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Until the day when Christmas comes.
第2話
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ー*ー
(きっとあれは、夢だったのでしょう...)
そう思いながら目を開けると、隣の椅子で寝ている男性がいた。
(ゆ、夢じゃなかったのですか⁉)
ダークブラウンの髪がとても美しく見える、素敵な男性...。
「くーくー」
(イビキをかいてます...。私は早く、帰らなければ...)
...帰る?どこに?
もう帰る場所もなくなったのだと思うと、私の思考は停止した。
「ん...おはよう」
ふと視線を落とすと、男性が寝ぼけ眼で私をじっと見つめている。
「おはようございます...えっと、」
「カムイだよ。昨日少し話したんだけど...熱は下がったようだね」
「あ、はい!ありがとうございます、カムイさん」
カムイさんは少し戸惑ったように私の方を見る。
「『カムイ』でいいよ。さんづけなんてとんでもない。歳も二つしか変わらないから、敬語もやめて」
「えっと...分かりました、カムイ」
「敬語、はずれてないよ?」
「分かったです!」
カムイは黙りこんでしまう。
「あの...」
「...あはははは!きみは面白い子だね!いいよ、敬語をはずすのは少しずつにしようか」
「すいません...」
敬語でない話し方なんて、数年前以来だ。
すっかり忘れてしまった。
「...で?自分の名前は思い出せた?」
「いいえ、まだです...」
「そう...。ねえ、聞きたいことがあるんだけど...」
「なんでしょう?」
「きみのその眼は、生まれつき?」
ー**ー
「...?」
少女は首をかしげている。
(聞いちゃまずかったか)
「答えたくなかったら答えなくていいから...」
「ああ、失礼しました!いつもは、そのっ、布で隠しているのですが...生まれつきのものです」
彼女の眼は右目は艶やかな漆黒だが、左目は...美しい湖のようなアイスブルーだ。
「綺麗な瞳なのに、隠すなんてもったいない気もするんだけど...」
「怖い思いをしないためには、こうするしかないんです。蒼の瞳は化け物だって、父が言っていました...」
「...俺は、化け物だなんて思わないけど?寧ろ綺麗だと思う」
「う、嘘です!だって化け物の瞳は人を不幸にするって、お前なんか要らないって...」
「きみのお父さんがそう言ったの?...身体中にある痣も、そのせい?」
「...」
少女は黙ったままこくりと頷いた。
(酷なことを聞いてしまったな...)
今更ながら、俺は後悔した。
「大変だったろう...。よく頑張ったね」
俺は彼女を抱きしめ、頭をそっと撫でていた。
彼女の肩下くらいの長さの黒髪が、いつの間にか開いていた窓からの風になびく。
(しまった、女性になんて馴れ馴れしいことを...!)
「ごめん!」
そう言って離そうとすると、彼女が俺の背中から手を離してくれない。
「...もう少し、こうしていてもらってもいいですか?」
彼女の声は掠れていた。
ー*ー
よく頑張ったねなんて言われたのは、いつ以来だろう。
人に抱きしめられたのは?
人に頭を撫でられたのは?
...人の温もりを感じたのは、おばあさまがいなくなって以来だった。
「きみがいいなら、ずっとこうしているから」
「ごめんなさい、ごめんなさい...」
カムイは優しく頭を撫でてくれる。
私は涙をこらえきれなかった。
目を閉じると、少しだけ昔のことを思い出せた。
「...メル」
「え?」
「名前、思い出せました!私はメル、メルです!」
(おばあさまがつけてくれた、大切な名前...思い出せてよかったです)
ー**ー
「メル...いい名前だね」
「はい!」
にこにこしていて、どうやら彼女は...メルは、元気を取り戻せたらしい。
「メル、もしよかったらなんだけど...」
「...?」
「きみの居場所を、ここにしてもらえないだろうか?」
「それって、どういう...」
「メル、行くところがないならここに住まない?」
(きっとあれは、夢だったのでしょう...)
