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Until the day when I get engaged.-The light which comes over darkness-
第18話
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ー*ー
三人を見送ったあと、カムイが私の方に向き直る。
「まずは後片づけだね」
「はい」
二人で食器を洗う。
「メル、手が悴んだりしてない?」
「はい、大丈夫です」
(とても不思議です)
この時季は、いつもなら寒かった。
手が凍りそうになりながら、薄い服一枚でマッチを売っていたからだ。
(今だって冷たいはずなのに、全然冷たくないです)
今はカムイがいるからなのか、不思議と寒くなかった。
カムイが後ろから手を添えてくれる。
「ほら、こんなに冷たくなって...。ここからは役割交代ね」
「あ...」
カムイは私が洗っていたお皿とスポンジをとり、代わりに布巾を渡してくる。
「これで食器を拭いてくれる?」
「はい!」
私ははりきって食器ふきに励んだ。
ー**ー
「カムイ!次は何をしましょうか?」
「そうだね...じゃあ次は、テーブルを拭いてもらってもいいかな?」
「はい!」
「もう少しで食器を洗い終わるから、そうしたら...二人でお祝いしようか」
「は、はい」
メルが少し緊張したように答える。
その姿が可愛らしくて、俺はつい、メルの方ばかりを見てしまう。
「あ、カムイ」
「どうしたの?」
メルは俺の頬に手を伸ばし...
「パンくずがついてましたよ」
にこにこしながら俺の顔を見る。
(...ダメだ、抱きしめたい)
「ありがとう」
俺はいつもどおりのふりをしてメルに答える。
メルはさらに頬を緩ませている。
(本当に可愛い)
「よし、終わり」
「カムイ、早いです...」
「メルだって早かったよ」
「そうでしょうか」
「手伝ってくれてありがとう」
俺はメルの頭をくしゃっと撫でる。
こういう時にメルが嬉しそうにしてくれるのが、愛しくてたまらない。
こういう気持ちを、どう伝えればいいのだろう?
ー*ー
「それじゃあ...はい」
「これって、」
「これはミルフィーユというんだ。サクサクだよ」
私が知らない料理がよく出る。
(ミルフィーユ...今日は色々な食べ物が出てきます)
「美味しいです...!」
「それはよかった」
「アールグレイを淹れますね」
「ありがとう」
最近になって気づいたことがある。
カムイは紅茶のなかでもアールグレイに砂糖は二つ、ミルクはいれないというのが好みらしい。
「そういえば、メル」
「なんでしょう?」
「メルは紅茶に詳しいよね?どうしてなのか、聞いてもいいかな?」
「昔、おばあさまが教えてくださったんです。女の子はやっぱり料理や紅茶の淹れ方に美しさがあらわれるから、しっかり覚えておきなさいって...」
「おばあさんのこと、大切だったんだね」
「はい」
もうおばあさまはいない。
しかし、おばあさまの教えは私のなかで生きている。
《いつか好きな人ができたら、私にも紹介しておくれ。私が長生きできたら、文字や数字、計算...家事全般以外のことも教えられるのにねえ》
そう言いながら悲しそうにしていたのを今でも覚えている。
(もしかするとおばあさまは、自分が長く生きられないことを知っていたのでしょうか)
「メル?大丈夫?」
「はい、少しだけ昔のことを思い出しただけです」
(そうだ、こんなことを頼んでいいのか分かりませんが...)
「カムイ、お願いがあります」
「うん...どうしたの?」
「おばあさまのお墓に行きたいんです」
「俺も行っていいの?」
「はい、カムイのことを紹介したくて...」
「いいよ、準備しておいで?今から行こう」
(私は本当にいい人に巡り会えました)
ミルフィーユを持っていくわけにはいかないので、クッキーを持っていくことにした。
「それじゃあ行こうか」
「はい!」
ー**ー
ふわふわのコートを着て、眼帯をつけて...メルは可愛らしい服装だった。
メルのおばあさんのお墓は山奥にあるらしく、なかなかたどり着かない。
「ここです!」
綺麗に手入れしている人がいたのか、墓のまわりはピカピカだった。
(メルが掃除していたのか)
お墓についてから、メルは眼帯をはずした。
オッドアイのつぶらな瞳がお墓に向けられる。
「花束...は用意できなかったので、おばあさまが教えてくれた雑草を持ってきました」
メルは必死に話しかけている。
「今日は、私の恋人を紹介しにきたんですよ。とっても優しくて、かっこいい人です」
本人が近くにいるのも忘れて、メルは必死に話しかけている。
「こんにちは、メルのおばあさん。俺はカムイといいます。メルのことは俺が守ります。だから心配しないでください」
「カムイ...恥ずかしいです」
メルはにこにこしている。
「だって、メルを守るというのは本当だから」
「カムイ...」
「この場所を綺麗にしたのも、メルなんでしょ?」
「はい、一応は...」
「やっぱりメルはすごいよ」
メルが眼帯をつけ直したのを見て、俺はメルの手をとり山を降りようとしたが、俺は一度ふりかえり、
「またきます」
と言ってみた。何故言ったのかは分からない。
急に言いたくなったのだ。
その時、まるでありがとうとでも言うように、温かな風が枯れ葉を空高く舞わせた。
三人を見送ったあと、カムイが私の方に向き直る。
「まずは後片づけだね」
「はい」
二人で食器を洗う。
「メル、手が悴んだりしてない?」
「はい、大丈夫です」
(とても不思議です)
この時季は、いつもなら寒かった。
手が凍りそうになりながら、薄い服一枚でマッチを売っていたからだ。
(今だって冷たいはずなのに、全然冷たくないです)
今はカムイがいるからなのか、不思議と寒くなかった。
カムイが後ろから手を添えてくれる。
「ほら、こんなに冷たくなって...。ここからは役割交代ね」
「あ...」
カムイは私が洗っていたお皿とスポンジをとり、代わりに布巾を渡してくる。
「これで食器を拭いてくれる?」
「はい!」
私ははりきって食器ふきに励んだ。
ー**ー
「カムイ!次は何をしましょうか?」
「そうだね...じゃあ次は、テーブルを拭いてもらってもいいかな?」
「はい!」
「もう少しで食器を洗い終わるから、そうしたら...二人でお祝いしようか」
「は、はい」
メルが少し緊張したように答える。
その姿が可愛らしくて、俺はつい、メルの方ばかりを見てしまう。
「あ、カムイ」
「どうしたの?」
メルは俺の頬に手を伸ばし...
