路地裏のマッチ売りの少女

黒蝶

文字の大きさ
上 下
32 / 220
Until the day when Christmas comes.

第1話

しおりを挟む
ー*ー
「ごめんなさい、ごめんなさい!」
「なんでマッチが売れてないんだこの役立たずめ!」
おばあさまが死ぬまでは、こんな父ではありませんでした。
《人を妬んではいけないよ。努力しなさい...》
おばあさまが最後に私にそう言いました。
だから、今日も私は...
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「マッチはいりませんか...?」
風がふいていて、とても寒い。
誰かにマッチを買ってもらわないと、家に入ることが出来ない。
(全部売ったら、か...)
この時、マッチを必要とする人は多かったはず。
しかしながら、こんな寒い日にこんな場所にいるのは、だいたいがお金がない人たちばかり...。
(マッチは売れるのでしょうか?)
「学校のクリスマス会、楽しみだね!」
「そうね!」
(学校とは、どんな場所なんでしょうか?)
私はあいにく、学校に行ったことがない。
「あの、マッチを...」
「邪魔よ!」
私は突き飛ばされて転んでしまった。
「この路地裏、本当に貧乏な奴等ばかりなのね」
ゲラゲラと笑われた気がしますが、意味が理解できない。
周りはクリスマスだからかキラキラしていた。
私は心のなかでお願いした。
いい子にします。
ジングルベルもプレゼントも、温かい食事も諦めます。
だから私に...
(大切な居場所と、一緒にいてくれる人をください)
ー**ー
俺はこの日、たまたま路地裏を歩いていた。
「マッチを...」
(マッチ売りか、あとで買いに行こう)
そんな呑気に構えていると、どさっと音がした。
振り返ってみると、誰かが倒れている。
「大丈夫ですか⁉」
...恐らく歳は十五、六の娘だ。
そばに落ちていたのは、大量のマッチの箱だった。
(俺と二つしか変わらないくらいの子が、マッチ売りなんて...)
「居場所を...」
...流れ星にでも願っていたのだろうか?
何度も居場所やら一緒にいてくれる人やら言っていたが、身体がとても熱い。
(高熱か...)
俺はやむを得ず、目的地とは逆の場所に向かう。
ー*ー
「はあ、はあ...」
息が、苦しい。
額に、冷たいものが当たるのを感じた。
「まだだいぶ高いな...」
そんな声が聞こえた気がした。
(私も天国に行くのでしょうか...)
「...少し下がったな」
「ん...」
目を開けると、そこは見たことのない場所だった。
「あ、あの...」
「気がついた?ごめんね、家とか分からないから...俺の家に連れてきちゃった。それで、きみの名前は?」
《いいかい、人を妬んではいけないよ。努力しなさい...分かったね、ーー》
おばあさまに呼ばれていたけれど、思い出せない。
(おばあさまが死んだのはもう何年も前の事だし...それにあの人は、私をおまえと呼んでいました...)
「ごめんなさい、分かりません...」
正直に答えようと思った。
「え、分からないって?」
「ここ数年、呼ばれていなかったので...。歳は十六です」
「...そう。今まで酷い目に遭ってきたんだろうね...。あのマッチ、全部買うよ」
「え...?」
初対面なのに、どうしてそんなにも私を気にかけてくれるのか理解できなかった。
「俺はカムイ。きみは...熱が引いたら、もしかすると名前を思い出せるかもね」
「あの、マッチを買うって...」
「言葉のままの意味だよ。さあ、今は寝た方がいい。...おやすみ」
私はお礼を言えないまま、眠りについた。
ー**ー
暗くてよく見えなかったが、少女の瞳は恐らく...。
そのせいで虐げられてきたのだろうか。
(彼女の体調がよくなったら聞いてみよう)
この日は何も聞かず、俺は彼女のそばで看病しながらいつの間にか眠りに落ちていた。
しおりを挟む
感想 76

あなたにおすすめの小説

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

【完結】あなたを忘れたい

やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。 そんな時、不幸が訪れる。 ■□■ 【毎日更新】毎日8時と18時更新です。 【完結保証】最終話まで書き終えています。 最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

処理中です...