路地裏のマッチ売りの少女

黒蝶

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Until the day when I get engaged.-The light which comes over darkness-

第22話

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ー**ー
俺はメルから買ったマッチを使い、再び暖炉を温める。
「メル」
「はい」
紅茶を淹れて、置いてくれた彼女の手をひく。
「カムイ⁉」
「今日はここに座って?」
俺は自分の膝をぽんぽんと叩く。
ソファーの上に座り、メルの手をさらに引っ張る。
「あ、あの、カムイ...恥ずかしいです」
顔を真っ赤にしたメルが俺の方を見る。
潤んでいる瞳を見て、俺はドキドキした。
「いいから、おいで?」
メルはおずおずと俺の膝の上に座る。
俺はメルを抱きしめる。
「か、カムイっ」
「ねえ、メルのこともっと教えて。メルが好きな食べ物って何?」
「い、一度だけ食べたことがあるものがあって...」
「うん、何?」
「は、ハンバーグです」
...ハンバーグを一度しか食べていない?
子どもの頃、母に作り方を習ったのを思い出す。
《カムイ、あなたにもいつか大切な人ができるから、その時はあなたがその子の事を幸せにしてあげるのよ?》
《うん!》
《お母さんはお父さんと一緒にいられてとっても幸せなの。お父さんのお仕事は大変だけど...お母さんにはカムイもいるからとっても楽しいの!あなたも大事な人ができたら、その子のことをふわふわな気持ちにしてあげてね》
《ふわふわな気持ち?》
《ふふっ、いつか分かるわ》
あの時のハンバーグを作れば、メルはいつものようににこにこしてくれるだろうか。
「カムイ?」
「明日の夜、ハンバーグ作ろうか」
「あれって作れるんですか⁉」
「うん。作り方はちゃんと教えるから...ね?」
「でも材料が」
「明日こそ買い物をしよう?今日と時間をずらせばいいよ」
「ありがとうございます...」
メルがそばにいて、一人の時より暖炉が温かくて...こういう気持ちを『ふわふわな気持ち』というのだろうか。
(俺は平和に浸ってはいけないのに...)
メルと一緒に寝はじめてからというもの、悪夢にうなされることも少なくなった。
俺はこのぬくもりを、ずっとそばで守りたい。
「すぅ...」
いつの間にか、メルが俺にもたれかかって寝ていた。
「いい夢を」
俺もそのまま目を閉じた。
ー*ー
私はいつの間に寝てしまったのだろう。
腰のあたりを見ると、カムイにしっかり支えられていた。
(しまった、たしか昨日はカムイのお膝の上に座っていて...)
だんだん身体が熱くなっていくのを感じる。
なんとか動こうとしていると、耳許で声がした。
「んー...おはよう」
「お、おはようございます!カム...」
カムイが伸びをして自由に動けるようになった身体で私が振り返ると、カムイの頬に唇が当たってしまった。
「...!」
「ごめんなさい!」
「今のは何のプレゼントかな?」
「ごめんなさい、そんなつもりでは...」
扉が勢いよく叩かれる。
...いや、叩きすぎて破壊されてしまった。
(まさかクリスマスの時の人たちでしょうか?)
私は怖くなり、カムイにしがみついていた。
「ふたりとも、エリックに聞いて...」
ナタリーさんが玄関で固まってしまった。
「ごめんなさい!あたし、またタイミング悪くて...。でも、朝からそういうことは」
「...?そういうことってどういう意味ですか?」
「メルが知る必要はないよ。それよりナタリー...恋人同士の時間を邪魔した挙げ句、何回この家の物を壊せば気がすむのかな?」
ー**ー
「え、ドアが開いたんじゃ」
「俺たち二人しか住んでいない。そのうえ俺たちはずっとソファーにいた。なのに...鍵を閉めた扉が金具ごとはずれて開くのかな?それとも...それを開いたっていうの、ナタリーは」
(扉はボロボロ、か。早く直さないと...)
「くしゅっ」
暖炉の火はいつの間にか消えていた。
俺は着ていたジャケットをメルに着せ...
「メル、奥の部屋で着替えておいで」
「はい!」
メルは走っていってしまった。
「俺も着替えてきたいから、そこで待っててくれる?」
「ハイ」
固まったような口調のナタリーに、少し笑いをこらえながら俺も着替えに向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「おまたせ」
「ふたりとも、すまねえだよ」
遅れてきたのであろうベンが申し訳なさそうにしていた。
「気にしなくていいよ、ただ...ナタリーはもう少し力加減を覚えた方がいいね」
俺は持ってきた金具を使い、扉を直す。
「メルはまだきてない?」
「うん、まだだよ」
「お待たせしました!」
パタパタとメルは駆けてくる。
(...可愛い)
ナタリーたちがいたので言うのを控えたが、早く抱きしめてしまいたくて仕方なかった。
「昨日色々あったと聞いただか...お嬢さん、大丈夫だっただか?」
「はい!カムイが守ってくれましたから」
「でも女の子の顔に怪我させるなんて信じられない!しかもいちゃもんをつけてきたのはあっちなんでしょ?」
「それは...」
メルが困っている。なんて言おうかと迷っていると、ベンがフルーツバスケットを差し出してきた。
「カムイ、これは二人にお見舞いだよ。よくなったら、また二人で遊びにくるだよ」
「ありがとうございます!」
「ナタリー、帰るだよ」
...こういうとき、ベンの場が読めるところがすごいと俺は思う。
「ベン、ありがとう」
「普通のことをしただけだよ」
二人は配達があるからと帰っていった。
「メル、折角だから...少しだけ果物を食べる?」
「はい!」
こうして穏やかな時間が過ぎていった。
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