40 / 220
Until the day when Christmas comes.
第9話
しおりを挟む
ー*ー
ナタリーさんが泣き止んだのを見て、カムイがドアの方を見て優しい声音で言う。
「ナタリー、お迎えだ」
「遅いからきちまっただよ」
扉の方を見ると、立っていたのはベンさんだった。
「ベン...」
「おいら、何も見てなかっただが、何かあっただか?」
「ナタリーがいつもの調子で馬鹿力を発揮してうちの椅子を壊しただけだよ」
カムイがからっと言うと、ナタリーさんも続けて言う。
「そうよ、馬鹿力で壊しちゃったの!新しいのを持ってこないとね」
「そうだっただか!二人とも、申し訳ないだよ」
「いえ、私はナタリーさんと色々なお話ができて楽しかったです」
私は素直な気持ちを伝えた。
「またナタリーの相手をしてやってほしいだか」
「その前に...ベン。メルの眼のことを他の人に話さないでくれるかな?彼女なりに事情があるんだ」
「それはすまなかっただ...。お嬢さん、本当にすまなかっただ」
大男のベンさんが頭を下げる。
「気にしないでください」
(知らなかったのだから仕方ありません)
「椅子、早めによろしくね」
「了解だよ」
「ナタリーさん、またお話ししましょうね」
「うん!」
ナタリーさんは少しだけ元気を取り戻したようだ。
...二人を玄関で見送ってふと空を見あげたとき、夜になったのだとはじめて気づいた。
ー**ー
俺は少し弱々しく見えるメルを見て、つい抱きしめてしまった。
「カムイ...?」
「お疲れ様。頑張ったね」
「そんなことは...」
「ね?メルの瞳、綺麗だって思ってるの俺だけじゃなかったでしょ?」
「...はい」
照れくさそうにしているメルを見て、好きだと言ってしまいそうになる。
「でも、まだ外で瞳を出して歩きたくないと思ってる。...あたり?」
「どうして、分かったんですか?」
「メルのことなら分かるよ。でも今は、それでいいと思うよ。俺には瞳を見せてくれている。今はそれだけで充分だよ。ゆっくりでいいから、いつか外を眼帯なしで歩けるといいね」
メルのさらさらな髪を梳く。
「はい...!」
メルの身体が震えた。
「そろそろ中に入ろうか。今日は星が綺麗だけど...」
「窓から見えますかね?」
「見えるよ、きっと」
メルの手をひき、扉を閉じた。
...このまま二人で、ずっといたい。
ー*ー
「あの、カムイ...夕飯はどうしましょうか?」
「アップルパイが食べたいな」
(アップルパイ...)
リンゴを使った料理は基本的に作れる。
だから私は、アップルパイを仕上げた。
「メル、料理人になれそうだね」
「ええ⁉そんなことないです!」
「ほら、メルも見てないで食べてみなよ」
目の前に突きだされたフォークを口に入れる。
「...美味しいと思います、多分」
「どうしたの?顔真っ赤にして...」
「カムイは時々意地悪です」
「ごめんごめん。可愛い子がいると、ついね」
「可愛いってあんまり言わないでください...」
褒められなれていないからなのか、カムイに言われたからなのか...『可愛い』と言われると照れてしまう。
「可愛いから、仕方ないでしょ?」
「それなら、カムイはカッコいいです」
「え、」
(動揺してるのでしょうか...?)
「カムイは、カッコいいでふっ⁉」
アップルパイを口に入れられ、喋ることができなくなってしまった。
「そんなに可愛い声であんまり言わないで...」
カムイの顔が赤くなっているように見えた。
(...どうしてこんなに緊張してしまうのでしょうか)
おばあさまに言われた言葉を思い出す。
《メル、男の人に対して一緒にいたいだとか安心するだとか...そういう感情が芽生えたら、それはきっと恋だよ》
...この感情は、恋なのだろうか。
ー**ー
「メル」
「はっ、はい!」
(なにか緊張してる?)
