クラシオン

黒蝶

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大失敗作

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自分で自分を完全に否定しまうほど、目の前の少女は追い詰められている。
自分なんか何をしても仕方ない、普通に近づけないと思うと更に落ちこんでしまう。
「私は人より劣っているものばかりで、何も持っていないんです。
恥ずかしいから人前に立つな、何もできない無能なんだからって…。そんなこと、自分でも分かってます。
だけど、醜ければ何をしても無駄になるならやる意味ありますか?」
彼女はきっと何をしても見向きもされなかったのだろう。
或いは、何をやっても褒められなかったのか…どのみち残酷だ。
「…なんて言っちゃったら駄目なことは知ってるんです。みんな平等に頑張っているんだから、私だってやらないと…。
だけどもう、生きていたって仕方ないんです。運動神経は悪いし勉強をしても1番にはなれない。どこまでいっても失敗作なんです。…もう生きていたって意味がない。ただ辛いんです」
目の前の少女は、頑張り過ぎで壊れようとしている。
誰かがそれでいいと言ってくれなければ、どんなに頑張っていたとしても努力しているかどうかなんて自分では分からない。
にも関わらず、彼女はずっと否定され続けてきたのだ。
それがここに辿り着いた理由で、自分だけでは同仕様もなくなってしまった思いなのだろう。
辛いと涙を零す彼女相手に何ができるだろうか。
「たとえばあなたは、どんなことをしてきたのか自分なりに理解していますか?」
「…どんくさくてよく転びます。それから、勉強はいつも1番になれません。醜いからもてないし、友だちもいません。
…結果が出てないのは、何もしていないのと同じでしょう?」
「あなたにとって、勉強で1位を取るのは命より大切ですか?」
「だって、1位じゃないと褒めてもらえないんです。ただでさえ優秀な人が近くにいるのに、勝たないといけないんです」
自分の駄目なところを探しがちな完璧主義…それも彼女を苦しめているものかもしれない。
「1位でなくてもいいと思います。誰に認められなくても、結果を残せているということですから。…上1桁の成績なら、そんなに悩む必要があるでしょうか」
「どうしてそれを…」
「あなたの鞄からはみ出しています」
そのテストの結果用紙には、1268人中3位と書かれている。
「こんな順位、本当に恥ずかしい…」
誰からも肯定されなければ、それがどれだけすごいことかなんて分からないだろう。
それなら今すぐできるのは、彼女がマイナスに考えている部分の中でプラス転換できるものを探すだけだ。
「恥ずかしくなんかありません。その順位と点数は、とてもすごいものなんです」
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