「パンくずがついてましたよ」
にこにこしながら俺の顔を見る。
(...ダメだ、抱きしめたい)
「ありがとう」
俺はいつもどおりのふりをしてメルに答える。
メルはさらに頬を緩ませている。
(本当に可愛い)
「よし、終わり」
「カムイ、早いです...」
「メルだって早かったよ」
「そうでしょうか」
「手伝ってくれてありがとう」
俺はメルの頭をくしゃっと撫でる。
こういう時にメルが嬉しそうにしてくれるのが、愛しくてたまらない。
こういう気持ちを、どう伝えればいいのだろう?
ー*ー
「それじゃあ...はい」
「これって、」
「これはミルフィーユというんだ。サクサクだよ」
私が知らない料理がよく出る。
(ミルフィーユ...今日は色々な食べ物が出てきます)
「美味しいです...!」
「それはよかった」
「アールグレイを淹れますね」
「ありがとう」
最近になって気づいたことがある。
カムイは紅茶のなかでもアールグレイに砂糖は二つ、ミルクはいれないというのが好みらしい。
「そういえば、メル」
「なんでしょう?」
「メルは紅茶に詳しいよね?どうしてなのか、聞いてもいいかな?」
「昔、おばあさまが教えてくださったんです。女の子はやっぱり料理や紅茶の淹れ方に美しさがあらわれるから、しっかり覚えておきなさいって...」
「おばあさんのこと、大切だったんだね」
「はい」
もうおばあさまはいない。
しかし、おばあさまの教えは私のなかで生きている。
《いつか好きな人ができたら、私にも紹介しておくれ。私が長生きできたら、文字や数字、計算...家事全般以外のことも教えられるのにねえ》
そう言いながら悲しそうにしていたのを今でも覚えている。
(もしかするとおばあさまは、自分が長く生きられないことを知っていたのでしょうか)
「メル?大丈夫?」
「はい、少しだけ昔のことを思い出しただけです」
(そうだ、こんなことを頼んでいいのか分かりませんが...)
「カムイ、お願いがあります」
「うん...どうしたの?」
「おばあさまのお墓に行きたいんです」
「俺も行っていいの?」
「はい、カムイのことを紹介したくて...」
「いいよ、準備しておいで?今から行こう」
(私は本当にいい人に巡り会えました)
ミルフィーユを持っていくわけにはいかないので、クッキーを持っていくことにした。
「それじゃあ行こうか」
「はい!」
ー**ー
ふわふわのコートを着て、眼帯をつけて...メルは可愛らしい服装だった。
メルのおばあさんのお墓は山奥にあるらしく、なかなかたどり着かない。
「ここです!」
綺麗に手入れしている人がいたのか、墓のまわりはピカピカだった。
(メルが掃除していたのか)
お墓についてから、メルは眼帯をはずした。
オッドアイのつぶらな瞳がお墓に向けられる。
「花束...は用意できなかったので、おばあさまが教えてくれた雑草を持ってきました」
メルは必死に話しかけている。
「今日は、私の恋人を紹介しにきたんですよ。とっても優しくて、かっこいい人です」
本人が近くにいるのも忘れて、メルは必死に話しかけている。
「こんにちは、メルのおばあさん。俺はカムイといいます。メルのことは俺が守ります。だから心配しないでください」
「カムイ...恥ずかしいです」
メルはにこにこしている。
「だって、メルを守るというのは本当だから」
「カムイ...」
「この場所を綺麗にしたのも、メルなんでしょ?」
「はい、一応は...」
「やっぱりメルはすごいよ」
メルが眼帯をつけ直したのを見て、俺はメルの手をとり山を降りようとしたが、俺は一度ふりかえり、
「またきます」
と言ってみた。何故言ったのかは分からない。
急に言いたくなったのだ。
その時、まるでありがとうとでも言うように、温かな風が枯れ葉を空高く舞わせた。
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