「これ、新しい眼帯を買うまではこれで我慢してくれる?」
それは、医療用眼帯だった。
「いただいてしまってもいいんですか?」
「うん、勿論だよ」
「これで一緒にお出掛けできますね!」
メルは嬉しそうに眼帯を手に持っている。
「そうだね。次は公園とか行ってみるのもいいかもしれないね」
「はい!とても楽しみです!」
メルのわくわくしたような顔は少しだけ子どもらしかった。
(そういう顔を、ずっと見ていたい)
「メル、明後日くらいにクリスマスツリーを出すから...手伝ってくれる?」
「はい、勿論です」
「じゃあそれまでは、ご飯をよろしくね」
「他にお手伝いできることは...」
「いい子でお留守番してて?」
メルは少し頬を膨らませる。
「そこまで子どもじゃないです...」
「ははっ、そうだね。じゃあ家を任せるね」
「はい」
月明かりに照らされて、メルが可憐に微笑んでいた。
ナタリーさんが泣き止んだのを見て、カムイがドアの方を見て優しい声音で言う。
「ナタリー、お迎えだ」
「遅いからきちまっただよ」
扉の方を見ると、立っていたのはベンさんだった。
「ベン...」
「おいら、何も見てなかっただが、何かあっただか?」
「ナタリーがいつもの調子で馬鹿力を発揮してうちの椅子を壊しただけだよ」
カムイがからっと言うと、ナタリーさんも続けて言う。
「そうよ、馬鹿力で壊しちゃったの!新しいのを持ってこないとね」
「そうだっただか!二人とも、申し訳ないだよ」
「いえ、私はナタリーさんと色々なお話ができて楽しかったです」
私は素直な気持ちを伝えた。
「またナタリーの相手をしてやってほしいだか」
「その前に...ベン。メルの眼のことを他の人に話さないでくれるかな?彼女なりに事情があるんだ」
「それはすまなかっただ...。お嬢さん、本当にすまなかっただ」
大男のベンさんが頭を下げる。
「気にしないでください」
(知らなかったのだから仕方ありません)
「椅子、早めによろしくね」
「了解だよ」
「ナタリーさん、またお話ししましょうね」
「うん!」
ナタリーさんは少しだけ元気を取り戻したようだ。
...二人を玄関で見送ってふと空を見あげたとき、夜になったのだとはじめて気づいた。
ー**ー
俺は少し弱々しく見えるメルを見て、つい抱きしめてしまった。
「カムイ...?」
「お疲れ様。頑張ったね」
「そんなことは...」
「ね?メルの瞳、綺麗だって思ってるの俺だけじゃなかったでしょ?」
「...はい」
照れくさそうにしているメルを見て、好きだと言ってしまいそうになる。
「でも、まだ外で瞳を出して歩きたくないと思ってる。...あたり?」
「どうして、分かったんですか?」
「メルのことなら分かるよ。でも今は、それでいいと思うよ。俺には瞳を見せてくれている。今はそれだけで充分だよ。ゆっくりでいいから、いつか外を眼帯なしで歩けるといいね」
メルのさらさらな髪を梳く。
「はい...!」
メルの身体が震えた。
「そろそろ中に入ろうか。今日は星が綺麗だけど...」
「窓から見えますかね?」
「見えるよ、きっと」
メルの手をひき、扉を閉じた。
...このまま二人で、ずっといたい。
ー*ー
「あの、カムイ...夕飯はどうしましょうか?」
「アップルパイが食べたいな」
(アップルパイ...)
リンゴを使った料理は基本的に作れる。
だから私は、アップルパイを仕上げた。
「メル、料理人になれそうだね」
「ええ⁉そんなことないです!」
「ほら、メルも見てないで食べてみなよ」
目の前に突きだされたフォークを口に入れる。
「...美味しいと思います、多分」
「どうしたの?顔真っ赤にして...」
「カムイは時々意地悪です」
「ごめんごめん。可愛い子がいると、ついね」
「可愛いってあんまり言わないでください...」
褒められなれていないからなのか、カムイに言われたからなのか...『可愛い』と言われると照れてしまう。
「可愛いから、仕方ないでしょ?」
「それなら、カムイはカッコいいです」
「え、」
(動揺してるのでしょうか...?)
