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人とは違うもの
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食器を磨きながら、先日のささやかなパーティーを思い出す。
あれは本当に楽しかった。
小夜さんもそう思ってくれているといいが、直接訊く勇気はない。
そうこうしているうちに、からんころんと扉が開かれる。
「いらっしゃいませ。お好きな席でお待ちください」
その少年はこちらに一礼して、ゆっくり入ってくる。
すると、その後ろからすごい形相で追いかけてきているものがいた。
「...少々お待ちください」
一旦扉を閉め、思いきり殺気を放つ。
ただ、相手にこちらが見えていなかったのか何もおこらなかった。
...或いは、多少なりとも効果があったということだろうか。
「お客様、お待たせいたしました。アレルギー等はございませんか?」
彼が頷いたのを確認して、調理を進めていく。
あまり話したがらない物静かなお客様なのか、一言も口にしなかった。
...それとも、あれが見えていたのだろうか。
「「あの」」
話そうとすると、物凄くタイミングが悪くなってしまった。
「申し訳ありません。どうかされましたか?」
「あ、えっと、その...あなたには、さっきのが視えていたのか気になったんです。もし変なことを言っていたらごめんなさい」
「...いや、丁度俺も同じことを訊こうとしていたところです。
あれは少し悪戯好きなものなので、あなたを追いかけていたのは恐らく遊びだと思います」
「そう、だったんですか...よかった」
この反応、やはり先程のあれが視えていたようだ。
滅多に人間の目にうつるものではないはずだが、本気で追いかけられて怖かったのかもしれない。
「悪いことをしたわけではないのであれば、本気で呪ったり襲ったりはしてきません」
「麓で目があっただけで、何もしていないんです。ただ、悪いものだったら住んでるアパートに迷惑がかかると思って...」
彼はとても優しい心の持ち主だ。
先日やってきたお客様方が話していたように、凶暴な人間もいるとは思う。
だが、それではやはりここには辿り着けないのだ。
「どんなことがあったか、お話を窺ってもよろしいでしょうか?」
「俺の話、ですか?」
「できればお願いします」
強引に訊いてはいけないと分かってはいるが、少年の表情は疲れきっている。
『辛い気持ちや経験を抱えている人たちに笑顔になってほしい...そういう思いでこの店をはじめたんだ』
そんな話も知っているからこそ、彼の話もしっかり聞きたい。
「先に飲み物をお持ちしますね」
「あ、ありがとうございます」
紅茶を一口飲んだ後、彼はゆっくり話しはじめた。
「...俺は、昔から人とは違う世界が視えていたんです」
あれは本当に楽しかった。
小夜さんもそう思ってくれているといいが、直接訊く勇気はない。
そうこうしているうちに、からんころんと扉が開かれる。
「いらっしゃいませ。お好きな席でお待ちください」
その少年はこちらに一礼して、ゆっくり入ってくる。
すると、その後ろからすごい形相で追いかけてきているものがいた。
「...少々お待ちください」
一旦扉を閉め、思いきり殺気を放つ。
ただ、相手にこちらが見えていなかったのか何もおこらなかった。
...或いは、多少なりとも効果があったということだろうか。
「お客様、お待たせいたしました。アレルギー等はございませんか?」
彼が頷いたのを確認して、調理を進めていく。
あまり話したがらない物静かなお客様なのか、一言も口にしなかった。
...それとも、あれが見えていたのだろうか。
「「あの」」
話そうとすると、物凄くタイミングが悪くなってしまった。
「申し訳ありません。どうかされましたか?」
「あ、えっと、その...あなたには、さっきのが視えていたのか気になったんです。もし変なことを言っていたらごめんなさい」
「...いや、丁度俺も同じことを訊こうとしていたところです。
あれは少し悪戯好きなものなので、あなたを追いかけていたのは恐らく遊びだと思います」
「そう、だったんですか...よかった」
この反応、やはり先程のあれが視えていたようだ。
滅多に人間の目にうつるものではないはずだが、本気で追いかけられて怖かったのかもしれない。
「悪いことをしたわけではないのであれば、本気で呪ったり襲ったりはしてきません」
「麓で目があっただけで、何もしていないんです。ただ、悪いものだったら住んでるアパートに迷惑がかかると思って...」
彼はとても優しい心の持ち主だ。
先日やってきたお客様方が話していたように、凶暴な人間もいるとは思う。
だが、それではやはりここには辿り着けないのだ。
「どんなことがあったか、お話を窺ってもよろしいでしょうか?」
「俺の話、ですか?」
「できればお願いします」
強引に訊いてはいけないと分かってはいるが、少年の表情は疲れきっている。
『辛い気持ちや経験を抱えている人たちに笑顔になってほしい...そういう思いでこの店をはじめたんだ』
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「先に飲み物をお持ちしますね」
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「...俺は、昔から人とは違う世界が視えていたんです」
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