路地裏のマッチ売りの少女

黒蝶

文字の大きさ
上 下
56 / 220
Until the day when I get engaged.-The light which comes over darkness-

第21話

しおりを挟む
ー*ー
家にたどり着くまで、私もカムイも無言だった。
カムイが救急箱を持ってきて私の手当てをしてくれる。
「少し血が出てるね。ちょっと痛むかもしれない...痛かったら言ってね」
「っ!」
「よし、消毒終わり!じゃあこのガーゼを医療用テープで止めて...。傷そのものは深くないけど、バイ菌が入っていたりするといけないから毎日消毒させてね」
「はい...」
私は手当てをしてもらったあと、冷蔵庫から氷をとって小袋に詰める。
カムイの少し腫れてしまっている頬にあてる。
「冷たっ」
「ごめんなさい。これで腫れが...」
私が小袋を持っている方の手をカムイの手が引き離す。
「ありがとう」
カムイの手がわしゃわしゃと私の頭を撫で、カムイはキッチンに立つ。
「これだけ残っていれば大丈夫かな」
その一言を聞いて思い出す。
(そうでした、たしか夕飯の買い出しに行っていた途中だったのに...)
何も買わずに帰らざるを得ない状況にしてしまったことに対して、私はさらに申し訳なく思った。
しばらく待っていると、カムイがキッチンから戻ってくる。
「これ飲んでみて?」
私はそのスープを飲んでみる。
「美味しいです...!カボチャが入っているのですか?」
「うん。パンプキンスープだよ」
「私にも作れるでしょうか?」
「今度は一緒に作ろうね」
「はい!」
カムイがじっと私の方を見ている。
「...よかった、やっと笑ってくれた」
「あ...」
また気を遣わせてしまったのだと思うと、とても胸が苦しかった。
私は思わず立ちあがってカムイを抱きしめてしまっていた。
「わ、メル⁉」
ー**ー
急にどうしたんだろうかと思った。
「もしかして、傷が痛む?」
「カムイ...ごめんなさいっ。私は、カムイにっ、迷惑ばかりかけてっ...」
メルは泣きながら言っていたけれど、先程の事件が原因だとすぐに分かった。
俺は片手でメルが作ってくれた氷袋をもっていたので、あいている手で抱きしめかえした。
「今日のメル、すごく頑張ってたね。俺を庇って...俺のことを守ろうとしてくれた。メルが一番怖かったはずなのに、勇気を出して言ってくれたでしょ?なかなかできることじゃないよ」
「カムイ...」
「ありがとう、メル。俺はすごく嬉しかったよ。買い物にはこれからいつでも行ける。だから...メルは心配しなくていいんだよ。でも今日みたいなことをしたらメルが危ないから、次からはやめてね」
「...分かりません」
(分からない?)
俺は首をかしげた。
俺は何か、間違ったことを言ったのだろうか。
「今日も気づいたら体が動いていました。だからもし、カムイが痛い思いや辛い思いをしそうになったら...また危ないことをしてしまうかもしれません」
...純粋な、可愛らしい回答だと俺は思ってしまった。
「じゃあ...できるだけ危ないことはしないって約束して」
「はい、分かりました」
本当にメルは素直でいい子だと思う。
そんな時、突然ドアが開かれた。
(まずい、鍵を閉め忘れて...)
メルを抱きしめていた手でナイフを握り、ドアの方に向ける。
入ってきたのは...
「調書のために、話を聞きにきた」
険しい顔をした、エリックだった。
ー*ー
「エリックさん?」
「目が腫れてしまっているぞ」
「...!」
泣いていたことが一発でバレてしまった。
(流石はおまわりさんです...)
「調書ってさっきのこと?」
「ああ、落ち着く時間をあげたいから明日でいいだろうと言ったのだが、上がうるさくてな...すまない」
「俺はいいけど、メルを傷つける質問はなしだぞ?」
「ああ、もちろんだ」
カムイもエリックさんも、私に気を遣ってくれていることが分かる。
「ではまず、事件の発端についてだが...」
「それは俺が悪いんだ。いつの間にか殺気を放ってしまっていたようで...」
私とカムイは覚えていることをできるだけ答えた。
「成る程...では一応確認してくれるか?」
【調書
事件No.812   作成者:エリック警部補

メインストリートにておこった暴行事件である。被害者は少女(十六)、医師(十八)であり、加害者は少女の元・父親である。正確に言えば少女と父親は血縁関係であるが、父親は新しい家庭を持つために少女を追い出した。少女と医師は恋人関係にあり、二人は夕飯の買い物に行っていた。そこで偶然父親とその新しい家族に遭遇、父親と医師が口論になり、父親が医師の左頬を拳で殴り、軽傷を負わせた。その後、医師を庇うように少女が父親の前に立ったが力の差は歴然であった。少女は髪を引っ張られ、右頬を平手打ちされ、全治二週間の中重度の怪我を負った。カルテを証拠として提出、父親が少女に対して繰り返していた暴行についても余罪があるものとみて調査を進めることとする。
暴行の疑いについても少女についてのカルテを証拠として提出する】
僅か十分ほどでこれを完成させたエリックさんは本当にすごいと思う。
それに今更ながら私は気づいた。
「エリックさんって警部補さんなんですか⁉結構偉い人なのでは...」
「俺はそういうのは気にしないんだ。警部補って呼ばれるのはあまり好きじゃない」
「そうなんですか...」
「はい、カルテ」
カムイが十数枚のカルテをエリックさんに渡した。
「たしかに受け取った。任せろ二人とも、必ず牢の中にいれてやる」
「メルが傷つくのは嫌だからね、お願いするよ」
「あの、エリックさん。もしお時間があるのでしたら...あの人と一緒に暮らしていた女性と赤ちゃんが何もされていないのか調べていただけませんか?」
カムイとエリックは顔を見合わせた。
「メルはこんな時でも人の事が一番なんだね」
「安心しろ、俺の部下にすでに向かわせている」
「ありがとうございます」
(あの方たち、何もされてないといいですけど...)
「では邪魔したな。二人でゆっくり休め」
「うん、そうするつもりだよ」
「ありがとうございました!」
調書と証拠のカルテを持って、エリックさんは行ってしまった。
「ねえ、メル。紅茶を淹れてもらってもいいかな?気分転換に少しだけお話しようか」
カムイの気遣いは本当にありがたい。
「はい!」
私ははりきってアールグレイを淹れた。
しおりを挟む
感想 76

あなたにおすすめの小説

【完結】で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?

Debby
恋愛
キャナリィ・ウィスタリア侯爵令嬢とクラレット・メイズ伯爵令嬢は困惑していた。 最近何故か良く目にする平民の生徒──エボニーがいる。 とても可愛らしい女子生徒であるが視界の隅をウロウロしていたりジッと見られたりするため嫌でも目に入る。立場的に視線を集めることも多いため、わざわざ声をかけることでも無いと放置していた。 クラレットから自分に任せて欲しいと言われたことも理由のひとつだ。 しかし一度だけ声をかけたことを皮切りに身に覚えの無い噂が学園内を駆け巡る。 次期フロスティ公爵夫人として日頃から所作にも気を付けているキャナリィはそのような噂を信じられてしまうなんてと反省するが、それはキャナリィが婚約者であるフロスティ公爵令息のジェードと仲の良いエボニーに嫉妬しての所業だと言われ── 「私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」 そう問うたキャナリィは 「それはこちらの台詞だ。どうしてエボニーを執拗に苛めるのだ」 逆にジェードに問い返されたのだった。 ★★★ 覗いて頂きありがとうございます 全11話、10時、19時更新で完結まで投稿済みです

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています

平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。 生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。 絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。 しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。 *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。

結界魔法しか使えない役立たずの聖女と言うなら国を見捨てることにします

黒木 楓
恋愛
 伯爵令嬢の私ミーシアは、妹のミリザに従う日々を送っていた。  家族はミリザを溺愛しているから、私を助ける人はいない。  それでも16歳になって聖女と判明したことで、私はラザン王子と婚約が決まり家族から離れることができた。  婚約してから2年が経ち、ミリザが16歳となって聖女と判明する。  結界魔法しか使えなかった私と違い、ミリザは様々な魔法が使えた。 「結界魔法しか使えない聖女は役立たずだ。俺はミリザを王妃にする」  婚約者を変えたいラザン王子の宣言と人々の賛同する声を聞き、全てが嫌になった私は国を見捨てることを決意する。  今まで国が繁栄していたのは私の結界があったからなのに、国の人達はミリザの力と思い込んでいた。

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

処理中です...