そう思いながら目を開けると、隣の椅子で寝ている男性がいた。
(ゆ、夢じゃなかったのですか⁉)
ダークブラウンの髪がとても美しく見える、素敵な男性...。
「くーくー」
(イビキをかいてます...。私は早く、帰らなければ...)
...帰る?どこに?
もう帰る場所もなくなったのだと思うと、私の思考は停止した。
「ん...おはよう」
ふと視線を落とすと、男性が寝ぼけ眼で私をじっと見つめている。
「おはようございます...えっと、」
「カムイだよ。昨日少し話したんだけど...熱は下がったようだね」
「あ、はい!ありがとうございます、カムイさん」
カムイさんは少し戸惑ったように私の方を見る。
「『カムイ』でいいよ。さんづけなんてとんでもない。歳も二つしか変わらないから、敬語もやめて」
「えっと...分かりました、カムイ」
「敬語、はずれてないよ?」
「分かったです!」
カムイは黙りこんでしまう。
「あの...」
「...あはははは!きみは面白い子だね!いいよ、敬語をはずすのは少しずつにしようか」
「すいません...」
敬語でない話し方なんて、数年前以来だ。
すっかり忘れてしまった。
「...で?自分の名前は思い出せた?」
「いいえ、まだです...」
「そう...。ねえ、聞きたいことがあるんだけど...」
「なんでしょう?」
「きみのその眼は、生まれつき?」
ー**ー
「...?」
少女は首をかしげている。
(聞いちゃまずかったか)
「答えたくなかったら答えなくていいから...」
「ああ、失礼しました!いつもは、そのっ、布で隠しているのですが...生まれつきのものです」
彼女の眼は右目は艶やかな漆黒だが、左目は...美しい湖のようなアイスブルーだ。
「綺麗な瞳なのに、隠すなんてもったいない気もするんだけど...」
「怖い思いをしないためには、こうするしかないんです。蒼の瞳は化け物だって、父が言っていました...」
「...俺は、化け物だなんて思わないけど?寧ろ綺麗だと思う」
「う、嘘です!だって化け物の瞳は人を不幸にするって、お前なんか要らないって...」
「きみのお父さんがそう言ったの?...身体中にある痣も、そのせい?」
「...」
少女は黙ったままこくりと頷いた。
(酷なことを聞いてしまったな...)
今更ながら、俺は後悔した。
「大変だったろう...。よく頑張ったね」
俺は彼女を抱きしめ、頭をそっと撫でていた。
彼女の肩下くらいの長さの黒髪が、いつの間にか開いていた窓からの風になびく。
(しまった、女性になんて馴れ馴れしいことを...!)
「ごめん!」
そう言って離そうとすると、彼女が俺の背中から手を離してくれない。
「...もう少し、こうしていてもらってもいいですか?」
彼女の声は掠れていた。
ー*ー
よく頑張ったねなんて言われたのは、いつ以来だろう。
人に抱きしめられたのは?
人に頭を撫でられたのは?
...人の温もりを感じたのは、おばあさまがいなくなって以来だった。
「きみがいいなら、ずっとこうしているから」
「ごめんなさい、ごめんなさい...」
カムイは優しく頭を撫でてくれる。
私は涙をこらえきれなかった。
目を閉じると、少しだけ昔のことを思い出せた。
「...メル」
「え?」
「名前、思い出せました!私はメル、メルです!」
(おばあさまがつけてくれた、大切な名前...思い出せてよかったです)
ー**ー
「メル...いい名前だね」
「はい!」
にこにこしていて、どうやら彼女は...メルは、元気を取り戻せたらしい。
「メル、もしよかったらなんだけど...」
「...?」
「きみの居場所を、ここにしてもらえないだろうか?」
「それって、どういう...」
「メル、行くところがないならここに住まない?」
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