路地裏のマッチ売りの少女

黒蝶

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Until the day when Christmas comes.

第8話

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ー*ー
ベンが帰ったので、一呼吸おいて再びカムイに尋ねる。
「あの...カムイ」
「何?」
「その、『悪魔殺し』ってどういうことですか?」
「...」
(聞いてはいけないことだったのでしょうか?)
途端に不安になった。
「あの、話したくないのなら無理に聞きませんから」
「...とあるマフィアを、潰したんだ」
「マフィアを、潰す?」
ー**ー
隠していても仕方ないと思った。
(メルに嘘はつけない)
「うん。仕事で潰したんだ。ここよりも貧しい地域があってね、そこで搾取ばかりしているマフィアがいたんだ。だから見過ごせなくて...その組織の人間を全員捕まえたんだ」
「ええ⁉全員ですか?」
「うん」
俺は頷く。
「カムイはすごいです!本当に正義の味方ですね!」
「...そうでもないよ」
メルは目をキラキラさせている。
「じゃあ、私はずっと味方でいますね」
メルはニコニコして見上げてくる。
「ありがとう」
俺もつられて笑ってしまう。
「そういえば、カムイはどうして正義の味方になろうと思ったのですか?」
「それは...」
「すいません、先生いませんか⁉」
「ごめんねメル。仕事だ」
「あの、私にお手伝いできることは...」
メルは強い視線を向けてくる。
「お昼御飯、作ってくれる?」
「はい!」
メルははりきっているようだ。
「いってらっしゃいませ」
(いってらっしゃい、か...)
「うん、いってきます」
誰かにいってらっしゃいと言われたのは、いつ以来だろうか。
家に併設されている小さな医務室。
そこまで来てふと考える。
(『正義の味方になった理由』、か...)
ごめんね、メル。今は話したくない。
聞いたらきみはきっと、心を痛めてしまうから。
ー*ー
私はカムイが帰ってくるまで暇になってしまった。
(お掃除でもしましょうか)
そう思って立ち上がったとき、窓から見覚えのある顔が見えた。
「あれ?メル?」
(...眼帯をしなくては)
「ナタリーさん、こんにちは」
「あのさ、メル...。もしよかったら、目を見せてくれないかな?」
「眼帯をはずすということでしょうか?」
「うん。...ごめん。ベンが見たっていうからどうしても気になって...」
しまったとそこで気づく。
(ベンさんが来たときは眼帯をしていませんでした。でももし、ナタリーさんに怖がられてしまったらどうしましょう...)
「えいっ」
「あっ...」
迷っているうちにナタリーさんに眼帯をとられてしまった。
「...なんだ、とっても綺麗じゃない!」
「え?」
「勿体ないよ、こんなに綺麗な瞳なのに隠しちゃうなんて!」
「綺麗なんかじゃありません!」
(あ...)
私は思わず強く言ってしまった。
頭が真っ白になって、パニックになったその時だった。
「何勝手に人の家荒らしてるのかな、ナタリー?」
ー**ー
「カムイ...」
「...」
患者がこなくなったため少し帰ろうと思ったら、強い否定の言葉が聞こえた。
その先に行くと、本人が座っていたであろう椅子を壊して立ちつくしているナタリーと...眼帯をつけずに黙ってしまっているメルがいた。
何があったのかは大体想像がついた。
(あの手に握っているものは...)
「ナタリー、きみはメルから眼帯を無理矢理とった。そしてきみは思ったことを言った。その結果メルは否定した。...俺の見解、間違ってる?」
「いいえ、それで合ってるわ」
「あの、ナタリーさん...ごめんなさい」
メルが泣きそうな眼をしている。
「...別に怒ってないから」
(その態度は怒ってるだろ...)
「ナタリー、きみのその明るいお節介は長所であり短所だよ」
「どういうこと?だって綺麗だから綺麗って言っただけで、」
「...もしそのせいで、メルが辛い過去を背負っていたとしたら?」
「え?」
「あの、カムイ...」
メルが何かを言いかけたがそれを気にせず、更に言葉を続けた。
「メル、確かに強く言い過ぎたのはよくなかったね。だからメルは間違ってないよ」
「カムイ...」
「メルがいいなら、過去の話を聞いてもいい?」
「...はい」
それから俺たちは長い間話した。
メルが受けた暴力のこと、どうやって暮らしてきたのか...。
ナタリーの瞳から涙がこぼれ落ちる。
「ナタリーさん...?」
ー*ー
ナタリーさんは私を抱きしめた。
「ごめんね、メル!辛かったね、よく頑張ったね!大変だったでしょう?」
「...確かに大変だったのかもしれません」
寒い路地、私を殴り蹴るあの人、死んでしまったおばあさま...そして、怖い人たちに追われる日々。
(...でも)
「この数日、カムイやナタリーさんと出会えてとっても幸せです!一人じゃありませんでしたから、楽しかったです。はじめての事ばかりで、キラキラしていて...」
「メル...」
「だから私、今とっても嬉しかったです。この瞳を見たら、物を投げつけてきたりする人しか見てこなかったので。でも最近は綺麗だって言ってくださるからとても、とっても...」
胸がいっぱいで、これ以上言葉が出てこなかった。
「だから泣かないでください、ナタリーさん」
私より少し背が高いナタリーさんの頬を伝う涙を拭う。
そんな私たちを、カムイは何も言わずに見ていてくれた。
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