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病状
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「……っ、ごほごほ」
ここ数日、なんだかいつも以上に調子が悪いような気がする。
お客様を迎える為に万全な状態を保っておきたいのだが、残念なことにそうはいかないらしい。
「店長さん、大丈夫ですか?」
今は実雪さんが来店しているにも関わらず、逆に心配をかけてしまっている。
「俺は平気だよ。心配してくれてありがとう」
…いつまでなら店を続けられるだろう。
あれから1度だけ妖精がやってきて、魔女からの薬を置いていってくれた。
あまり飲んではいないが、感謝しなければならない。
「僕、また来ます!」
「ありがとうございました。世界から離れたくなったらまた来てね」
いつか彼女もここを必要としなくなる。
そうなったときがこの店を閉めるときだろうか。
…そこまで体をもたせられる自信なんてどこにもないが。
「…今日はもう店仕舞かな」
ふらつく足でなんとか扉に辿り着き、ぐったりと床に倒れこむ。
空はまだ茜色だというのに、本当に体力がなくなったものだ。
「…やっぱり大丈夫なんかじゃないじゃない」
「ああ、いらっしゃいませ。いつものものですか?」
「それは後でもいいから、一旦そっちに寝転がって」
妖精にも心配をかけてしまっては意味がないのに、本当に困った体だ。
よく見ると、不安げに揺れる瞳がもうひとり分あることに気づく。
「…小夜さん、いらっしゃいませ」
《大丈夫ですか?やっぱり、どこか具合が悪いんじゃ…》
「昔から体が強い方じゃないから、こういうこともあるんだ。掃除、欠かさず来てくれてありがとう」
小夜さんは相変わらず山の麓からここまで通ってきてくれている。
申し訳なく思いつつ、彼女が無事でいてくれることだけが唯一の救いだ。
《どのくらい悪いんですか?》
「未知数、かな。どうしてと言われると、これだと言えるのがなくて…」
少し咳きこんだだけなのに、口の中は鉄の味でいっぱいになる。
吐き気がするのを抑えつつ微笑んでみせたが、誤魔化しきれたかどうかは自信がない。
「…相当ね」
「いつから、知り合いになったんですか?」
妖精に小夜さん、そして魔女…この組み合わせは見たことがない。
「さあ、いつからかしら?でもまあいいじゃない。…相当無理をしてきたのね」
「ステラさん、いつもすみませんでした」
「私は構わないわ。あなたに助けられた身だしね」
留守番ひとつできないなんて、本当に何もできない役立たずだ。
そんなことを考えながら、ゆっくり目を閉じる。
「…この状態で動いていられるのは奇跡よ。覚えておいて」
魔女にそんなことを囁かれたような気がしたが、それを確かめる術はない。
ここ数日、なんだかいつも以上に調子が悪いような気がする。
お客様を迎える為に万全な状態を保っておきたいのだが、残念なことにそうはいかないらしい。
「店長さん、大丈夫ですか?」
今は実雪さんが来店しているにも関わらず、逆に心配をかけてしまっている。
「俺は平気だよ。心配してくれてありがとう」
…いつまでなら店を続けられるだろう。
あれから1度だけ妖精がやってきて、魔女からの薬を置いていってくれた。
あまり飲んではいないが、感謝しなければならない。
「僕、また来ます!」
「ありがとうございました。世界から離れたくなったらまた来てね」
いつか彼女もここを必要としなくなる。
そうなったときがこの店を閉めるときだろうか。
…そこまで体をもたせられる自信なんてどこにもないが。
「…今日はもう店仕舞かな」
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「…やっぱり大丈夫なんかじゃないじゃない」
「ああ、いらっしゃいませ。いつものものですか?」
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よく見ると、不安げに揺れる瞳がもうひとり分あることに気づく。
「…小夜さん、いらっしゃいませ」
《大丈夫ですか?やっぱり、どこか具合が悪いんじゃ…》
「昔から体が強い方じゃないから、こういうこともあるんだ。掃除、欠かさず来てくれてありがとう」
小夜さんは相変わらず山の麓からここまで通ってきてくれている。
申し訳なく思いつつ、彼女が無事でいてくれることだけが唯一の救いだ。
《どのくらい悪いんですか?》
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少し咳きこんだだけなのに、口の中は鉄の味でいっぱいになる。
吐き気がするのを抑えつつ微笑んでみせたが、誤魔化しきれたかどうかは自信がない。
「…相当ね」
「いつから、知り合いになったんですか?」
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「ステラさん、いつもすみませんでした」
「私は構わないわ。あなたに助けられた身だしね」
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そんなことを考えながら、ゆっくり目を閉じる。
「…この状態で動いていられるのは奇跡よ。覚えておいて」
魔女にそんなことを囁かれたような気がしたが、それを確かめる術はない。
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