クラシオン

黒蝶

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号泣

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「そんな言葉、誰にも言われたことがありませんでした」
少女は淡々と告げるが、目が潤んでいるように見える。
「君の周りが誰も言わないなら、俺が何度だって言うよ。ご飯を美味しそうに食べてくれて、挨拶ができて...ノートがそんなにぼろぼろになるまで必死に勉強ができる。
それってかなりすごいことだと思うんだ」
「...誰でもできることではないんですか?」
何故分かったのかという表情を見せていたが、やがて全てを察したように平静を装う。
鞄からはみ出さんばかりに入っている大量のノートには、英単語に漢字に数式...他にも勉強した跡が沢山あった。
そんなふうに頑張ることは、誰でもできることではない。
「周りに言ってもらえないと分からないことって沢山あると思う。大丈夫、頑張ってるって誰かにそんな言葉をかけてもらえたら...多分俺も嬉しい。
君は必死にもがいてる。直接言わなくてもそう思っている人がきっといるから、何も取り柄がないなんて言わないで」
自分の為だろうと誰かの為だろうと、それだけで充分すごいことなのだ。
伝えきれたか心配になっていると、彼女は大きな声をあげて泣きはじめた。
まるで溜めこんでいた全てを吐き出すように、少しずつ思いをぶちまける。
「私は、あの人たちに認めてほしかった。私の方を見てほしかった。
テストでいい点をとっても、作文コンクールで賞をもらっても駄目で...もう何をしたらいいのか分からない!何を求めているのか、全然...」
彼女は認められたい一心で頑張ってきたのだろう。
それなのに関心は一切向けられず、大切な人を失ってからは孤独に育ってきた。
それはとても悲しいことだと思う。
「だけど今日、あなたに認めてもらえました。だからもう、大人に対する期待は捨てます。
...特にあの人たちに対するものは捨ててみせます。それで、私だけは私自身を否定しないように頑張ります」
少女の笑みには黒いものが滲んでいたが、それだけ覚悟を感じる。
「君が生きたいようにやってみて。きっとそれで、前に進んでいけるから」
ポケットの砂時計を確認すると、砂が完全に落ちきっていた。
恐らくあの少女はしばらくはやってこないだろう。
必死にもがいてあがいている最中の彼女を応援したい。
「...よかった、なんとか耐えられた」
やはり薬の効きが悪くなってきているのか、痛みがはしるまでの時間が短くなっている。
『──はやっぱりすごいね。次のお客様がきたら、店に立ってもらおうかな』
...やっぱりあなたがいないと意味がないんです。
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