「カムイは、カッコいいでふっ⁉」
アップルパイを口に入れられ、喋ることができなくなってしまった。
「そんなに可愛い声であんまり言わないで...」
カムイの顔が赤くなっているように見えた。
(...どうしてこんなに緊張してしまうのでしょうか)
おばあさまに言われた言葉を思い出す。
《メル、男の人に対して一緒にいたいだとか安心するだとか...そういう感情が芽生えたら、それはきっと恋だよ》
...この感情は、恋なのだろうか。
ー**ー
「メル」
「はっ、はい!」
(なにか緊張してる?)
「これ、新しい眼帯を買うまではこれで我慢してくれる?」
それは、医療用眼帯だった。
「いただいてしまってもいいんですか?」
「うん、勿論だよ」
「これで一緒にお出掛けできますね!」
メルは嬉しそうに眼帯を手に持っている。
「そうだね。次は公園とか行ってみるのもいいかもしれないね」
「はい!とても楽しみです!」
メルのわくわくしたような顔は少しだけ子どもらしかった。
(そういう顔を、ずっと見ていたい)
「メル、明後日くらいにクリスマスツリーを出すから...手伝ってくれる?」
「はい、勿論です」
「じゃあそれまでは、ご飯をよろしくね」
「他にお手伝いできることは...」
「いい子でお留守番してて?」
メルは少し頬を膨らませる。
「そこまで子どもじゃないです...」
「ははっ、そうだね。じゃあ家を任せるね」
「はい」
月明かりに照らされて、メルが可憐に微笑んでいた。
0
お気に入りに追加
96
あなたにおすすめの小説
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
モブ転生とはこんなもの
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。
乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。
今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。
いったいどうしたらいいのかしら……。
現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。
どうぞよろしくお願いいたします。
他サイトでも公開しています。
私は家のことにはもう関わりませんから、どうか可愛い妹の面倒を見てあげてください。
木山楽斗
恋愛
侯爵家の令嬢であるアルティアは、家で冷遇されていた。
彼女の父親は、妾とその娘である妹に熱を上げており、アルティアのことは邪魔とさえ思っていたのである。
しかし妾の子である意網を婿に迎える立場にすることは、父親も躊躇っていた。周囲からの体裁を気にした結果、アルティアがその立場となったのだ。
だが、彼女は婚約者から拒絶されることになった。彼曰くアルティアは面白味がなく、多少わがままな妹の方が可愛げがあるそうなのだ。
父親もその判断を支持したことによって、アルティアは家に居場所がないことを悟った。
そこで彼女は、母親が懇意にしている伯爵家を頼り、新たな生活をすることを選んだ。それはアルティアにとって、悪いことという訳ではなかった。家の呪縛から解放された彼女は、伸び伸びと暮らすことにするのだった。
程なくして彼女の元に、婚約者が訪ねて来た。
彼はアルティアの妹のわがままさに辟易としており、さらには社交界において侯爵家が厳しい立場となったことを伝えてきた。妾の子であるということを差し引いても、甘やかされて育ってきた妹の評価というものは、高いものではなかったのだ。
戻って来て欲しいと懇願する婚約者だったが、アルティアはそれを拒絶する。
彼女にとって、婚約者も侯爵家も既に助ける義理はないものだったのだ。
「婚約を破棄したい」と私に何度も言うのなら、皆にも知ってもらいましょう
天宮有
恋愛
「お前との婚約を破棄したい」それが伯爵令嬢ルナの婚約者モグルド王子の口癖だ。
侯爵令嬢ヒリスが好きなモグルドは、ルナを蔑み暴言を吐いていた。
その暴言によって、モグルドはルナとの婚約を破棄することとなる。
ヒリスを新しい婚約者にした後にモグルドはルナの力を知るも、全てが遅かった。
どうやら私はラスボス魔王の娘に憑依したらしい。
枝豆@敦騎
ファンタジー
毒親から逃げ出して再出発しようとした矢先、電車の事故で死んだ私。
目が覚めるととんでもない美幼女に憑依していた。
しかも父親は魔族の王、魔王。
どうやらこの魔王もろくでもない親らしい……だけど私が憑依してからデレ期が発動したようで…。
愛し方を知らなかった魔王とその娘に憑依した私が親子になる物語。
※一部残酷な表現があります。
完結まで執筆済み。完結まで毎日投稿します。
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる