエリックの言葉の意味を考えていた。
(...まさか)
俺の頭にある仮説が浮かぶ。
「エリック、真実を教えてくれ。あの男が出られたのは...」
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