路地裏のマッチ売りの少女

黒蝶

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Until the day when I get engaged.-The light which comes over darkness-

第20話

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ー*ー
「お待たせしました」
入浴を済ませ着替えを済ませてきた私に、カムイがそっと首に温かいものを巻きつける。
「湯冷めしちゃうといけないし...マフラーして?」
(これは、マフラーというものなんですね)
「はい!」
首許がとても温かくなった。
「それじゃあ行こうか」
カムイが手を差しのべてくれる。
「...っ」
私は恥ずかしながらもその手を握った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「クリスマスも年明けも過ぎたのに、町の人たちはとても賑やかにしてますね」
毎年疑問に思っていたことだ。
「ああ、二月にバレンタインというものがあるんだよ。早い人はこれから準備するし、お店の人たちもやる気満々なんだ」
「バレンタイン、ですか?」
何をする日なのだろうか。
様々な行事が行われていることを、私は初めて知った。
(クリスマスと年明け以外、知りませんでした)
全部カムイのお陰だと思うと、カムイの力になりたいという気持ちが強くなる。
「好きな人やお世話になった人に、チョコレートをあげる日だよ。日頃の感謝を伝える日でもあるかな」
「あげるのはチョコレート以外でもいいんですか?」
「うん、それは人それぞれ。花束だったり帽子だったり、お菓子じゃないものをあげる人もいるよ」
「そうなんですか...」
(ナタリーさんに相談してみましょう。リンゴを使ったお料理だけでもいいですけど...でも、ナタリーさんのお店でしばらく働かせてもらえたらお金が手に入ります。そうしたらナタリーさんのお店でカムイが欲しそうなものを買って...)
色々な想像をしながら、ふと顔をあげる。
すると目に飛びこんできたのは、見たくもなかった光景だった。
...心のどこかで分かっていた。
いつかこうなるのではないかということは。
でもやはり、現実を直視すると...
「メル?」
気づいたらカムイにしがみついてしまっていた。
「ごめんなさい、なんでも...」
ありません、と続ける前に、カムイは私が見ていた方向を見て固まっていた。
「なんであんなことができるんだよ...」
ー**ー
目の前でおこっていたのは、
「いい子だなあ、あいつとは全然違うよ」
何も知らないであろう一歳くらいの子どもは、無邪気におもちゃで遊んでいる。
「あなた、何を思い出してるのよ」
「悪い悪い、本当に帰ってきちまったらどうしようかと思ってよお。ま、売れるわけないがな、あの量のマッチは」
がはははは、と男は笑っている。
そのあと、隣の女とキスをしていた。
そんな様子を見たメルは、俺の後ろで震えている。
(一度見ただけだが、見間違えるはずがない)
「ひ、ひいっ!なんだ若い衆、俺らは夫婦だぞ?べ、別に街中でいちゃついてもいいだろ!」
...どうやら俺は無意識のうちに殺気を放っていたらしい。
(気づかれてしまったならしかたない)
「メル、俺の後ろでじっとしててね」
俺はメルを後ろに隠しながら、俺より背の低い彼女の方を見る。
メルは小さく頷いた。
「あんたの問題は、いちゃついてることじゃない。...自分の娘に暴力をふるったことだ」
「なんだと⁉」
「あんなに寒い日に、あんな薄い服一枚しか与えず、あんたは家でのうのうと酒を飲んでたんだろ?おめでたいな」
「おまえ、どこまで知ってる?」
「全部だよ、ぜ・ん・ぶ」
俺は一応、あの日...高熱で倒れたメルを家に連れ帰った日のカルテを作成していた。
酷い痣に、水ぶくれ...それにしもやけと凍傷。
何故水ぶくれがあったのかは分からない。
分からないが、何をされたのかはだいたい想像がつく。
「なああんた、実の娘が勇気を出して手紙を書いたのに、読まずに破り捨てたよな?その子どもは恐らく、彼女が家を出てからできた子どもだ。あんたはあの子を追い出したかっただけ。その女と、結婚するために」
「さっきから黙って聞いてりゃあふざけやがって!」
俺はその拳を避けることもできた。
しかしここはあえて、殴られることにした。
「...っ」
「カムイ!」
(しまった、メルに声をあげないでって言うのを忘れてた!)
ー*ー
本当の事を言うと、かなり怖い。
(大丈夫、大丈夫です...)
自分にそう言い聞かせ、カムイの前に立った。
「おまえは!何故生きている?」
「これ以上カムイのことを傷つけるつもりなら許しません!」
今にも逃げ出しそうになるのをこらえながら、私はカムイを庇うように血の繋がりだけが一応ある父親...父親だった人の前にいる。
「何故生きていると聞いているんだ!死ね!死ね!」
髪を引っ張られ、頬を殴られる。
「メル!俺のことはいいからさがってて!」
「嫌です!カムイはいつも私のことを守ってばっかりで...だから、私だってカムイを守りたいんです!」
「親に向かってその口の聞き方はなんだ、その口の聞き方はあ⁉」
(また殴られます...!)
しかしその手がとんでくることはなかった。
「...この手は使いたくなかったけど、仕方ないね」
カムイが私の父親だった人の後ろに回って、手を押さえていた。
「あ、そこの巡回のおまわりさん!この人、暴行の現行犯です!」
カムイが精いっぱい大声で叫ぶ。
「なんだと⁉ちょっと署まできてもらおうか」
「おい何をする、おい!」
目の前の人は、おまわりさんにどこかへ連れていかれた。
「カムイ」
「メル、今日は帰ろうか。また別の日にお買い物にこよう?」
「はい...」
遠くで見ていた女性と赤子はいつのまにかいなくなっていた。
(私のせいで、カムイが怪我をしてしまいました...)
「帰ってから手当てするね」
優しく手を握ってくれるカムイに私は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
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