クラシオン

黒蝶

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Breaktime『お菓子をくれないと...』

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「小夜さん、よかったらこれをやってみない?」
最近仕事にかかりきりになってしまっていたこともあり、彼女とあまり話せていなかった。
そこで、たまたまお客様がいらっしゃらなかったこの日にちょっとしたイベントの真似事をやってみようと思ったのだ。
「嫌だったらいいんだけど...」
彼女は少し慌てた様子で何かを書いている。
《それは、この前作った飾りに関係しているものですか?》
「そうだよ。これはハロウィンっていうものに関わる飾りつけで...」
先日手伝ってもらったお礼という意味もこめて、少しやってみたかった。
あの人以外の誰かと一緒にやる日がくるとは思っていなかったが、初めてのことなので楽しくて仕方がない。
「キッチンにあるものを好きに使っていいから、自分が作りたいものを作ってね」
ここのところこんな昼間からお客様がやってくることはほぼない。
それならば、この時間にささやかなパーティーを開いてもいいだろう。
色々なことを考えながらてきぱきとお菓子を作り上げた。
一応砂時計も確認したが、微動だにしていない。
「お待たせしました。カボチャクリームのケーキです」
《美味しそうですね。私はクッキーにしました》
少し時間がかかっているので心配だったが、それなら焼く時間がかなりかかったのだろう。
両手をあわせて一口囓ると、中からとろっとカボチャクリームがはみ出した。
「美味しい...。これ、どうやって作ったの?」
《中がとろとろで固まるように、オーブンを調節しました。それから生地に...》
まさかそんな作り方があるとは思っていなかった。
...いや、そこまで考えついていなかったと言うべきか。
「俺、こういうの好きなんだ。もしよかったら、また今度作ってくれる?」
首を縦にふる小夜さんにほっとしつつ、自分のケーキの焼き加減を確認する。
なんとか上手くできていて、彼女にも喜んでもらえた。
「ああ...そのプレートには英語で、《お菓子をくれないといたずらしちゃうぞ》って書いてあるんだ」
《初めて知りました。とても楽しかったです》
「こちらこそありがとう」
いつも世話になってばかりで申し訳ないが、彼女と過ごしているとあの人のことをよく思い出す。
何故かは分からないが、ものすごい勢いで思い出してしまうのだ。
どうしても過去に縋りたくなる日もある。
キッチンを片づけながら、また昔のことを思い出していた。
『なんだ、──もお菓子を持ってたのか。それなら、俺のと交換して...これでよし。
また時間があるときにやろうね、こういうの』
...俺はそのことも、あなたとの約束だと思っています。
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