路地裏のマッチ売りの少女

黒蝶

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Until the day when Christmas comes.

第10話

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ー*ー
それからあっという間にカムイとの約束の日になった。
(綺麗です!)
丸いボールの飾りにてっぺんの星、リンゴの形の飾り...。
「あの...クリスマスツリーって、どうやって飾りつけるんですか?」
「それは、飾る人が決めていいんだよ。どこに何を飾るとか決まってないから...てっぺんの星以外はね。メルがしたいようにしてごらん?」
「えっと...」
(こういうとき、どうすればいいのでしょうか?)
町のツリーのようには飾れない。
でも、カムイに喜んでほしい。
「ほら、俺も一緒にやるから...ね?」
カムイは私にリンゴの飾りを差し出す。
「はい!」
ー**ー
一人で住みだしてからは、クリスマスツリーなんて飾ろうとも思わなかった。
「だんだん綺麗になってきましたね」
にこにこしてメルが言う。
「そうだね」
久しぶりに出したせいかとても汚れているように見えたツリーは、今や新品同然の光を放っている。
眼を閉じると、少しだけ昔の記憶が甦ってくる。
《父さん!母さん!とっても楽しいね》
《それはよかったわね、カムイ》
《よし、お父さんが肩車してあげよう。てっぺんのお星さまは、カムイがつけてくれるんだろう?》
「カムイ...?」
(しまった、柄にもなく昔の話を思い出してしまった)
「なんでもないよ」
...俺はこのとき、笑えていただろうか。
ー*ー
カムイの様子がおかしいのは分かったが、私はどんどん渡されていく飾りを飾っていた。
(あとで聞いてみましょう)
「これで終わりかな」
その飾りは、布でできたものだった。
赤い服を着た、髭の生えたおじいさんのマスコット...。
「あの、カムイ」
「何?どうしたの?」
「このおじいさんは、なんていうお名前なのですか?」
「...サンタクロース、知らない?」
(サンタクロースさん...?)
「すいません、分かりません...」
「サンタクロースは、いい子にしてたらプレゼントをくれるおじさんのことだよ」
カムイは一枚の絵を見せてくれる。
「この茶色い方たちは...」
「トナカイっていうんだ。魔法のそりで空を飛んで、プレゼントを運んでくれるらしいよ」
「そうなんですか?知りませんでした...。私はいい子じゃなかったから、プレゼントをもらえなかったのでしょうか?」
マッチを売れなかったからだろうか?
色々考えていると、カムイがくすりと笑って私の頭をくしゃりと撫でる。
「サンタクロースは、迷信だよ。いたらいいねっていう話。メルはいい子だから...俺がプレゼントをあげよう」
「いえ、そんなの申し訳ないです...!」
私は何もできていないのに。
「さあ、飾りはこれで終わりだ。最後はモールを飾って...」
(モール?)
「メル!この端っこ、持っててくれる?」
「はい!」
カムイがツリーのまわりを一、二周すると、綺麗にモールがかかった。
「わあ...雪みたいです!」
「そうだね」
カムイが少し苦しげな表情でツリーを見ている。
(今なら話してくださるでしょうか?)
「あの、カムイ...」
「何?」
ナタリーさんが新しい椅子を持ってきてくれるまでのかわりに置いている、黒いソファーに腰掛けて、カムイは真剣な顔で聞き返してくる。
「ツリーには、嫌な思い出があるのですか?」
「え?」
「何かあるなら、ちゃんと話してほしいのです...。私だけ聞いてもらってばかりでは悪いのです」
私は、カムイのことを知りたい。
ー**ー
「取り敢えず、座って?」
メルの真剣な表情を目の前にして、俺は答えないという選択ができなかった。
「...小さい頃、まだ両親が生きていた頃にこうしてツリーを囲んで楽しく話したことがあったんだ。それを思い出しただけだよ」
「...それだけではないのでは?」
メルはおっとりしているようでとても鋭い。
「俺がどんな話をしても、メルは聞いていられるの?」
「はい、カムイの話なら最後までちゃんと聞きます」
俺はそのまっすぐな瞳にどうしたらいいのか分からなくなった。
「聞いて、後悔しない?」
「はい」
「さっきの話...両親が死ぬ、数日前の出来事なんだ」
「ご両親がお亡くなりになられたのですか?」
「うん。それに普通の死に方じゃない。...殺されたんだ」
「...!」
「ガラの悪いマフィアに目をつけられて...殺された。次の日、父と母の折り重なる遺体を見て、俺は今の仕事を選ぼうと思ったんだ。守れなかったものを、守るために」
メルは俯いてしまった。
(しまった、重い話をしてしまった)
「メル...ごめんね、こんな話をして。すぐに紅茶を淹れるから、」
そう言って立ち上がろうとしたとき、メルが俺の隣にいて...いつの間にかその俺よりも小さな身体に抱きしめられていた。
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